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2022年11月12日(土)~11月20日(日)にCOOL JAPAN PARK OSAKA  SSホールで『関西演劇祭2022』が開催される。当演劇祭は関西発信でスターを発掘する目的で始まり、今年で4回目。

今回実行委員長に就任したのは、元フジテレビで現フリーアナウンサーの笠井信輔。シネフィルとして知られるが、実は大の演劇ファンでもある笠井。祖父に劇作家・阿木翁助、叔父に東宝の演劇プロデューサーを持つ演劇家系に生まれ、多忙な局アナ時代にも年間100本もの演劇を観ていたというから驚きだ。

第1回よりフェスティバル・ディレクターを務める板尾創路と笠井に、今回の演劇祭への意気込みとともに、プライベートでの観劇の楽しみ方などを聞いた。

部屋の壁一面に演劇のチラシを貼る理由は?

──笠井さん、実行委員長就任おめでとうございます。

笠井:ありがとうございます! ずっと演劇が好きだったのに、これまで仕事にはなってなかったんですよ。だからこんなにうれしいことはないですね。

──ずっと熱望されていたんですか?

笠井:してましたよ! 関西のTV番組に出演した時、関西演劇祭のプロデューサーさんとお話する機会があったんで、「(身を乗り出して)私、演劇大好きなんです!」ってアピールして(笑)。だから今回選んでくれたんじゃないかなと思ってます。

──熱意が伝わって、今回の抜擢につながったんですね。

笠井:でもまさかいきなり実行委員長に選んでもらえるなんて、こんなに感動的なことはなかったですね。過去3回の実行委員長は全員女優さんだったので、「ほんとに僕でいいの?」って不安はありました。僕が司会の立場で考えたら、「この記者会見、華がないなぁ」と思うでしょうから(笑)。でも、せっかくスタッフの皆さんに選んでいただいたからには頑張りたいです。

板尾:実行委員長はこの演劇祭のシンボルですからね。笠井さんはすごくふさわしいなと僕は思いますよ。参加する劇団側からすると、ちゃんとした方に評価されたいはずなんですよ。僕が若手の時もコンテストで「なんでこんな奴に評価されなあかんねん」って思ってましたし(笑)。たくさん演劇を観ていらっしゃる笠井さんは適任だと思うので、実行委員長を受けていただいてよかったです。

──今板尾さんのお話にもありましたが、笠井さんはたくさんの演劇、多い時には年間100本もの演劇を観られていたそうですね。映画も約130本観て、さらには講演会で全国出張も多い中で、どうやって時間を管理されているのか気になりました。

笠井:そう、それはね、ほんっとに大変! フジテレビにいた頃は基本的に『とくダネ!』中心の生活で、午後にも仕事があるにはあるけど、すごく忙しいわけではなかったんです。だからその時間に映画と演劇をたくさん観てました。演劇だったら1日でマチネとソワレを観るのも当たり前で。でも、今は年間60~70本くらいに抑えるようにしてますね。

板尾:週に1本は何か観てるってことですか?

笠井:もっと多いですよ。今年の8月は17本観たんですよ。流石に観過ぎ!

──1ヶ月に17本ということは、2日に1本以上のペースですね……! ちなみに今年はこれまでに合計何本観られたんですか?

笠井:今日の時点で67本ですね。僕ね、行くつもりだった舞台を見逃がすと頭に来ちゃうんですよ(笑)。本当に見逃しが怖い。上演期間はだいたい2週間だから、観たかったのに気づいたら終わってるんです。それがくやしくて仕方ないので、どうにか見逃さないためのいい方法はないかなと思って編み出したのが、チラシを壁に貼ること!

板尾:舞台観に行ったら客席に置いてある、あのチラシですか?

笠井:そうです! 自分の部屋の壁に、その月に上演される舞台のチラシを貼るんです。それでそのチラシの上に、舞台の上演期間を書いた付箋を貼る。観終わったチラシははがす。その壁を見ながら、見逃しがないか毎日チェックしてます。

──すごい、その壁を拝見してみたいです!

笠井:しかしここまでやっても見逃がすからね……。

板尾:油断したら終わってますよね。この公演は1ヶ月くらいやってるから、どこかのタイミングで行けるやろと思ってたら、意外とすぐに日にちがなくなって。

笠井:映画は映画館で1日何回もやってるし、今なんてサブスクもあるからどうにか観られるじゃないですか。でも舞台はその時を逃すと観られないですから。再演待つって言っても何年後になるかわからないし、役者さんが変わってたりもするから。

──オンラインの演劇は利用されますか?

