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7月4日に日本公開を迎えた「ハルビン」7月4日に日本公開を迎えた「ハルビン」

今から100年以上前、日本の統治が進む中、祖国独立のために闘った大韓義軍のアン・ジュングンを題材にした韓国映画「ハルビン」が、7月4日に日本公開を迎えた。

ウ・ミンホ監督が描きたかったのは、「韓国で誰もが知る独立運動家」の裏側にあった、アン・ジュングンの人間的な姿、そして、歴史の中に名前が残らなかったかもしれない無数の同志たちの存在だ。アン・ジュングンに暗殺された伊藤博文をリリー・フランキーさんが演じているが、「演じるのは日本の俳優でなければいけない」とも考えたという。

これまでも「インサイダーズ/内部者たち」や「KCIA 南山の部長たち」などで、韓国社会や歴史上の事件を独自の視点で再解釈してきたウ・ミンホ監督。今、この事件をテーマにした理由や、映画で歴史の記憶を語り続ける意義について、インタビューで詳しく聞いた。

【動画】「あの民たちは国難のたびに変な力を発揮する」…伊藤博文のセリフから始まる「ハルビン」予告編

6月末に来日しインタビューに答えたウ・ミンホ監督6月末に来日しインタビューに答えたウ・ミンホ監督

「アン・ジュングン1人ではなく、多くの犠牲や献身があった」

本作は、日本による韓国併合の直前の1909年、大韓義軍に加わった独立運動家のアン・ジュングンとその同志が、初代韓国統監の伊藤博文を中国・満州のハルビン駅で射殺するまでを描く。

祖国独立のために命を尽くしたアン・ジュングンは、翌年に処刑されるまでの獄中で、日本、韓国、中国が連携して東アジアの平和を目指す「東洋平和論」を執筆した。

ウ・ミンホ監督は書店で偶然自叙伝を手にし、アン・ジュングンの語られてこなかった一面に注目した。

映画の冒頭、大韓義軍はシナ山の戦いで日本軍に勝利する。ヒョンビンさん演じるアン・ジュングンは人道的立場から、仲間の反対を押し切って捕虜を解放するも、その後急襲に遭い、多くの同志を失う。アン・ジュングンは、その罪悪感に深く苦悩した末、伊藤博文の暗殺を決意する。

ヒョンビンさん演じるアン・ジュングンヒョンビンさん演じるアン・ジュングン

「ハルビンで計画を遂げることができたのは、アン・ジュングン1人の力ではなく、多くの犠牲や同志の助け、献身があったからです。そうしたことを映画でうまく表現するには、恐れや弱さも含め1人の人間として描くほうが良いと考えました。

私は、歴史というのは網のようなもので、無数の縦と横が組み合わさり、すべてが繋がってひとつのことが成し遂げられると思っています。終戦後、韓国が民主化を経てここまで来れたのも、私の両親の世代、さらにそのもっと前の世代の献身や犠牲があったからです。その中には、アン・ジュングンのような有名な独立運動家だけではなく、記録には残っていない大勢の人がいました」

立場を超えた独立運動家たちの共闘「女性もいたのではないか」

本作では、アン・ジュングンとともに独立を目指した同志たちの内面にも迫っている。中でも、日本軍に協力する「密偵」として疑われるウ・ドクスン(パク・ジョンミンさん)と、日本語が堪能な通訳のキム・サンヒョン(チョ・ウジンさん)という2人の関係は、どう描こうと思ったのだろうか。

手前が独立運動家のウ・ドクスン、左後ろがキム・サンヒョン、右後ろはイ・チャンソプ(イ・ドンウクさん)手前が独立運動家のウ・ドクスン、左後ろがキム・サンヒョン、右後ろはイ・チャンソプ(イ・ドンウクさん)

「当時の韓国には身分制度があり、ウ・ドクスンは一般的な民で、キム・サンヒョンは貴族階級にあたる両班(ヤンバン)でした。キム・サンヒョンは賢い仙人のような人である一方、ウ・ドクスンはどこか荒々しく愚直な人で、貴族階級からの蔑視に抗う運動をしていました。本来であれば対立していた2人ですが、国を奪われたら、階級は関係なくなる。そんな2人が国を取り戻すために共に闘い、命を預け合う中で生まれてくる私的な感情にもフォーカスをあてました」

ウ・ミンホ監督は、アン・ジュングンが伊藤博文を撃つまでの「網のような歴史の繋がり」の中には、女性がいたはずだという視点も取り入れた。映画のオリジナルキャラクターのコン夫人(チョン・ヨビンさん)は、女性の独立運動家で、ハルビンでの計画を立てる中で大きな役割を果たす。

「当時は男性だけではなく、女性の独立運動家も活躍していました。ハルビンに関する記録には残っていなかったのですが、実際には女性も関わっていたのではないかと思い、コン夫人を登場させました。彼女は女性の独立運動家が確かにいたのだということを象徴する存在です」

ウラジオストクでアン・ジュングンらの計画を手助けするコン夫人ウラジオストクでアン・ジュングンらの計画を手助けするコン夫人

「祖国から離れ、どんなに孤独で寂しかっただろう」

 当時、アン・ジュングンらは日本による支配が広まる韓国から亡命し、ウラジオストクなどのロシア沿海州で日本軍から身を隠しながら活動していた。

ウ・ミンホ監督は「この映画を撮る時に最も重要だと思ったのは、正しさのために誇りをもって行動しながらも、同時に孤独や恐怖を抱えるアン・ジュングンや同志の心を、どう伝えるか」ということだったと振り返る。そのため撮影やカメラワークにもこだわった。

