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SOMPO美術館にて、2023年2月18日(土)から3月12日(日)まで、新進アーティストの登竜門『FACE展2023』が開催されている。『FACE展』は平面作品を対象とした公募形式の展覧会で、今回が11回目の開催。今年も1,064点の出品作の中から厳正なる審査を経て選ばれた受賞・入選作品が、いよいよお披露目となる。

内覧会に先立って開催された授賞式にて。若干緊張した面持ちの受賞作家たちと、審査委員諸氏。

内覧会に先立って開催された授賞式にて。若干緊張した面持ちの受賞作家たちと、審査委員諸氏。

いま、同じ時代を生きるアーティストたちがどのような表現を探求しているのか。何を感じ、伝えようとしているのか。オールド・マスターの展覧会とはまた違った、みずみずしさと緊張感に満ちた展示の様子についてレポートしていこう。

忘れがたい質感

グランプリ 吉田桃子《Still milky_tune #4》

グランプリ 吉田桃子《Still milky_tune #4》

栄えある『FACE展2023』グランプリに選ばれたのは、吉田桃子《Still milky_tune #4》。実際に作品の前に立つと、事前に美術館ホームページで見ていた画像とは全く異なる印象を受けた。自分で撮影しておいてなんだが、この不思議な質感は写真では伝わらないかもしれない。本作はノーマルなキャンバスではなく、紗幕のような半透明のポリエステル布にアクリル絵の具で描かれている。どこかパソコンやスマートフォンの液晶モニターを思わせる、たっぷりと光を含んだ画面だ。

吉田桃子《Still milky_tune #4》(部分)

吉田桃子《Still milky_tune #4》(部分)

描かれているのは、画家が制作した架空バンドのミュージックビデオのワンシーンだそう(そう言われてみると、こういうバンドのMVあるある! と深く納得である)。画家は創作の過程で、絵画に映像に、ジャンルを行き来しつつイメージを練り上げていくのだという。一個の世界観を丸ごと産み落とすようなその独特の創作スタイルで、今後どんな作品が生み出されていくかに注目していきたい。

受賞作品たちの堂々たる存在感

手前から:植田陽貴《Whispering》、ヨシミヅコウイチ《顕現(仮) 》ともに優秀賞

手前から:植田陽貴《Whispering》、ヨシミヅコウイチ《顕現(仮) 》ともに優秀賞

グランプリに続いて、優秀賞、読売新聞社賞、審査員特別賞を受賞した作品たちが並ぶ。その表現はどれも力強く、そして驚くほどバラエティ豊かだ。

手前から:読売新聞社賞 橋口元《リズム》、優秀賞 中嶋弘樹《リビングルーム》

手前から:読売新聞社賞 橋口元《リズム》、優秀賞 中嶋弘樹《リビングルーム》

中でも不思議と気になるのが中嶋弘樹《リビングルーム》である。こちらも写真で見ている分にはただ“植木鉢がたくさんある絵”としか思わなかったのだが、現物はさまざまな素材がコラージュされており、マジックで描いた風の植物のシルエットも、実際は切り絵である。画面は、互いに不可侵なモノたちを重ね合わせて構成されている。

中嶋弘樹《リビングルーム》(部分)

中嶋弘樹《リビングルーム》(部分)

それが呼び起こす印象は、不穏だ。何ひとつ混ざらないし、溶け合わない。重なって見えない部分だって、素材の厚みが存在をアピールするので無いことにはならない。個と個のバッチバチの境界線の主張が、画面中で繰り広げられているのだ。美術館を後にしてからも、新宿の人混みを歩きながら、この作品のイメージがしばらく頭に浮かんでいた。

左:うえだあやみ《視線の指先》、右:宮内柚《Work 5-2》ともに審査員特別賞

左:うえだあやみ《視線の指先》、右:宮内柚《Work 5-2》ともに審査員特別賞

画面中に光が乱反射しているように見えるのは、うえだあやみ《視線の指先》。カットガラス越しに世界を見たような、正方形を単位にしてかすかにズレていく視線が、何気ない風景をドラマチックに仕立てている。隣の宮内柚《Work 5-2》は、刷毛でペインティングしたように見えて実はシルクスクリーン(版画)である。会場では顔を近づけて刷りの痕跡を確かめている鑑賞者を多く見かけた。

左:栁澤貴彦《bonfire》、右:霧生まどか《13年目の瞼》ともに審査員特別賞

左:栁澤貴彦《bonfire》、右:霧生まどか《13年目の瞼》ともに審査員特別賞

感性がしたたる72点

展示風景

展示風景

会場には、このほか入選者72名の作品が所狭しと並んでいる。テーマも技法も素材もまちまちなのだが、うっすらと共通する雰囲気の作品が並べられていて、ある程度のまとまりを感じて鑑賞ができるよう工夫されている。SOMPO美術館の作品愛が滲む、展示の妙である。

