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1937年、ユダヤ人の少年ユージン(佐藤勝利/Sexy Zone)の視点で描かれる家族の物語『ブライトン・ビーチ回顧録』は、ブロードウェイのコメディ作家ニール・サイモンの自伝的舞台だ。大家族を養うには十分な収入を得られない人々が暮らすブライトン・ビーチで、作家を夢見る少年が記す「回顧録」には、大好きな野球、性への興味と戸惑い、父・母・兄との関係……思春期の少年のみずみずしい感性によって、懐かしく、温かい日々が生き生きと映し出される。7人の俳優による濃密な舞台は、2021年9月18日(土)に東京芸術劇場プレイハウスで幕をあける。

川島海荷が演じるのは、ユージンが憧れるいとこのノーラ。ブロードウェイの演出家に呼び出されて「女優になる」と言う、強気で、心の優しい少女だ。少年の目を通して見えるノーラに、どう息を吹き込んでいくのか。初日までもう一週間という頃、役作りや稽古のようすを聞くと、熱のこもった丁寧で明確な答えが返ってきた。

(撮影:増田彩来)

(撮影:増田彩来)

 

■リズム感、スピード感、そして“ユーモア”を楽しんでほしい

──本番前1週間(取材時点)。今の心境は?

もうあと1週間、という感じがしないですね。みんなと「まだずっと稽古していたいね」と話しています。でも1か月以上稽古の時間をとっていただいたので、しっかり突き詰めてはいるんですけど、なにせ7人全員がほぼ出ずっぱりなので、パズルのような感じでそれぞれの動きや立ち位置や台詞を組み合わせています。ひとつひとつ丁寧に作りこんできました。

──1か月稽古をしてきて、演じるノーラという役への印象の変化は?

最初に読んだ時は、16歳だという先入観があって、子どもとして考えていたんです。でも稽古を重ねるごとに、ノーラって大人っぽくて自立した子なんだなと思いました。大人とも対等に話そうとするし、考え方もしっかりしていて、私が思い描いていた16歳とは違いましたね。

──たしかに、登場人物それぞれが問題を抱えているなかでも、ノーラは自分の意思がはっきりしていて他人を思いやっているところもありますね。

そうですね。16歳の頃って自分のことに必死だったり、やりたいことを自分の視点でしか考えていなかったんですけど、ノーラは家族のことやお母さんのことを思って「誰かのために」という気持ちがすごく強い。良い意味で子どもっぽくない。だから「16歳だから」というふうに考えるのはやめました。

(撮影:増田彩来)

(撮影:増田彩来)

──1週間前の今、力をいれてつくっているところや課題は?

スピード感と集中力ですね。自分が話していないシーンでも舞台上にいたり、芝居が続いていたりするんです。たとえば家の外の人が話していると、家の中ではしゃべらずにパントマイムみたいに動くシーンもあって舞台にいる時間が長いので、集中力は切らさないようにしていきたいです。

あと、ニール・サイモンのこの戯曲は台詞量がすごく多くて、しかも畳みかけるような会話劇なので、テンポよく進んでいく。そのリズム感やスピード感を大事にみんなで作り上げています。台詞自体はユーモアがあって、ちょっと憎たらしいけどクスッと笑えたりと、よくできた本だなと思います。

──現代の日本ではあまりしない言い回しも出てきますね。

回りくどいといえば回りくどいんですよね(笑)。ふだん使わない言葉がけっこうあって、解釈がそれぞれ違う。たとえば「不安になっているのかな?」と私が思う台詞でも、演出のなかで「自分を曲げないで強く言っていい」と言われることもありました。でも比喩的な会話はそれがニール・サイモンのユーモアだと思うので、そこを楽しんでもらえるようにちゃんと作りこんでいきたいですね。

(撮影:増田彩来)

(撮影:増田彩来)

 

■子ども役だけで集まった『プレ稽古』からスタート

──稽古場の様子はいかがですか?

同じ日がないんですよ! 毎日違う。「こういうやり方もあるよね」とみんなで試してみています。稽古場は失敗していい場所だから、とはよく言われますが、まさにみんなで新しいことにトライしながら作っています。

──最後の1週間でいろいろ変わるとは思いますが、今の時点で、この演劇の面白さはどう感じていますか?

やっぱりテンポ感と、台詞に隠されたユーモア。あと、登場人物はみんな必死なんですけど、無我夢中で目の前のことに向き合っている姿って面白いし、切なくもある。登場人物それぞれやりたいことが明確なのに、本人達はかみ合わない。その様子を客観的に見ると、面白いです。

──気に入っているシーンや台詞はありますか?

