2025年夏、平野啓一郎の長編小説を原作とした新作オリジナルミュージカル『ある男』が上演される。
日本から世界に向けて発信する作品を目指すべく、ミュージカル化にあたって錚々たる面々が揃った。音楽はジェイソン・ハウランド、脚本・演出は瀬戸山美咲、歌詞は高橋知伽江。W主演を担うのは、10年前に初めて共演して以来、俳優として互いに尊敬し合う浦井健治と小池徹平だ。浦井は弁護士の城戸章良を、小池はある男・Xを演じる。
インタビュー前後や撮影中にも話が止まらない仲睦まじい二人に、久々の共演の歓びや、ゼロから立ち上げるオリジナルミュージカルへ挑む胸の内を聞いた。
ーー『ある男』のミュージカル化の話を最初に聞いたのは、いつ頃でしたか?
浦井:実は結構前なんですよ。
小池:2年くらい前ですかね。マネージャーから「プロデューサーさんが、熱い想いを伝えたいので会えますか?」と連絡があったんです。そこでホリプロさんの作品に懸ける想いを聞いて、これはどうしてもやりたいと思いました。しかも健ちゃん(浦井)との久しぶりの共演! なんとしても出演したかったので、いろいろスケジュールを調整して実現することができたんです。
ーー浦井さんと小池さんの初共演は2015年の『デスノート THE MUSICAL』(以下、『デスノート』)世界初演でした。出会いからちょうど10年経った今、再び共演できると知ったときはどう思いましたか?
浦井:嬉しかったです! 小池徹平といえば、日本で知らない人はいないくらいのスターで、しかもお芝居に貪欲で、自分にとても厳しい人。いろいろな経験を通して自分の道を見つけてきた、彼のエンターテイナーとしてのあり方を尊敬しています。徹平を見ていると、僕も頑張らなきゃなと改めて思うんです。これは古田新太さんの言葉なのですが、「小池徹平は役を愛して、役を演じるんだ。浦井、お前は自分が出てしまう」と。
小池:あはは(笑)。
浦井:そんなダメ出しでした(笑)。
小池:そう言いながら、にいやん(古田新太さん)は健ちゃん(浦井)の話もめっちゃするんですよ。にいやんが被っている派手なキャップの中には、浦井健治の缶バッジをつけているものもあるんです。なんだかんだ大好きなんだなあって。
浦井:(笑)。要は、小池徹平のすごさをずっと見てきたので、久しぶりに共演できるのがすごく嬉しかったんですよ。
ーー小池さんは、久しぶりの浦井さんとの共演をどう思いました?
小池:僕もめちゃくちゃ嬉しかったです! 健ちゃんは昔からずっとミュージカル界のプリンス。“プリンス”と言われながら表舞台に出続けるのはとてもすごいことだと思います。ミュージカルはひとつの公演を完走するまでに、健康管理も含めて大変な努力が必要です。その大変さを百も承知でずっとやり続けているすごさ! しかも歳を重ねることで余裕も出てきて、常に“今”が一番輝いているんです。かっこよさと面白さの幅もどんどん広がっていて、ミュージカル界の王道を走っているのに、ストレートプレイもできる面白い役者さん。そんな人が「共演できて嬉しい」と言ってくれること自体が嬉しいです。僕は映像などいろんなところで仕事をしているので、ずっとミュージカルをやり続けているわけではありません。それでもこうやって言ってもらえることが、マジで嬉しいです。
浦井:もう惚れちゃうね! 照れるし、惚れる(笑)。本当に最高の賛辞をいただいたと思います。こういう戦友と、同時代でお互いに切磋琢磨できる機会はなかなかないんですよ。例えば『デスノート』では台湾公演も行って、演劇を学び、演劇を愛し、お客様に作品が愛されて、ということをカンパニーみんなで経験してきました。当時も、妥協せずに作品と向き合っていましたが、それはどの作品でも変わることないはずで、映像で活躍している強みも駆使しながら歩みを進めている徹平だからこそ、これだけ地に足がついているんだろうなと思います。つい褒め合いになっちゃうね(笑)。
小池:嬉しい! 褒め合うのは気持ちいいね(笑)。
浦井:こういうのもたまにはいいね(笑)。今話したようなことも含めて、僕は徹平のことが大好きなんです。
ーーミュージカルファンも、お二人の共演をきっと喜んでいると思います。
浦井:そういえば、情報解禁のときに作品のキービジュアルが、ぼかしになっていないぼかしで。僕、ぼかしきれてなかったですよね?(笑)
小池:そうそう、健ちゃんは全然隠せていなかった(笑)。
浦井:「誰だ?」じゃなくて「浦井だわ」ってね(笑)。
小池:最初からずっと浦井健治だったもんね(笑)。でもきっとそれが健ちゃんの良さであり、個性なんだよなあ〜。
浦井:ありがとう(笑)。
ーー情報解禁されてクリエイター陣とキャスト陣の顔ぶれを見たとき、ホリプロさんの本気を感じました。
小池:めっちゃわかります! 気合い入ってるなあって思いましたよね。
