「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23」の一環として、ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』が2023年2月24日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国公開される(3月2日(木)まで一週間限定)。ロイヤル・バレエのピーター・ライト版『くるみ割り人形』は、聖夜を舞台にした幻想的でドラマティックな物語で、1984年以降毎シーズン上演されているロンドンの冬の風物詩だ。この度の上映では、2022年12月8日、ロイヤル・オペラ・ハウスで上演された直近のステージを味わうことができる。主演の金平糖の精を踊った金子扶生(2021年に最高位プリンシパル昇進)に、今回上映される舞台を振り返ってもらった。
手品師で発明家のドロッセルマイヤーは、王室でねずみをやっつける罠を発明したが、ねずみの女王は復讐のために彼の甥ハンス・ピーターに呪いをかけ、くるみ割り人形の姿に変えてしまった。呪いを解くためには、くるみ割り人形がねずみの王様を倒し、そして外見に関わらず彼を愛してくれる娘が現れなければならない。
シュタルバウム家のクリスマス・パーティに招かれたドロッセルマイヤーは、この家の娘クララにくるみ割り人形を贈る。夜中に目覚めたクララは、ドロッセルマイヤーによって魔法の世界に招かれ、ねずみの王様とおもちゃの兵隊たちの戦いを目撃する。クララの助けによりねずみの王様が倒され、くるみ割り人形の魔法が解かれてハンス・ピーターの姿に戻る。クララとハンス・ピーターは雪の王国へと旅し、さらにドロッセルマイヤーに導かれてお菓子の国へ行き、金平糖の精や王子に出会う。クララの勇敢さによって救われたとハンス・ピーターは金平糖の精に伝え、ドロッセルマイヤーはお礼として美しく賑やかな祝宴を二人に贈る。夢から醒めたクララは外に出ると、見覚えのある若者とすれ違う。そしてドロッセルマイヤーの部屋に、ハンス・ピーターが元の姿で帰ってきた。
■「堂々とダイナミックに」名花バッセルからの教え
――「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマ・シーズン」では、3年前、金子さんが急きょ主演のオーロラ姫を踊った『眠れる森の美女』(2020年1月収録)がアンコール上演も行われるほどの評判となりました。今回はプリンシパルとして『くるみ割り人形』の金平糖の精を踊ります。どのような気持ちで舞台に臨みましたか?
『眠れる森の美女』の時は当日いきなり踊ることになりましたが、今回はちゃんと計画されていて、時間を使い準備できたと思います。そのぶん緊張もありましたし、モチベーションを保つことや体調管理に気を付けました。クリスマスの時期だとロンドンでは風邪をひく方も多いので。それから、コーチがダーシー・バッセルさん(元ロイヤル・バレエ プリンシパル)だったので、ダーシーからたくさんのご指導をいただいて楽しく準備することができました。
©2018 ROH. Photograph by Alastair Muir
――『くるみ割り人形』の金平糖の精といえば、全2幕の舞台のハイライトで王子と踊るグラン・パ・ド・ドゥが見せ場です。小さな頃から吉田都さん(元ロイヤル・バレエ プリンシパルで現在は新国立劇場舞踊芸術監督)が踊る映像を何度もご覧になって憧れていたそうですね。今回の舞台収録前のインタビューでは「踊るたびにもっとやること」が出てくるとおっしゃっていました。またバッセルさんの指導を受けると「自分の限界を超えさせてくれます」と。
『くるみ割り人形』は私にとって思い出深い作品です。金平糖の精はロイヤル・バレエ入団後、ケヴィン・オヘア芸術監督からいただいた初めての主役で、その時も急きょ代役として踊りました。当時はまだファーストアーテイストでしたが、その頃から踊らせていただいているので、レスリー・コリアさんら本当にたくさんの方がコーチングしてくださいました。そして今回ダーシーにまでコーチングしていただけて、本当にラッキーです。
Production photo of The Nutcracker, The Royal Ballet © 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton
――バッセルさんから具体的にどのような指導を受けたのですか?
今回はダーシーの、また違った『くるみ割り人形』を指導してもらいました。彼女の踊り方を習ったので、少し振りが違ったりするのが私にとってチャレンジでした。たとえば足の一歩の使い方が違って、バランスだけでなくターンを入れたりといったように凄く小さなところなんです。長いあいだ金平糖の精を踊っているので、「少し変える」ということが難しかったですね。
ダーシーに教わったのは「『くるみ割り人形』は有名なショーケースのパ・ド・ドゥなので、堂々とダイナミックに踊らないといけない」ということ。ただただ綺麗なだけでなく、クリスピーなところを作って、ダイナミックに踊る。そこが凄く難しいんですけれども「それを別に隠さなくてもいい。難しいことをしているのを見せたらいいの!」というご指導を受けました。踊ったあとにダーシーが凄く喜んでくれたので、やりがいがありました。
Artists of The Royal Ballet in The Nutcracker The Royal Ballet ©2018 ROH. Photograph by Alastair Muir
■王子役のブレイスウェル、クララ役の前田紗江らとの息の合った共演!
――王子役のウィリアム・ブレイスウェルさん(プリンシパル)とのパートナーリングはいかがでしたか? 多くの男性と共演していますが、彼と組んで特別だと感じる点はどこですか?
ウィリアムとは数年前から『くるみ割り人形』を踊っています。彼が入団(2017年、バーミンガム・ロイヤル・バレエから移籍)した直後辺りに『くるみ割り人形』で組みましたが、その時から踊りが合って凄く簡単にパ・ド・ドゥを踊れると感じています。ウィリアムと踊るのは本当に大好きです。彼の踊りのクオリティによって、私の『くるみ割り人形』のクオリティが高まっている気がしています。二人で高め合って踊ることができるパートナーです。
© 2018 ROH. Photograph by Alastair Muir
――クララが前田紗江さん(ファーストアーティスト)でした。中尾太亮さん(ファーストアーティスト)が中国の踊り、佐々木万璃子さん(ソリスト)が花のワルツのソリストというように日本人も随所で活躍し、彼らと一緒に創り上げた舞台ですね。
本当にうれしかったです! 前田紗江ちゃんとは「二人で頑張ろうねと!」と応援し合っていました。周りも日本人がいっぱい出ていたので「日本で上映されるのが楽しみだね!」と。日本のために踊っているというか、特別な気持ちがしました。
Artists of The Royal Ballet in The Nutcracker, The Royal Ballet © 2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton
■日本での『くるみ割り人形』映画館上映と初夏の日本公演に向けて
――「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマ・シーズン2022/23」の『くるみ割り人形』上映、それから6月~7月に東京ほかで行われる「英国ロイヤル・バレエ団 2023年日本公演」に向けて、日本のファンに一言メッセージをお願いします。
ロンドンでの『くるみ割り人形』の舞台でしたが、日本でも上映していただけるということで、日本の皆様のことも考えて踊らせていただきました。ぜひ観てただきたいです!
日本公演は本当に楽しみです。〈ロイヤル・セレブレーション〉での『プリマ』(振付:ヴァレンティノ・ズケッティ)は、仲良しプリンシパルの4人の女の子(フランチェスカ・ヘイワード、金子扶生、マヤラ・マグリ、ヤスミン・ナグディ)が頑張って踊るので、ぜひ楽しみにしていてください(出演は日替わり)。地元の大阪での『ロミオとジュリエット』全3幕(振付:ケネス・マクミラン、主演:金子扶生&ワディム・ムンタギロフ)は、私にとって記念の公演になると思います。全力を尽くして踊ります!
The Royal Ballet: The Nutcracker cinema trailer
取材・文=高橋森彦