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歌舞伎座の5月公演『團菊祭五月大歌舞伎』で、『若き日の信長』が上演される。戦国武将の織田信長が、うつけ者呼ばわりされていた、若い頃の孤独や葛藤を描くドラマだ。「十二世市川團十郎十年祭」と銘打ち、市川團十郎が信長を勤める。

「大佛次郎先生が祖父・十一代目市川團十郎にあてて書き下ろした作品です。祖父の代表作であり、父から教わった作品。十年祭にふさわしいのでは、とのお話をいただき上演することとなりました」

團十郎が会見に登壇し、父への思い、作品の見どころを語った。

■父・十二世團十郎は明るく大らかな人だった

十二世團十郎が逝去して10年。その人柄を明るく大らかな人だった、とふり返る。

「親になると、あれをしなさい、これをしなさい等、つい言いたくなるものです。しかし父は必要以上には言わない人でした。言わないことの大変さを、教えてくれたと思います。深くものを考える人でした」

『若き日の信長』を十一世團十郎から受け継ぎ、十二世團十郎が信長を初めて勤めた公演では、大佛次郎が「歌舞伎役者は神経質ではいけない。明るく大らかな方が大成する。彼は大らかで明るい。十二代目團十郎の信長に期待している」と言及したという。團十郎は「どんな時代にもその時代に必要な團十郎が現れる。初代も二代目もそうでした。父もまた、そのように團十郎を生きたと私は思っています」と振り返る。

團十郎は昨年11月、12月の襲名披露興行を機に、「走馬灯のように」父との記憶がよぎることも多かったと明かす。よく思い出したのは『勧進帳』の弁慶、『助六由縁江戸桜』助六を習った頃のこと。

「弁慶の初演の時は、(南座に出演中の)父に教わるため京都へ行きました。若かった自分は、当時父の言葉を分かりきれていなかったところもありました。45歳になり、3月に巡業(『十三代目市川團十郎白猿襲名披露巡業』として全国15都市)で『勧進帳』をやっていて、ふと“こういう事を言っていたのかな”と感じたりもします」

『若き日の信長』には、信長の父親の法事が執り行われる場面がある。「大勢が集まり念仏を唱えて、かしこまってやっている。けれども信長は、そのようなかしこまったものはいらない。ひとり心の中で偲ぶことが一番大事なのだ、と考えています。私もそのような考えを持っています」と思いを重ねていた。

■『若き日の信長』、今にフィットした古典として

團十郎は幼い頃から祖父の『若き日の信長』に触れていたこともあり、「子どもの頃から信長には親近感を抱いていました」と明かす。本作で信長を演じるのは、新之助時代から数えて4回目だ。

「昭和27年、大佛先生は、祖父の信長だけでなく、他の役も当時の俳優にあて書きされて、この芝居を作られました。内容が素晴らしいのはもちろん、時代時代の素晴しい先輩方がなさってきました作品です。でも、あらためて台本を読むと、祖父の時代、父の時代には早すぎた。私がやらせていただいた時でさえ早かったのではないか。それほど先を見通した作品だということです。全人類がコロナ禍を経験し、皆様が触れる情報量が増え、考えが深まった今なら、時代にフィットした古典としてご覧いただけるように思います」

タイトルの通り、信長の若い頃にフォーカスしたドラマになる。信長の魅力を次のように語る。

「彼の原点は、若い時期に集約されています。大成してくると、周囲はその人の話をよく聞くようになりますが、大成する前は『やめておけよ』『上手くいかないよ』と言われることが多いもの。若い頃の信長も、うつけ者や野武士など散々の言われようでした。けれどもそれは、周りの人々が自分の物差しでは測りきれない信長を、うつけと錯覚してしまってのことだったのではないでしょうか。信長はそれでも桶狭間の戦いへ突き進んでいきました」

戦国武将の中でも、特に高い人気の信長。「信長は、時代にあわせてイメージが常に変化する、稀有な人物です」と分析。團十郎もTVドラマで2度、信長を演じた。他の俳優による信長への感想を求められると、「大河ドラマでは、やはり高橋幸治さん(1965年『太閤記』、1978年『黄金の日日』)の信長。当時の信長像として、つかみきれないほどの大きさを魅力的に表現されていました。その後、信長の大きさを説明しようとする時代があり、見せないようにする時代もあった。皆さんがそれぞれにお考えになった信長を拝見するのは、やはり楽しいです。時代にあわせて各々が理想とする信長を追いかけ、新しい信長像を作るんですね」

歌舞伎座新開場十周年『團菊祭五月大歌舞伎』昼の部『若き日の信長』

歌舞伎座新開場十周年『團菊祭五月大歌舞伎』昼の部『若き日の信長』

先日公開された特別ポスターには、柿を握った信長の姿が載っている。父から柿の食べ方も教わったことを明かし、「祖父はかたい柿を用意させていたのですが、ある日本物の柿を用意できなかったのか、かじってみたら和菓子だったことがありました。祖父はこれに怒り、劇場にこなかったとか」と今では笑える逸話を披露。「私も生の柿がいいんですが……どうなりますか?」と関係者に目線を送ったので、記者たちはさらに笑いに包まれた。

團十郎の『若き日の信長』は、歌舞伎座で2023年5月2日(火)から27日(土)まで昼の部での上演。

取材・文・撮影=塚田史香