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上質な作品作りで注目を集めるconSeptの最新作、ミュージカル『SERI〜ひとつのいのち』。ニューヨークで暮らす親子の実話『未完の贈り物』を原作に、障がいを抱えて生まれた少女・千璃が感じたかも知れない事に想像を巡らせ、夫婦の葛藤や多くの苦しみから育まれた愛、命が教えてくれるきらめきを、生演奏に乗せて紡ぐオリジナルミュージカルだ。

脚本は、翻訳家として多くの名作に携わる一方、日本オリジナル作品の脚本でも注目を集める高橋亜子。音楽はconSeptのオリジナル作品でも高い評価を受けている桑原まこ。そしてconSept作品に振付家として参加してきた下司尚美が、自身初となるミュージカルの演出を手掛ける。タイトルロールの千璃を演じるのはミュージカル初主演の山口乃々華。彼女を深く愛する母親役を奥村佳恵、父親役を和田琢磨が務め、幅広いジャンルで活躍する実力派が脇を固めた。初日に先駆けて行われた会見とゲネプロの様子をお届けしよう。

――まずは初日を迎えた心境をお聞かせください。

山口:すごくドキドキしていて緊張しますが、早く皆さんに観ていただきたいというワクワクも強いです。緊張するタイプなので、こういう気持ちになるのは初めてですね。今回は時間をかけて丁寧に稽古してきたので、早く観ていただきたい気持ちでいっぱいです。

奥村:お客様にやっとお届けできると思うとすごく嬉しいです。稽古でやってきたことを信じて演じたいです。

和田:家族の話で、とてもあたたかい作品に仕上がりました。多くの人にこの座組みの雰囲気を感じ取っていただきたいですし、千璃の生き様を知ってほしいので開幕が楽しみです。

――本作で観てほしいポイントを一つ挙げるとしたらなんですか?

山口:今回は無言劇があります。マイムを通して日常の匂いや空気感を伝えるシーンに注目してほしいですね。

奥村:シーンではないんですが、スタッフさんを含めたチームワークを見てほしいです。全員が持てる力を全て出しています。

和田:千璃ちゃん役の山口さんの身体表現ですね。袖から見ていても感動しますし、言葉がなくても彼女の想いや生きることに対する情熱が伝わってくるので注目してほしいです。

――本作のテーマに絡めて、みなさんが最近周りの方からの愛を感じた出来事はなんですか。

山口:私が稽古中に花粉でやられて喉を痛めかけた時、佳恵さんが稽古の合間にありったけの飴をくれました。溢れんばかりの愛みたいなものを感じました。

和田:僕はこの質問をいただいた時に、何かあるか純米さんに聞いたんです。そしたら全員が集合しているときに僕だけいなくて、みんなが「琢磨ならいいか」ってなった……という話を教えてくれたんですが、これは愛なんでしょうか?

山口:それでいいんですか(笑)? 他に色々エピソードありますよね。皆さん、和田さんのおもしろギャグで笑ってますし。

奥村:常にみんなに笑顔を与えてらっしゃいます。

和田:皆さんがにこにこしてくれることに愛を感じます。

奥村:私は常に。この座組みはスタッフさん含めて皆さんいい人揃い。作品的には大変なタイミングもあったけど、みんながみんなのことを思いやってベストを尽くして稽古に向き合っていました。

――最後に、観にくる方へのメッセージをお願いします。

山口:この作品が伝えているのは、人との支え合い、愛されているからこそ自分が存在できること。最初と最後の楽曲のサビの歌詞など、教訓として持って帰ってもらえるような、素敵なメッセージが詰まった作品となっています。ぜひ観に来ていただけたらと思います。

続いて、ゲネプロの模様を紹介する(舞台写真、ネタバレあり)。

 

※以下、ゲネプロの写真とネタバレあり。

 

<あらすじ>

ニューヨークで暮らす美香と丈晴は子どもを授かった。初めての子に千璃と名付け、未来への希望と夢を膨らませる二人だったが、生まれた子どもには両眼とも眼球がなかった。絶望し途方にくれる夫婦。母である美香は自身を責め、周りの目を気にし、意思疎通がままならない娘に困惑し、疲弊していく。ある日、思い詰めた美香はマンハッタンのマンションの屋上から千璃とともに身を投げようとする。しかしその時、屋上から見下ろしたある情景を耳にした千璃が初めて笑う。初めて見た娘の笑顔に、美香は“この子と生きていこう”と強く誓う。だが、その決心の先には終わりの見えない手術、夫婦のすれ違い、法廷闘争といった想像を絶する難題がいくつも待ち受けていた――。

 

物語がスタートすると場内が真っ暗に。その中で、足音やボールを転がす音、布を勢いよく広げるような音など、様々な物音が聞こえてくる。千璃がどんな世界を感じて生きているのか正確に理解することはできないが、近付くためのきっかけを与えてくれる。

奥村は、千璃の誕生によって一変してしまった母・美香の生活や人生を繊細に演じる。子育ての中で思い詰めていく様子は見ているだけで辛くなるほどの切実さを感じさせる。我が子の誕生を周りの人たちにも祝福してほしい、可愛いと思ってほしい。ささやかな願いの前にすら高いハードルがあることに嘆く美香の姿に胸を締め付けられた。そして、千璃の笑顔を目にしてともに生きていく決意をし、あらゆるものと闘おうとする強さと深い愛情と強さに心を打たれる。

父・丈晴を演じる和田も、千璃との向き合い方や考え方の違いからすれ違ってしまう彼の苦悩を丁寧に見せる。明るくふるまい、千璃を思いやる姿はあたたかく、ほっと和ませてくれる場面も多い。時には空回りしたり、美香とぶつかったりしながらも家族を支え守ろうとする彼を応援したくなった。

千璃役の山口は、全編を通して強烈な存在感を放ち、豊かな感情を見せてくれる。身体を通して彼女が感じているだろう不安や喜びといった思い、成長を鮮やかに伝える表現力に魅了された。セリフがほとんどないぶん表情や動きから感じとれるものが大きく、彼女の個性と魅力がストレートに届く。

家族の物語であると同時に、社会の仕組みや私たちの姿勢についても改めて考えさせられる。裁判の相手である産婦人科医・オオクボの意見も全くの間違いとは言えないだろうし、裁判を担当した弁護士やメディエーターにもそれぞれの立場や思いがある。どの視点に立つかで見え方は変わり、そのどれもが正解とも間違いとも言えない。千璃をはじめとする障がいを抱える人に限らず、他者にどう向き合い、どう関わっていけばいいのかという問いかけが、実話をもとにしたフィクションだからこそのリアルな重みを持って提示される。

だが、重いテーマを扱っていながら、見終えた時に残るのは爽やかな後味とあたたかさだ。まっすぐに力強く生きる千璃の姿、美香と丈晴の深い愛情から命や家族の素晴らしさを受け取ることができる。

また、家族3人の生き様や変化を丁寧に描く脚本・演出とキャスト陣のパフォーマンスに生演奏がさらなるパワーを与え、多くのメッセージを届けてくれる。力のある歌詞を際立たせるミュージカルナンバーはもちろん、緊張感のある瞬間や穏やかな日常を彩るインストやSEもいきいきとした魅力に溢れており、実に豊かな作品に仕上がっていると感じた。

本作は10月6日(木)より博品館劇場で開幕。10月22日(土)、23日(日)には大阪公演も行われる。10月9日、12日、22日にはアクタートークの開催も決定した。また、Twitterではハッシュタグを活用した寄付のキャンペーンも開催されている。