誰もが知る名作『RENT』を生み出したミュージカル作家、ジョナサン・ラーソンの下積み時代の経験をベースに、ジョナサン自身の葛藤と成長を綴ったミュージカル『tick, tick…BOOM!』。2001年にオフ・ブロードウェイにて上演されたことを皮切りに各国で上演され、2021年の映画化ではアカデミー賞2部門でノミネートされた話題作だ。夢への情熱、未来への焦り、不安、葛藤などを描いた本作が、2024年10月6日（日）よりシアタークリエで開幕した。
ゲネプロ後の囲み取材には、薮 宏太、梅田彩佳、草間リチャード敬太（Aぇ! group）が登壇。
感想を聞かれた薮は「3人で本当に稽古を頑張ったもんね。僕はずっとジョンを演じているけど、2人はたくさんの役をやっているので大変だと思います。ゲネプロを見にきてくれた関係者の方々が歓声や笑い声をあげてくれ、本番はさらに盛り上がるのかなと想像しました。早くお客さんに届けたいです」と意気込む。
梅田は「緊張はしますが、初めてステージでの通しをして心強さを感じました。自分が出ていない時は袖から2人を見てパワーをもらえました」と語った。リチャードが「初めてステージで全編通して、稽古場よりも消耗するなと思いました。でも、照明などに助けてもらいながら頑張れそうです。ゲネプロは『RENT』のキャストさんなども見に来てくれていてものすごく緊張した。でもこれで、本番はいけそうだと思いました」と明かし、薮と梅田も大きく頷く。薮は「でも、僕はジョナサン・ラーソンを演じるじゃないですか。僕が作った音楽でみんな歌っていると思うと平気でした」と話して笑いを誘った。
自身が演じる役について大変なことを聞かれると、薮は「ピアノです。ジョンが自分で書いた曲（という設定）なので、練習したんじゃなく自分の中から出てきたものだという表現をしなきゃいけない。そこが難しかった」と苦労を語り、「小学校までピアノを習わせてくれた両親に感謝しています」と振り返る。
梅田はセリフがない役も合わせると10近いキャラクターを演じているというが、「2人は私より出番や転換が多いと考えると、私も頑張らなきゃと思い、パワーをもらえました。一瞬でキャラクターが変わる部分もあって大変だったけど、2人が役で見てくれるので切り替えられた」という。
「もっとニューヨーカーになってと言われていて、そこを掴むのが大変でした」と言うリチャードに、薮は「リチャはこう見えてすごくなんです。Aぇ! groupなので関西ノリで来るかと思っていたらすごくシャイ」と説明。「2ヶ月くらい東京に泊まっているそうなので、ご飯屋さんなどを教えました。連絡先も僕から聞いて」と明かす。「ぐいぐい来てくださるので、後輩の僕が言うのも変だけどすごくやりやすいです」と言われた薮は「初めて言われた（笑）。かわいい後輩です」と話し、最後に「ジョナサン・ラーソンが身を削り、愛を込めて作ってきた作品だと思います。見に来てくれた人にも愛を感じてほしいですし、自分の愛がどこ・誰に向かっているか想像し、皆さんの愛がさらに深く強くなるように頑張っていきます。皆さんぜひ劇場に足を運んでください」と締め括った。
＞（NEXT）ゲネプロレポート
舞台上では開演15分ほど前からジョンが部屋の中で過ごす様子が描かれる。少し早めに席に着くことで、ジョン（薮 宏太）の日常生活の空気を感じてから物語に入っていくことができる。
物語は、ミュージカル作家を目指しつつ、30歳の誕生日を目前にして将来への不安に押しつぶされそうになっているというジョンの独白からスタートする。若くして成功した有名なミュージカル作家たちと自身の現状を比べて苦悩するジョンだが、ピアノソロから始まる楽曲はどこか明るくキャッチーだ。
途中から幼馴染のマイケル（草間リチャード敬太）とジョンの恋人・スーザン（梅田彩佳）も加わり、楽曲はさらに豊かに。焦燥感だけでなく、ミュージカル制作に対する熱意や野望を感じさせるナンバーに引き込まれる。
30歳までに何かを成し遂げたい・理想の人生を叶えているはずだったというモヤモヤ、人生の岐路に立った時の葛藤に共感する方も多いのではないだろうか。作品全体に漂うあたたかさと切なさは、ジョナサン・ラーソンの代表作『RENT』に通じる部分もあると感じる。
ビジネスマンとして大成したマイケル、ニューヨークを離れて新しい生活を始めることを考えるスーザンに対し、停滞しているように見えるジョン。自分の作風が流行と違うと嘆きつつ自分を曲げない頑固さが、薮の素朴で柔らかい芝居と歌唱によってチャーミングに表現されていた。
そんなジョンを心配するマイケルの友情、現状を変えようと行動するスーザンの思いも、作品を彩っている。また、会見でも出ていたように、梅田はジョンに向ける優しい表情やダンサーらしいしなやかさがキュートなスーザン、リチャードは朗らかで面倒見がよく、キレのいいダンスが印象的なマイケルというメインの役に加え、数多くの登場人物を演じわける。両親や仕事関係者など、入れ替わり立ち替わり違うキャラクターになって登場する2人も見どころと言えるだろう。
キャストは3人のみだが、歌声のバランスがよく、厚みのあるハーモニーが生まれているのが印象的だ。ジョンの心情を聴かせるナンバーはもちろん、親友2人の関係性を歌唱とダンスで見せるナンバー、ポップでコミカルにバイト風景やスーザンとの喧嘩を描くナンバーなど、楽曲はどれも魅力に溢れている。歌唱はもちろん表情やダンスでも魅せるキャスト陣に、ユーモラスなシーンで笑い声が起きたり、客席を巻き込んだ演出に歓声が上がったりと、劇場全体が熱気で包まれていた。
本作は2024年10月6日（日）に東京・シアタークリエにて開幕。11月3日（土）・4日（日）には愛知・東海市芸術劇場、11月7日（木）～11月11日（月）には大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールでも公演が行われる。