食卓のシーンかな。好きなんですよ。ちょっとミステリーみたいな流れになっていて、それぞれの思惑が入り乱れ、それでも食事は進んでいく。しかも「メニューどうする?」みたいなくだらない理由で揉めていたりするのも面白くて。演じている方はちょっと大変で、どうすれば食器の準備がスムーズにできるか、とパズルのように動きを組み合わせるんです。「こういうふうに動いたらぶつからないよね?」と何回も話し合いながら改善して、でも改善するとまた問題が発生して……。7人が同時に動くので、演出の小山(ゆうな)さんもすごく大変だと思います。一人ずつ不自然がないようにしないといけない。でも最近、ようやくピースがはまってきました。

(撮影:増田彩来)

(撮影:増田彩来)

──小山さんの演出はいかがですか?

内側から作ってくださるのでありがたいですね。稽古が始まる前にも『プレ稽古』というものがあって、子ども役だけで集まったんです。姉妹同士、兄弟同士、それぞれの関係性や、「どういう子だと思う?」と深める時間がありました。台詞を読む前にまず、その人がどういう人で、どんな生活をしてきたのかなどを分析する。時代は大不況であることなど背景についてもお話してくださって、だから生き生きとキラキラとしてほしい、と内面から埋めていってくださったので、私自身も想像が膨らみました。ノーラをいう役を、台本から理解するだけでなくひとりの人間として親近感がわくようになったと思います。先に子ども役だけで集まったことで、大人役の方々と合流した時も安心感がありました(笑)。

──役づくりや言葉の解釈は、稽古場ではどのように深められているんでしょう?

ディスカッションの時間は多いですね。実践的にずっとお芝居の稽古をしているというよりは、みんなで「この役の人はこういう気持ちだよね」とか「この人とこの人はこういう関係だよね」と脚本の読み込みをします。舞台セットの裏には、家族が暮らす家の周りがどんなようすなのかわかるようにブライトン・ビーチの写真が飾られたりもしています。ほかにも台詞のなかに出てくる当時の俳優の写真や、アメリカのお菓子の絵とか、登場人物はユダヤ人なのでユダヤ人の子ども達が描いたといわれるイラストとか、そういったイメージを膨らませられるものを飾っています。それによって、より入りこめますね。

──イメージも膨らむし、そのイメージを全員で共有することができますね。特徴として、この作品は主人公のユージンが書いた『回顧録』であり、登場人物たちはすべてユージンの主観で描かれています。自分の役がどういう人間かということと、自分の役がユージンからどう見えている人物か、ということのバランスをとらなければいけないような気がしますが?

それについては小山さんも「あくまでもユージンから見た視点だ」とおっしゃっていました。だからこそキャラクターの個性がはっきりしていて、ユージンからはこう見えているんだなという特徴が立っている、と。とくにユージンのお母さん(松下由樹)は、彼にとっての理想の母親として描かれている。だからこんなに劇的で、それぞれの個性がしっかりした物語なんでしょうね。キャラクターが明確なぶん、「演じるにあたって躊躇しなくていいんだ。はっきりやっていいんだ」と割り切れました。観ている方は、ユージンの書いた回顧録から家族を覗いている気持ちになると思います。

──大人になって子ども時代を振り返る懐かしさがありますね。

思春期の気持ちになりますよね(笑)。「こんなこともあったなぁ」って笑えたり、「こういう勢いもあるよな」って懐かしくなっていただけるんじゃないかな。ノーラも母親とすこし距離がありますけれど、結局は甘えたいとか寂しいという気持ちがある子ですし、家族の関係性にも共感しやすい作品だと思います。

(撮影:増田彩来)

(撮影:増田彩来)

 

■距離はあっても、お互いを思いやれる関係を

──コロナ禍での稽古は大変だと思いますが、幕があくのを楽しみにしています。

こんな時期ですから距離をとらなければいけないけど、いろんな話をしていくなかで心の距離は縮まっているのを実感しています。すごく和やかな稽古場なんですよ。

──登場する家族たちもまた、それぞれに距離はありながらも互いのことを思って繋がっていますね。

まさに、ですね。コロナ禍だからこそのメッセージも受け取ることができるかもしれませんし、観てくださった方の心に良い影響を届けられたらいいですね。私自身もおもいきり舞台に挑戦して、怖がらず、16歳の勢いを持って頑張りたいです。

──ノーラ自身、家を出てブロードウェイに行きたいという大きな未来に向かおうとする役ですしね。

そうですね。ノーラは迷いのない、力強い子なので、そのパワーと集中力を自分も出さないといけないなと思っています。あとはなにより人と人との関係性を大事にしていきます。ぜひ、どんな作品になったか観ていただきたいです。

(撮影:増田彩来)

(撮影:増田彩来)

取材・文=河野桃子