主に野外劇を中心に、内橋和久の音楽に乗せた無機質な動きと台詞回しで、スケールの大きな舞台を作り上げていた、大阪の劇団「維新派」。主宰・松本雄吉の他界により、2017年の『アマハラ』台湾公演を最後に解散したが、彼の演技論とスピリットを受け継いだ元劇団員たちは、精力的に自分なりの表現を模索している。20年以上劇団に在籍し、『アマハラ』では演出部を担当した平野舞も、その一人だ。
平野は2019年に「孤独の練習」というユニットを結成。維新派が築き上げた様々な要素の中でも、特に「実験的な身体表現」に焦点を当て、様々なジャンルのアーティストとコラボレーションをしながら、身体のあり方をストイックに追求した作品を発表している。新作『アノニム』は、これまでガレージスペースやギャラリーで作品を発表してきた同ユニットの、初めての劇場公演だ。
孤独の練習1『柔和なニューワールド』(2021年)。 [撮影]井上嘉和
『アノニム』は、見知らぬ人たちが隣り合って、ひととき同じ時間を過ごす、劇場の「客席」の場所性に着目した作品。会場の[THEATRE E9 KYOTO]の客席側を“舞台”とし、観客は“客席”となった舞台側から作品を鑑賞する。通常の演劇とは逆転した風景のなかで、3人と1匹の登場人物(?)をめぐる、記憶の冒険譚を展開するという。
平野からは公演に際して、以下のようなコメントが届いた。
見知らぬ人同士が集まった際に生まれる場について考察した、2022年7月上演のパフォーマンス『モンタージュ』を経て、さらに今回のクリエイションを進めるうちに、集団や群衆といった当初の構想から離れ、一人の人間が内包する身体的な記憶の重なりや時間の多層性へアプローチする、よりミニマムな作品へと変わっていきました。客席という強度がある場所について思索する中で、人と関わり日々変容する私たちの中にも、見知らぬ他者的なものがいくつも存在するのではないかと多くの発見があったからです。
これらのイメージを、客席を舞台にしたこの作品で可視化してみます。
ぜひ見届けに来てください。
人間の記憶の冒険と同時に、身体と音楽の関係や、あるいは客席とパフォーマーの関係などについても、ちょっと見たことのない冒険を繰り広げてくれそうな、今回の孤独の練習。2022年の締めくくりに、刺激をもらいに行ってみよう。
孤独の練習2『アノニム』ティザー動画