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トラヴィス(Travis)の音楽は癒しだ。彼らのライブはどんな時も、何度観ても温かな気持ちを抱かせてくれる。さらには、そうした思いを持っているのは自分ひとりではないとわかる景色――まるで満開に咲き誇る花々のようなオーディエンスの笑顔――を見ることもできる。彼らの音楽とともに時を過ごした人々の波間には、穏やかで優しい空気が流れる。そこに自分の心身をどっぷりと浸すと、心の芯まであたたかくなる。人間が有する喜怒哀楽の感情を本人も気づかぬ間に引き出し、自然と涙が流れ、笑みがこぼれ、その場にいるすべての人をやわらかに包み込む。そんな壮大な音楽空間を毎回創り上げられるバンドはそういない。これこそがトラヴィスのライブの最大の魅力だ。

彼らの音楽に出逢ったのは2006年のこと。イギリスのロンドンで同じスクールで共に学んでいた友人から手渡されたのが「Flowers In The Window」だった。当時、ある出来事からイギリスに来た意味さえも見失うほど狼狽し、疲弊していた日本人クラスメイトを見るに見かねたスペインの紳士が「ほら、前を向いて!」という言葉とともに応援歌として渡してくれたのだ。

以前からトラヴィスのことは知っていたが、音源をしっかりと聴いたことはなかった。当時のイギリスは、カサビアン(KASABIAN)、アークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)などが台頭してきた頃で、翌年のグラストンベリー(『Glastonbury Festival』)はアークティック・モンキーズが結成後わずか数年でヘッドライナーを務めて話題になっていたような時代。トラヴィスはすでにイギリスの国民的バンドになっていて、自身のショーはもちろんのこと、各地のフェスにも精力的に出演していた。

トラヴィスのライブを初めて観たのは2007年3月20日、ロンドンのカムデン・タウンにあるKOKOという、わりと小さなヴェニューだった。『The Boy With No Name』のリリースを控えていた彼らは新曲も織り交ぜたセットリスト。新譜のタイトルの由来でもある生まれたばかりの息子の話をしていたボーカルのフランの緩んだ表情からは、子に恵まれた彼の喜びの大きさがストレートに伝わってきて、なんと素直なことかと感動したのを覚えている。それから15年、彼らがライブを行うと知ればチケットを手に入れて当日を心待ちにするというのを繰り返して今に至る。

これまで観た彼らのライブで最も印象的だったのは、2008年の『フジロックフェスティバル』でのワンシーンだ。その年は日英修好通商条約の調印から150年目ということもあり、アンダーワールド(Underworld)、プライマル・スクリーム(Primal Scream)、カサビアン、ブロック・パーティー(Bloc Party)、ザ・ミュージック(The Music)、エイジアン・ダブ・ファウンデイション(Asian Dub Foundation)などのイギリス勢が数多く出演。そんな中、トラヴィスは雨が降り出したグリーンステージで演奏していた曲を中断し、「Why Does It Always Rain On Me?」を披露した。

 

雨の『フジロック』での雨歌というシチュエーションはこの年以外にもあったけれど、あの日はちょっと違っていて、神がかっていた。バンドの奏でる音楽、取り囲む自然、耳を傾けるオーディエンス。あの日のあの場所でしか生み出されることのない3つの融合によって生まれた多幸感は途轍もなく大きなもので、3万人を収容する広大な『フジロック』のメインステージエリア全体を包む込むほどだった。ショーに酔いしれたオーディエンスのあふれる笑顔と色とりどりのレインウェアが幸せそうに揺れ、同じ音楽を愛する人たちとの一体感を味わう喜び。「多幸感」という言葉をワンシーンでしか使えないならば、私はあの日のあの瞬間を示すだろう。

そんなトラヴィスが、5年ぶりに来日する。10月11日大阪・NAMBA HATCHを皮切りに、12日名古屋・DIAMOND HALL、14・15日には東京 EX THEATER ROPPONGIで開催される『TRAVIS JAPAN TOUR 2022』は、2001年にリリースした3rdアルバム『The Invisible Band』の20周年エディションとグレイテスト・ヒッツを加えたライブになるとのこと。結成25年となる彼らの集大成として繰り広げられるライブでは、一体どれほどの幸福感を得ることができるのだろうか。

アルバム『The Invisible Band』には、冒頭で触れたトラヴィスの代表曲「Flowers In The Window」をはじめ、「Sing」、「Side」などの名曲が収められている。こうした色褪せない作品の数々がライブでより輝きを増すのはアルバム・タイトルである『見えないバンド』が答えなのだろう。自分やバンドを見てほしいのではなく、自分たちの音楽を聴いてほしいという真摯な姿勢でバンド活動を25年間続けてきたトラヴィスだからこそ創造できる、美しくて優しい壮大な音楽空間は、コロナ禍で、或いは違った理由で疲れてしまった心をきっと癒してくれるはずだ。この機会を逃すことなくぜひ体感してほしい。

文=早乙女‘dorami’ゆうこ