2025年9月、J:COM北九州芸術劇場 中劇場にて(東京、大阪でも上演)、赤堀雅秋プロデュース『震度3』が上演されることが決定した。
“市井の人々の些末な物語”と赤堀自身が語るように、作・演出の赤堀雅秋の作風は、一貫してありふれた日常に生じる取るに足らない出来事の連続であり、そこに写し出される人間の卑俗さと暴発を生々しく、独特のユーモアを交えて描くことだ。近年では大森南朋、田中哲司、赤堀雅秋の3名による演劇ユニットのプロデュース公演として『神の子』(2019年)、『ケダモノ』(2022年)、『ボイラーマン』(2024年)を発表。時世の空気感を作品に反映するとともに、集まった出演者のイメージを覆すような「⾒たことのない役」を引き出すことに定評があり、多くの俳優から信頼を寄せられている。
そんな赤堀の最新作『震度3』が今夏、上演される。気象庁によれば、震度3とは“屋内にいる人のほとんどが、揺れを感じる”と定められている。ニュースで報道されるような大きな地震、震度5強でも最大震度7でもなく、あえて『震度3』を選択したところに赤堀らしさを覗かせる。
主演を務めるのは、2025年の第32回読売演劇大賞優秀男優賞受賞、舞台や映像で硬軟さまざまな役を演じ分け独特の存在感を放つ荒川良々。赤堀作品には常連の荒川が『ケダモノ』で見せた怪演から約3年ぶりにプロデュース公演に登場する。 共演に、5月公開の映画『金子差入店』で俳優として新境地を開く丸山隆平。赤堀とは『パラダイス』(2022年)以来、2度目の演出・共演となり、これまで商業演劇で主演を務めてきた丸山が今作で初めて小劇場の舞台に立つ。そして、映画『パリピ孔明 THE MOVIE』や現在放送中のTBSドラマ『イグナイト-法の無法者-』など次々に話題作に出演する上白石萌歌。清純なイメージをもつ上白石が初の赤堀演出でどのように化けるのか期待が高まる。さらに、荒川とともに『ケダモノ』で鮮烈な印象を残したあめくみちこが再び登場し、初参加の山下リオに、水澤紳吾、西本竜樹、松浦祐也ら赤堀の世界観を熟知した手練れの俳優陣が一堂に会した。
本公演は、劇的な展開を望まず、平穏なのか不穏なのかもわからない混沌とした日常、しかし確かに得体の知れない何かが迫ってきている、そんな胸がざわつく感覚をタイトルから滲まさせる。果たして震度3の地震はやって来るのか、来ないのか。わかっているのは、壮大な物語には決してならないという事だけ。地震という巨大なファクターがどのように物語に作用するのか、劇場で全貌を確かめよう。
赤堀雅秋プロデュース『震度3』
作・演出:赤堀雅秋 コメント
とにかく泥臭い、⼈間臭い作品にしたいと思っています。 荒川良々、あめくみちこ、水澤紳吾、松浦祐也、西本竜樹は、その格好の材料です。その中に初めてご⼀緒する上白石萌歌、山下リオが、いい意味で異物として化学反応を起こしてくれたら、と。特に丸山隆平という、今までは看板として大きな商業作品に幾つも立ってきた方が、本多劇場という場所で、主役ではなく泥臭く作品の中に混在することに、今からとてもワクワクします。タイトル『震度3』は、平穏なのか不穏なのか、錯覚なのか現実なのか、日常なのか非日常なのか、その狭間の揺らぎを描きたいという想いから生まれました。今、世界には大小様々な問題があり過ぎる。そんな飽和した世の中だからこそ、⽬の前のどうでもいいチンケな事象をしっかり見つめたい。最近は何回転もして、また同じ所に戻ってきてるようなジレンマを感じることもありますが、結局、書き・創る姿勢は変わらない。そういう演劇人生なんだと思います。本多劇場は現状で、自分の作品の空気感を出すため最適の場所です。そこで醸される空気感を、旅公演でもしっかりと伝えることを毎回目指しています。観劇経験のあまりない若い人たちに、「こんな演劇があるんだ」と心を震わせてもらえるような作品を届けられるよう、力を尽くしたいと思っています。
出演者コメント
■荒川良々
赤堀作品は『ケダモノ』以来、約3年振りになります。この3年の間に元総理大臣の安倍晋三が射殺されたり、小池百合子都知事が再当選したり、トランプが大統領に返り咲いたりと、思いもかけないことが続きました。またロシアがウクライナに侵攻するなど、世の中が3年前より確実にヘンな事になっていっている気がしてます。少し前に呑みの席で、赤堀さんに作品を創作するに当たって核になるものは何かと、ある先輩俳優が聞いたところマジメな顔でボケもせず、「世界平和です!」とキレイな眼で……もとい濁った黄色い眼で真っ直ぐに答えられていました。そんな人です。そんな赤堀雅秋の新作です。まだ『震度3』という題名しか決まっておりませんが、お客様や共演者、誰よりも自分が一番楽しみにしております。
■丸山隆平
赤堀さんが大好きな自分にとって、『パラダイス』に続いての2度目の演出・共演にお声がけいただけたことが、まず素直に嬉しいです! 最初の、赤堀作品との出会いは映画『その夜の侍』。続いて映画『葛木事件』、さらに舞台を何作も拝見したのですが、作品の登場人物たち、そのグロテスクな部分を誇張して表現するのではなく、等身大に描いているところが大きな魅力だと感じています。今回、共演の皆さんは赤堀作品ベテランの方から初めましての方まで幅広くいらっしゃいますが、ただただ⼀緒に役を生き切ることが楽しみでなりません。またタイトル『震度3』には、昔は危機感があったのに、どこかで麻痺してしまってる……。そんな印象を受けてドキッとしました。赤堀さんはじめ、共演者の方々、そして観客の皆様と一緒に、タイトルが表す“現実よりも現実”にトリップするのが楽しみです。僕にとっては初めての本多劇場。こんな殺伐とした世の中ですが、お客様とは是非とも無事劇場でお会いしたいと思います!