笠井:それが、なかなかオンラインには移行できないんですよ。やっぱり別物だと思っていて。自分の中では、オンラインで観るのはあくまで「確認」。ただ、今回のような演劇祭の場合だと、大阪まで足を運ぶことができない人もいるので、オンラインは非常に有効。オンラインで素敵な劇団を見つけるのも楽しいと思います。

>(NEXT)ふたりが考える、小劇場の楽しさとは?

 

小劇場の楽しさは「砂金採り」

──関西演劇祭に参加するのは、主に小劇場で活動する劇団です。この取材前の記者会見でも、好きな劇団としてiakuや劇団チョコレートケーキなどを挙げられていましたが、笠井さんが思う小劇場の劇団の魅力を教えてください。 

笠井:まず一番の魅力は、作家性が強いことですよね。「これをやればみんなが楽しめる」というマーケティングの視点で作られていない分、作家の方のカラーが色濃い。その中で僕らの発想を超える、思いもよらないものに遭遇することがあるのは小劇場の醍醐味ですよね。

あと、小さな劇団でおもしろい人たちを見つけた時の喜びは格別です。砂金採りみたいな喜びがある(笑)。大きな劇場だと、例えば劇団☆新感線なんかはもう、観る前からおもしろいことがわかっているじゃないですか。でも、小劇場は「これはどうだろう?」と思いながら観るんですけど、その分おもしろかった時の喜びがとても大きい。

それに、小劇場の中にはまだあまり有名じゃないけどとてもお芝居が上手な方がいるんですよね。もっとテレビや映画に出てきてもいいんじゃないかなって思うような人を見つけると、これがまたうれしい。この関西演劇祭は、まさにそういう人たちが表舞台に出ていく仕組みなので、すごく意義のあることだと思いますね。

──板尾さん、今回は劇団イロモンスターや劇団なんば千日前などの演劇ユニットで、吉本所属の現役芸人さんたちが多数出演されます。お笑いと演劇には、芸人さんたちにとってどんな違いがありますか?

板尾:まず吉本のお芝居といえば、吉本新喜劇ですよね。僕も昔出てたけど、ここはもう笑いが全てなんですよ。いかに笑いを取るか、どんだけ笑わすかに尽きる。それでも昔は人情劇の要素もあって、ほろっと泣けるようなものもあったんです。今の新喜劇は昔に比べても笑いに特化してますよね。

それは芸人の本職なのでいいのですが、一方で吉本にはお芝居が好きで、ストレートプレイをやりたい芸人も結構いるんですよ。だから、今回参加するような吉本の演劇ユニットは、普段自分らが抑えてる表現をどんどん出してくるはずなので、そこは期待できると思います。「吉本が主催だから吉本の人が出てるんだ」っていう色眼鏡を外して観てもらえるとうれしいですね。

笠井:まさに「吉本が主催だから」という疑念を持ってました(笑)。

板尾:そうでもないんですよ(笑)。第一回目から吉本のユニットは出てるんですが、僕以外の審査員の皆さんがびっくりしてました。こんなにちゃんとお芝居ができるんだ、って。

──逆に吉本の芸人さんが好きな方にとっては、演劇を観始めるきっかけになるかもしれないですよね。最後にお二人から、記事を読んでいるみなさんにメッセージをお願いします。

笠井:演劇を好きな方であれば、小劇場に馴染みがなくてもぜひ足を運んでいただきたいです。小劇場を楽しむチャンスがあまりなかった方にもおすすめできるのはなぜかというと、この演劇祭には選ばれた10劇団が登場するから。この「選ばれた」が大事なんですよ。

確かに小劇場にはいろんな劇団がいて、中には内に閉じて「広く理解されなくてもいい」という表現をする人たちもいます。それはそれでもちろんいいのですが、今回参加する10組は小さいけれど開かれた劇団ばかりです。カンヌ映画祭のコンペティションと同じように、選ばれた人たちなので安心して観られる作品が揃っています。

約1週間お祭りのように、いろんな劇団に触れるチャンスはそうそうないですし、45分間という通常のお芝居よりも手頃な上演時間なので、気軽に楽しめると思います。ぜひこのチャンスに小劇場の魅力に触れてほしいですね。

板尾:関西演劇祭の不思議な魅力は、やっぱり現場でしか感じられないと思うんです。

1劇団が45分間の演目をやったあと、俳優や演出家がずらっと舞台上に登場します。本人たちに向かって、客席側にいた審査員やサポーター、さらにはお客さんまで巻き込んでその演目への感想や質問をしゃべり出す。これはなかなか不思議な時間です。

例えが合っているかわからないけど、初めて3Dの映画を観た時くらいの驚きがあると言いますか。お芝居を観てそのまま帰るのとは全然違う楽しみ方ができるのがこの演劇祭にしかない魅力です。お芝居が好きな方なら間違いなく楽しめるので、ぜひ遊びに来てください。

取材・文=碇雪恵 撮影=池上夢貢