浦井:鹿賀(丈史)さんがいて、はまめぐ(濱田めぐみ)もいて、『デスノート THE MUSICAL』初演時のみんながいる座組で挑戦できるなんて最高ですよね。『デスノート』もゼロから立ち上げたオリジナルミュージカルだったので、初演は本当に大変だったんです。初日の直前までいろいろな変更があり、産みの苦しみを味わっているメンバーでもあります。今回も素晴らしい原作を基に初めてミュージカル化するので、とても高いハードルがあると思います。けれど、その挑戦をするにあたってこのメンバーを集められたことは本当に強みですね。
小池:健ちゃんと僕がやることにも、きっとすごく意味があるんだろうなと思います。『デスノート』初演から10年が経って、お互いにいい歳になりました。きっと舞台に立って並んで歌うだけでも、以前とは全然違って見える面白さがあるんじゃないかなあ。10年経ったからこその重厚感や、説得力が増した作品をお客様に届けることができると思います。
ーー本作は浦井さん演じる城戸章良と小池さん演じるある男・Xが物語の中心となりますが、作品のキーとなるのはある男・Xの存在なのでしょうか。
浦井:先日、帝国劇場 CONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』のゲストに鹿賀さんがいらっしゃったんですね。そのときちょっとお話しさせていただいたら、「城戸は辛抱役だねえ。面白いと思うよ。僕はいっぱい遊ぶけどね」と。個人的には、鹿賀さんが二役(小見浦憲男と小菅)を演じるのもポイントだと思いますし、確かに城戸はいろいろな葛藤を抱える役です。ただ、そのきっかけはすべて“ある男・X”なんですよね。ある男・Xと共に時間を過ごしてきた人たちが、彼から何を感じるかというお話。だからこの作品のキーになるのは、ある男・Xだと僕は思っています。
小池:いや、キーは城戸ですね。
浦井:え〜! 擦り付け合いみたいになっちゃうじゃん(笑)。
小池:城戸はストーリーテラーでもあって、お客様を物語に誘導していく大事な役目があるんです。だから城戸がキーになるのはあながち間違いではないと思います。でも城戸役は健ちゃんだから、何も心配していません。
浦井:いや〜、プレッシャーはあるよ?(笑)
小池:全然だよ! 少し前に作品のワークショップがあったのですが「これは健ちゃん大変だね」とみんなで話していたんです。でもそれは「健ちゃんだからきっとできるよね」というみんなの期待もあってこそ。健ちゃんの城戸、めっちゃ楽しみです。
浦井:頑張ります! 城戸は、ある男・Xを追っていく過程でいろいろなことを学び、生きる意味を見出していきます。その姿を現在・過去・未来を行き来しながら描けるのが舞台の醍醐味だと思うので、それが今から楽しみです。
ーー既にジェイソン・ハウランドさんによる音楽もできているのでしょうか?
小池:まだまだ変更もあると思いますが、大枠はできています。ワークショップでは全体の流れの試し読みをしたんです。ある男・Xがどういう人物だったのかを追っていくストーリーはそのままですが、舞台ならではの表現が盛り込まれているのが非常に面白いと思いました。死んだある男・Xを城戸が追うということは、二人が同時に存在することは本来ありえません。けれど、舞台なら同時に登場させることができるし、ミュージカルなので歌で想いを表現することができるんです。
そういえば、ワークショップですごく印象的な出来事がありました。その日は健ちゃんは不在だったので、ある男・Xと城戸が二人で歌うシーンを僕と代役の方で歌ってみたんです。歌い終わって休憩に入った瞬間、その場にいたみんなが口を揃えて「『デスノート』じゃ〜ん!」と(笑)。それくらい、『デスノート』の月とLの激しい感情のぶつかり合いを彷彿とさせるような曲に仕上がっていたんです。めちゃくちゃいい感じだったので、期待していてください。
ーー最後に、ミュージカル『ある男』を楽しみにしているお客様へメッセージをお願いします。
浦井:ホリプロさんが『ある男』をミュージカルとして板の上にあげようと覚悟を持って挑む作品です。その熱気は必ず舞台に出てくるはずです。同時に、それは僕たち役者に背負わされた任務でもあると思っていて。原作をリスペクトしながら、原作ファンの方にもキャラクターがその場にいると思っていただけるレベルを目指していきたいですし、人間の機微や一筋縄ではいかない人生、ちょっとしたタイミングのズレで変わってしまう多面的な人間の姿が浮き彫りになっていく作品です。それらをお客様へ届けられるように頑張ります。
小池:ここまで熱量の高い作品を用意していただいたので、僕らはそれに応えるだけです。僕からしてみれば、まるで同窓会のようなとても安心できるメンバーですし、楽しみながらも集中して作品を作ることができる環境があります。それはきっと作品にも自然に表れると思うんです。絶対にいいものを作るので、楽しみに待っていてください。
取材・文 = 松村 蘭(らんねえ) 撮影=池上夢貢