■上白石萌歌
初めて赤堀雅秋さんの作品に参加させていただきます。昨年上演された『台風23号』を拝見した時は、軽快に飛び交う言葉の奥に生と死の香りがするような、不思議な感覚を覚えました。誰もがそっと胸に抱くストレンジを、どの作品でも生々しい息づかいで描いてらっしゃる印象があります。共演の皆様は初めましての方が多いのですが、宣伝ビジュアル撮影で一堂に会した際、既によい空気が感じられたので、創り上げていく過程をご一緒できることが、さらに楽しみになりました。タイトルから感じたのは、「日々を生きる中で生まれる心のたゆたい、不確かなものへの漠然とした不安、ぐらぐら、ふつふつと沸き立つ気持ち」。
赤堀さんの劇世界を泥くさく生きられるよう、必死に稽古にしがみつきたいと思っています。
■水澤紳吾
今作で5回目の参加となる赤堀さんの舞台。回を重ねるたびに身の引き締まる思いも増して、今はよじれて切れてしまいそうな心境です。自分にとっての赤堀作品の魅力は、劇中で描かれる、登場人物たちの心身に溜まっているよどみが暴発するところ。傍からみたら「なんで?」と引いてしまうけど、切実さの発露する瞬間に心をえぐられます。中でも『ケダモノ』での、あめくさんと荒川さんのやりとりはすごかったです。 今回共演には、私と同じく“乞食担当”の西本さん、松浦さんがいます。このところ本当に素晴らしい芝居をしているお二人で、追いついていけるか心配です。私には、気合で食らいついていくしかできないので、必死にやります。 赤堀さんの戯曲と演出で一緒に稽古し、近くで芝居を観られるのが嬉しい出演者の方々が揃う今回。ビビッていますが是非、劇場にお越しください。
■山下リオ
赤堀雅秋作品に出演できて、ようやく一端いっぱしの役者になれると思っていたので、お声がけいただいた時は率直に嬉しい気持ちと、そこに踏み込む恐怖の半分半分でした。赤堀さんの作品には、たばこみたいな人たちが出てきます。燃え尽きていく、その周りに⽴ち上る黒い煙が、たまに美しく見える時もあるなぁなんて。物語としてハッピーエンドでなかったとしても、私は観終えた時、どこか救われた気持ちになるんです。同時に観劇中は、あまりのリアリティに何度も圧倒されるのですが、その空気が稽古場でどうつくられるのか、自分にできるのかを、試されるような気持ちにもなっています。座組の方々は、私にとってはレジェンドの集まりにしか見えません。尊敬する先輩方の背中をしっかり見ながら、置いてけぼりにならないよう食らいついていきたいと思います。
■西本竜樹
2021年の舞台『⽩昼夢』で、赤堀さんの稽古場代役としてお手伝いをさせて頂き、荒川さんともご⼀緒させて頂きました。その後、赤堀さん演出の『蜘蛛巣城』(23年)に呼んでいただき、水やん(水澤紳吾)とはそこで初めて共演。その後も仲良 くしてもらっています。松ちゃん(松浦祐也)は共演は初めてですが、水やんと一緒に東京乾電池の舞台をよく観に来てくれて、仲良くしてもらっています。 この方達と創作するということは、よくある仲良しこよしのプロデュース公演には絶対になりません。それがとても楽しみであり、緊張感も持っています。赤堀作品の魅力は、人間のダークな部分が笑いに繋がっているところだと、個人的には思っています。加えて『震度3』という、不穏で胸騒ぎのイメージがするタイトルがつく今回。面白くなる予感しかありません! 是非、観にきて下さい!
■松浦祐也
先日、内装仕事をしていた時のこと。施主さんから菓子の差し入れをいただきました。年配の職人さんがマーブルチョコを全部出し、難しい顔をしながら黄色だけ選んで食べていました。「黄色が好きなんですか?」と訊くと、その職人さんは「黄色はバナナ味で美味いんだよ」と真面目な顔で教えてくれました。もちろんマーブルチョコは全部同じ味です。「ああいうセリフ、なかなか書けないよなあ」と思ったのですが、帰りの電車の中で「赤堀さんなら書ける!」と思い至りました。赤堀さんは僕にとって、そんな稀有な劇作家です。今回、赤堀さんに呼んでいただいてとても嬉しいし、荒川良々さんや水澤紳吾さんと再びやれることも楽しみです。でも、それ以上に怖い。久しぶりの演劇ですし、やっぱり赤堀さんの芝居は緊張します。とにかく懸命にやりますので、是非ご観劇下さい!
■あめくみちこ
前回出演させていただいた舞台『ケダモノ』では、真面目に働き、親の介護をしてきた普通のおばさんが、若い人(良々さん)に恋した挙げ句、煮詰まり、思いあまって殺してしまうという役を演じさせていただきました。戯曲のラストシーン、その原稿を初めて読んだ時の衝撃は今でも忘れられません。一生懸命生きようとすればするほど、世の中から外れ、はみ出してしまう。そんな人たちを遠慮なく描き切ってしまうところが、何度でも赤堀雅秋さんの芝居を観たいと思わせる、また俳優には参加したいと思わせる魅力なのだと思います。だから今回お声がけをいただいた時も、血沸き肉躍る感覚に全身が包まれました。まだどんなお話で、どんな役かは白紙状態。だから今の私は全身不安の固まりであり、同時に全身期待と楽しみの固まりでもあります!