東京芸術劇場にて、『東京芸術祭 2023』芸劇オータムセレクションプログラムとして、木ノ下歌舞伎による『勧進帳』を、2023(令和5)年9月1日(金)から上演する。この度、公演の詳細、及び第一弾ビジュアルが発表された。
2006年から京都を中心に活動を展開する演劇団体・木ノ下歌舞伎(通称:キノカブ)。木ノ下歌舞伎の代表作である『勧進帳』は、主宰・木ノ下裕一が監修・補綴、そして創作当時は企画員として木ノ下歌舞伎に在籍していた、KUNIO主宰の杉原邦生が演出・美術を担い、2010年に初演された。その後、2016年にリクリエーション版を上演、『ジャポニスム2018』の一環として招聘され、パリ公演も好評を博した。
『勧進帳』2016年版 舞台写真
『勧進帳』2016年版 舞台写真
『勧進帳』2016年版 舞台写真
木ノ下裕一の多岐にわたるメディアなどでの活躍とともに、歌舞伎の現代における上演の可能性を問う挑戦的な作品を生み出し続けるキノカブと、国内外、古典・現代劇を問わず確かな演出力を発揮し続ける杉原邦生。本作は、そんな二人が、「再び上演したい!」と切に願った自信作の5年振りの再演、初めての東京公演となる。
『勧進帳』2016年版 舞台写真
『勧進帳』2016年版 舞台写真
『勧進帳』2016年版 舞台写真
出演者は、武蔵坊弁慶役をリー5世、富樫左衛門役を坂口涼太郎、源九郎判官義経役を高山のえみ、常陸坊海尊/番卒オカノ役を岡野康弘、亀井六郎/番卒カメシマ役を亀島一徳、片岡八郎/番卒シゲオカ役を重岡漠、駿河次郎/太刀持ちの大柿さん役を大柿友哉が務める。また、スウィングとして佐藤俊彦、大知が出演。
リー5世
坂口涼太郎
高山のえみ
岡野康弘
亀島一徳
重岡漠
大柿友哉
佐藤俊彦
大知
さらに、今回の『勧進帳』公演では、オーディションで選出された若手スウィング俳優の出演回の設定や、東京芸術劇場が2009年から取り組む鑑賞サポートの特別版の実施、公演前の特別対談映像配信、公演期間中の有料トークイベント(詳細は後日発表)など、より深く作品を楽しむことができる、さまざまな関連プログラムを展開していく。
鎌倉幕府将軍である兄・源頼朝に謀反の疑いをかけられた義経たちは、追われる身となり奥州へ向かっていた。
道中の加賀国(※1)・安宅で、義経一行は自らを捕らえるための関所に行く手を阻まれる。義経は強力(※2)の姿、家来たちは山伏の姿に化けて関所を通ろうとするが、関守の富樫左衛門には山伏姿の義経たちを捕らえるよう命令が下されていた。そこで武蔵坊弁慶は機転を利かせて、焼失した東大寺を再建するため勧進(※3)を行っているのだと話す。すると富樫は、弁慶に勧進帳(※4)を読むよう命じるのだった。もちろん勧進帳など持っていない弁慶は、別の巻物を開くと、それを本物と見せかけて勧進帳の文言を暗唱してみせた。その後も一行は山伏を演じきり、関所を通る許しを得る。しかし、ふとしたことから強力が義経ではないかと疑われてしまった。緊迫した状況のなか、弁慶は義経をどこまでも強力として扱い、杖で打ち据える。それを見た富樫は、頼朝の命を破り、一行を通してやるのだった――。
(※1)現在の石川県小松市。
(※2)山伏に伴って荷物を運ぶ従者。
(※3)寺院の建立・修繕などのため、信者や有志者に説いてその費用を奉納させること。
(※4)勧進の目的について記された巻物形式の趣意書。
『勧進帳』監修・補綴 木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰) コメント
木ノ下裕一 (C)東直子
今までに増して、一枚のチケットが重くなっているようです。
疫禍にも収束の光が見えつつあると言っても、依然として突然の中止があり得る世界において、作り手と観客が同じ時と場を共有する舞台芸術はまさに一期一会。お客さまもまた、時間的な余裕と、経済的な余裕を見極めながら、今見るべき一本の舞台を、慎重に選んでいるように見受けられます。
一方、ますます格差が広がっていく社会の中で、誰もが気軽に娯楽や文化芸術を享受できなくなりつつあるのだとしたら、〝公共劇場〟の意義と責任はより重大です。そんな中、東京芸術劇場さんと一緒に『勧進帳』を上演いたします。公共劇場とカンパニーが協同することで、何ができるのか。少しでもクオリティの高い作品をお客様のお目にかける以外にも、まだまだやれることがあるのではないか。より作品をお楽しみいただくための講座、知的好奇心を刺激するための関連イベント、中高生へ向けた鑑賞会、障がい者への観劇サポートなど、ありったけの知恵を絞って、少しでも皆様の傍に〝寄り添える〟公演を目指します。
思えば、『勧進帳』は、登場人物全員が、寄り添えないはず(立場上寄り添ってはいけないはずの)の他者に、それでも少しずつ寄り添おうとする物語でもありました。
「この公演は自分のためにあった」と、お客様お一人ひとりに思っていただけるように、心を込めて臨みます。
チケット一枚の重さを受け止めながら。
『勧進帳』演出・美術 杉原邦生 コメント
杉原邦生 撮影:細野晋司
2016年にリクリエーションした木ノ下歌舞伎版『勧進帳』を5年ぶりに上演できること、とても嬉しく思っています。と同時に、初演時よりさらに目まぐるしく移り変わるこの時代に、7年前の作品が未だ〈チカラ〉を持ち得ているのだろうかと、少しだけ不安を感じたりもしています。
ですが、そもそも歌舞伎の『勧進帳』も、“能の『安宅(あたか)』を歌舞伎化する”というアイデアから創作され、初演から今日に至るまで形を変えながら練り上げられ、幾たびも上演されてきました。その事実こそが、古典芸能の〈チカラ〉を証明していると言えるかもしれません。ということは、“歌舞伎の『勧進帳』を現代劇化する”という野心的な試みによって生まれた僕たちの『勧進帳』も、こうして時代の変化とともに上演を重ねていくことで、日本の古典芸能、さらには、日本の舞台芸術の〈チカラ〉を証明することに繋がっていくはず——そんな野望を胸に、ただただ良き上演を届けられるよう、粛々と準備を重ねています。
皆さまのご来場お待ちしております。