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提出された要望書提出された要望書

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若年型甲状腺癌に関する調査・研究を行う「若年型甲状腺癌研究会」(JCJTC)は6月12日、福島県に対し、「福島県県民健康調査『甲状腺検査』に関する要望書」を提出した。

開始から13年が経過した福島県の「甲状腺検査」を巡っては、放置しても生涯にわたって何の害も出さない病気を見つけてしまう「過剰診断」の被害を生んでいる、という指摘がある。

一方、福島県は公式に過剰診断の被害を認めていないほか、過剰診断という「4文字」さえ公にしていない。

JCJTCは今回の要望書で、①甲状腺検査を学校の授業時間内に実施しない②過剰診断の意味と国際専門機関からの勧告を正式に伝える③利害関係のない新たな委員会を設置するーーの3点を求めた。

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経緯を振り返る

約1000億円という莫大な予算が配分されている県民健康調査。その中の一つである甲状腺検査は、県が福島県立医科大学に委託し、2011年10月から実施されている。

検査の対象は、事故当時18歳以下だった県民ら約38万人。これまで353人が「悪性(悪性疑い)」と判定され、299人が手術をしている

一方、福島で多く見つかっている理由は、「原発事故による放射線被ばくの結果ではない」というのが世界的なコンセンサスだ。

「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」は2021年に公表した報告書で、福島の子どもたちの間で甲状腺がんが多く見つかっているのは「非常に感度が高いスクリーニング技法がもたらした結果」と指摘。

国際がん研究機関(IARC)も2018年、過剰診断の観点から「原発事故後であっても甲状腺のスクリーニングを実施することは推奨しない」としている。

しかし、この国際機関の見解について、県は検査対象者らに十分説明していない。それどころか、県の冊子「甲状腺検査のメリット・デメリット」では、「過剰診断」という4文字も使われていない。

そのような状況であるにもかかわらず、検査が学校の授業時間内に行われているため、専門家から「任意性が担保されていない」「人権問題・医学倫理の問題」という指摘が出ている。

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これまでの取材をもとに筆者が作成これまでの取材をもとに筆者が作成

県側の「不安が軽減」は科学的根拠がない

6月12日に福島県庁を訪れたのは、JCJTCの大津留晶さん(長崎大学客員教授)と緑川早苗さん(宮城学院女子大学教授)。

2人は福島医大に在職中、甲状腺検査の運営や現場の業務に携わった経験があり、大津留さんは甲状腺検査部門長、緑川さんは甲状腺検査室長をそれぞれ2015〜18年に担った。

この日、大津留さんは県民健康調査課の植田浩一課長に要望書を手渡し、福島の甲状腺検査で発見されている甲状腺がんは「過剰診断や数十年後に発症するがんの大幅な前倒し診断である可能性がある」と伝えた。

また、「放射線の影響とは別問題で、一生もしくは中年以降まで治療の必要のない病変を早期に検出し治療することで、子どもや若者に多大な不利益を与えている」と述べ、次のように語った。

「子どもや若者の甲状腺がんを超音波検査で早期診断し、早期治療することで、その後の経過が改善するというデータは存在しない。一般の人々に放射線被ばくとの関連を想起させ、風評の原因になる」

大津留さんはこのほか、要望した3点(①甲状腺検査を学校の授業時間内に実施しない②過剰診断の意味と国際専門機関からの勧告を正式に伝える③利害関係のない新たな委員会を設置する)についても詳しく説明した。

具体的には、学校の授業時間内の集団検査は、子どもたちが検査への参加を断りにくくする状況を生み出し、医学倫理的に問題があると指摘。

県が検査対象者向けに作成した文書に記載されている「検査を受ければ不安が軽減」という文言には、科学的根拠がないことも示した。

また、UNSCEARやIARCといった国際機関の見解が広く伝えられていないことや、甲状腺検査などの状況を議論し合う「県民健康調査検討委員会」の委員の利益相反が検討されていないといった点も問題視した。

要望書を手渡した大津留晶さん(左から3番目)と緑川早苗さん(左から2番目)。一連の問題について取り上げている渡辺康平・福島県議(左)も参加した。要望書を手渡した大津留晶さん(左から3番目)と緑川早苗さん(左から2番目)。一連の問題について取り上げている渡辺康平・福島県議(左)も参加した。

福島県側は実質「ゼロ回答」

要望書に対する県側の回答は非公開で行われたが、その後に行われた2人の記者会見によると、実質「ゼロ回答」だったという。

例えば、学校の授業時間内に行う検査によって任意性が担保されていないという指摘については、検査のお知らせは自宅に送っており、考える時間があることから「任意性は担保されている」という趣旨のことを説明。

UNSCEARやIARCなど国際機関の見解を住民に十分伝えていない理由に関しては、県民健康調査検討委員会で十分議論しているという回答だったとした。

緑川さんは記者会見で、要望書を出した理由について「福島医大時代に甲状腺検査が住民の負担にならないよう取り組んできたが、それが医大の中で受け入れられなかった。科学者として論文を発表していくことがやるべき仕事だが、それだけでは全く状況が良くならなかった」と述べた。

さらに、「出前授業などでスライドを用いて説明してきたが、過剰診断が起きていることや、IARCは原発事故後であっても甲状腺スクリーニングは推奨していないないことを伝えることは禁止された」と明かし、「県は甲状腺検査をしていた私たちが言っていることに危機感を持ってほしい」と訴えた。

また、県が「デメリットも十分に説明している」という立場である場合、検査対象者がこれから過剰診断の被害について声を挙げたとしても、「自己責任」とされる可能性がある。

この点について、大津留さんは会見後、ハフポスト日本版の取材に「私たちもその点について伝えた」と明かし、「県はそういう認識はないとしていたが、自己責任になるのはよろしくないこと」と述べた。

また、福島医大の倫理審査委員会でも、過剰診断の影響について十分検討してほしいと求めていた。

内堀知事は会見で

JCJTCの要望活動を巡り、福島県の内堀雅雄知事は6月16日、定例記者会見で河北新報の質問を受け、受け止めを語った。

まず、甲状腺検査のあり方については、「検討委員会などで議論がされていることから、県としては専門家の議論や意見を踏まえながら対応していく」と回答。

その上で、「検査のメリット・デメリットを踏まえ、任意性を担保した上で、対象者の理解と合意を得て実施することが重要であると認識している。検査を希望する人が円滑に検査を受けることができるよう対応する」と話した。

また、「検査をいつまで続けるのか」という質問に対しては、「検査のあり方は検討委員会の議論を注視する」とし、JCJTCから要望を受けた3点について明確に答えず、「過剰診断」という言葉も発しなかった。

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