ヒョンビンさん、イ・ドンウクさん、チョン・ウソンさん(特別出演)ら韓国を代表する俳優が出演しているが、俳優のクローズアップは少ない。クライマックスとも言える伊藤博文を撃つシーンも、あえて俯瞰したショットを採用した。

「カメラが近すぎると、彼らの孤独や恐怖を誇張してしまうのではないか、少し距離をとることでこそ、心がより崇高な形で伝わると思いました。伊藤博文を撃つシーンは、祖国独立のために亡くなった人たちが上からその瞬間を見ているというイメージを持っていました」

撮影は6カ月にわたり、韓国、モンゴル、ラトビアなどで行った。「ロケハンだけで地球2周半ほどの移動距離だった」という。

特に、アン・ジュングンが凍りついた豆満江の上をひとり歩くシーンは鮮烈だ。氷原や砂漠など、過酷な自然の中で撮影に挑んだヒョンビンさんは、来日時の舞台挨拶でこのように語っていた。

「監督から事前に、『当時は祖国独立のために苦労した人が数多くいたので、カメラやブルーバックの前で簡単に撮影してはいけない、十分な覚悟をしてきてほしい』と言われました。自然の中での撮影で『あの時代の人たちはこのようなことを考えていたんだろう』と思いを馳せることができ、演技をする上で助けになりました」

凍りついた豆満江の上をひとり歩くアン・ジュングン凍りついた豆満江の上をひとり歩くアン・ジュングン

ウ・ミンホ監督がそこまでリアルを追求したのには理由があった。

「祖国から離れた彼らはどんなに孤独で寂しかっただろうか。家族はみな韓国にいて、信じられる人は同志しかおらず、裏切りも起こる。独立運動家の生きてきた旅路を映画に込めたく、セット撮影やCGではそれができないと考えました。

実際に巨大な荒野に立った時に、自分の肉体はすごく小さいが、精神は大きく呼び覚まされていくような感覚がありました。当時、日本は大国で、韓国は弱小国でしたが、こういう経験があったからこそ、アン・ジュングンたちは肉体的、精神的な限界を迎えても立ち向かっていくことができたのではないでしょうか。それをヒョンビンたちも感じ取って表現してくれました」

「伊藤博文=卑劣な人間」に違和感も

祖国独立を踏みにじる「年老いた狼」と呼ばれる伊藤博文役は、リリー・フランキーさんが演じた。ロシア高官と会うためにハルビンに向かうまでの車内や駅で撃たれる場面など、登場シーンは決して多くはないが、スクリーンの中で突出した存在感を放っている。

「『万引き家族』や『そして父になる』など是枝裕和監督の作品を観て、リリー・フランキーさんの大ファンになり、いつか一緒に映画を撮りたいという夢があったんです。もともと伊藤博文役は日本の俳優でなければいけないと思っていたので、ならばリリーさんにお願いしたいと。ダメ元で連絡したら、私の作品をすべて観てくださっていて、快く引き受けてくれました。

韓国では独立運動を描いたドラマや映画、ミュージカルはたくさんありますが、伊藤博文が非常に卑劣な人間として描かれていることに、私は違和感を持っていました。

伊藤博文は、日本と韓国では見方の異なる人ですが、日本では初代内閣総理大臣として評価されている偉人だと知り、実際にはカリスマ性や品格のようなものがある人なのではないかと思ったのです。リリーさんは私が思い描いていた伊藤博文像を完璧に表現してくれました。『ハルビン』では、アン・ジュングンや伊藤博文について、これまでの作品とは少し違った捉え方を示すことができたのではないかと思います」

リリー・フランキーさん演じる伊藤博文リリー・フランキーさん演じる伊藤博文

「目の前で起こる現実を反芻しながら観られる作品を」

ウ・ミンホ監督は前作の「KCIA 南山の部長たち」では、1979年に独裁者として知られたパク・チョンヒ大統領が、諜報機関である中央情報部(KCIA)の部長に暗殺された事件を題材にした。フィクションの要素も交えながら「伝記映画」とは異なる独自の視点で、歴史に光を当ててきた。

韓国では、日本の植民地支配下だった時代や、軍事政権下の民主化運動など、近現代史を描いたヒット作が多く作られてきた。ウ・ミンホ監督は映画を通じて歴史を語り続けることの意義を、どう考えているのだろうか。

「事件であれ人物であれ、過去の時代を扱っていても、今を生きる同世代の人が今目の前で起こる現実を反芻しながら観られる作品を作りたいと思っています。

『ハルビン』は、奪われた国を取り戻すだけではなく、個人の人生を諦めずに自分の信念を守りながら生きれば、自分たちのため、後世のために、より良い未来を作っていけるということを描きました。

韓国はこれまで何度も危機にさらされてきた国です。1987年に民主化を成し遂げるために多くの人が犠牲になり、その間軍事クーデターも起きました。昨年12月の戒厳令も、民主主義がおびやかされるような危機でした。その度に、善良な人々が連帯して行動に移し乗り越えてきました。

歴史を描く映画が必要なのは、それを伝えないと、繰り返されてはいけない歴史、悲劇がまた繰り返されてしまうからです。過去と今が繋がるストーリーには、国や人が正しい方向に進めるように、という思いを込めています」

(取材・文=若田悠希/ハフポスト日本版)

◾️公開情報

『ハルビン』

7月4日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

製作:HIVE MEDIA CORP

監督:ウ・ミンホ

脚本:キム・キョンチャン、ウ・ミンホ

撮影:ホン・ギョンピョ

出演:ヒョンビン、パク・ジョンミン、チョ・ウジン、チョン・ヨビン、パク・フン、ユ・ジェミョン、イ・ドンウク、リリー・フランキー、チョン・ウソン(特別出演)

配給:KADOKAWA Kプラス

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