手前から:櫻井旭《The disappearing city Ⅲ》、宮澤賢三《18年間の軌跡》

手前から:櫻井旭《The disappearing city Ⅲ》、宮澤賢三《18年間の軌跡》

例えばこちらは、緩やかに「風景画」としてセクション立てされた部分。桜井旭《The disappearing city Ⅲ》は埃っぽい匂いがしてきそうなほど写実的な風景だが、画面の下部ではレンガ色の絵の具がキャンバス上を垂れるままになっており、これは絵ですと釘を刺されたようでドキッとする。

左:松田豊美《The very thing 22-12》、中央:Hyoji《私たちの世界》、右:長尾圭《かたよりかた》

左:松田豊美《The very thing 22-12》、中央:Hyoji《私たちの世界》、右:長尾圭《かたよりかた》

鮮やかな色彩が視界いっぱいに広がる一角。中央の作品が美しくてしばらく眺めたのち、作品名が《私たちの世界》だと知ってなんだか嬉しくなってしまった。別に明るければいいというものでもないけれど、本展では比較的明るく華やかな見た目の大型作品が多い。身構えずにふらりと美術館を訪れるだけでも、心地よく感性を刺激されるだろう。

気になる出会い、ありました。

和田咲良《あっちにいる》

和田咲良《あっちにいる》

こちらはふと足が止まった気になる一作、和田咲良《あっちにいる》。あっちにいるって、何が……? と心中で叫びたくなる。独特な形状のキャンバスを使っているようで、レンズ越しに覗いた景色のような、距離を掴めない妙な感覚を覚える。やたら足の長い犬、絶妙に親しみやすい顔面の女、後ろの日焼けした男、それぞれの見ている先はバラバラで、何かが「あっちにいる」らしいと悟っていても、誰も詳細な位置までは把握できていないようだ。映画の一場面のような、想像力を掻き立てられる作品である。

伊藤瑞生《Interaction》

伊藤瑞生《Interaction》

展示の中ほどで伊藤瑞生《Interaction》に出会った時には、すぐに前展示室の《リビングルーム》を思い出した。存在の境界線の主張が、本作では一切なくなっている。花とハチは完全に融けあい、そのまま空気に滲んで、画面のこちら側になだれ込んでくる。美しくも、これはこれで不気味さを感じさせる作品だ。

来場者参加型イベントも開催

本展では、来場者による投票で「オーディエンス賞」が決定するという。内覧会では投票はできなかったが、もし自分だったらどの一作に入れるだろう……と、あくまで“どれが好きか”目線で会場を歩き回ってみた。

野田晋央《夢》

野田晋央《夢》

とても楽しく悩んだ結果、個人的には野田晋央《夢》に一票を投じたい。アンリ・ルソーの同名作品を明らかに踏まえた本作では、楽園らしい極彩色でジャングルを描いているものの、木々はだいぶ切り開かれて風通しがよくなっている。水色の空もピンクの大地も作り物めいて、動物たちはキッチュな柄だけを残して植物の中に埋没してしまっている。これが現代の密林であり「夢」だ、という皮肉な見方ができると同時に、抗い難い視覚的魅力をもった作品だと感じた。

見どころを自分で決めていい、という自由

展示風景

展示風景

展示の最後には、SOMPO美術館が所蔵する東郷青児作品や、フィンセント・ファン・ゴッホの《ひまわり》も併せて堪能することができて、ちょっとお得な気分に。

美術館エントランスに掲げられた《ひまわり》の陶板複製画と、グランプリ作品のフォトスポット。

美術館エントランスに掲げられた《ひまわり》の陶板複製画と、グランプリ作品のフォトスポット。

展示を見終わって、現代絵画にはこんなにもたくさんの表現方法があるのかと胸が熱くなった。技術の進歩や意識の改革で表現の選択肢が増えていくたびに、画家たちはこれからも最善を求めて探究を続けていくのだろう。

『FACE展2023』はSOMPO美術館にて、2023年3月12日(日)まで開催中。本展は、画家も鑑賞者も同じ時代を生きている者同士。作品たちにまっすぐ向き合えば、きっと胸に響く一枚に出会えるはずだ。“有名な絵を見にいく”のではなく、“好きな絵を見つけにいく”という贅沢な体験が、西新宿で待っている。

文・写真=小杉 美香