今年4月にオープンし、折り返しに入った大阪・関西万博。
180以上のパビリオンが会場を賑わせる中、女性の活躍推進をテーマにした「ウーマンズ・パビリオン」では、ジェンダーを取り巻く社会課題や女性活躍推進に関する多様なイベントを実施している。
「シスターフッド」というキーワードを軸に、現役の女性取締役や管理職のネットワーク構築、先輩リーダーたちによる新たなリーダーの育成や輩出を後押しする一般財団法人「Toget-HER」は7月10日と11日、女性のエンパワーメントと社会課題の解決に関する特別イベントを同パビリオンにて開催した。
本記事では、主に日本企業の競争力を強化するための「ビジネス環境における男女格差是正に向けた提言」の内容について、抜粋して紹介する。
男女格差是正に向けた提言
プレゼンテーションには、大塚泰子さん(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社パートナー/サステナビリティアドバイザリー統括)が登壇。ジェンダーにおける日本社会の閉塞感の背景や課題の全体像などについて紹介した。
また、日本企業の競争力を強化するために、企業がそれぞれのコーポレートガバナンスコード(企業が持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するために、守るべき原則や考え方をまとめたルール)に導入すべき内容について、Toget-HERから提言した。
大塚さんは現状について「そもそも日本企業の多くは、女性に限らず、シニア層以外にとって働きづらい状況です」と話す。
さらに「2022年の大手人材紹介会社の調査では『あなたが働いている職場は〇〇にとって働きやすいですか?』『〇〇にとって働きにくいですか?』と聞いたところ、若手や人種的(マイノリティ)、民族的(マイノリティ)、そしてLGBTQの人にとっても働きにくいという評価が出ています。しかも職場への満足度は調査対象18カ国中で最下位でした」と説明し、若者やマイノリティにとって働きやすい世の中を実現するために、新たな打ち手が求められると説明した。
また、世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数において、依然として日本のジェンダーギャップが148カ国中118位で低迷している現状については「テロなどの深刻な課題を抱え、世界の貧困国の中に入るブルキナファソとも順位が2つしか差がない状況です」と話し、その深刻さを強調した。
大塚泰子さん(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社パートナー/サステナビリティアドバイザリー統括)続いて、大塚さんは2030年が年限となった「女性役員比率30%」を目指す政府の目標について言及。
共同通信が今年5月に女性役員を対象に実施した調査では、回答者の54%が「(女性役員比率30%を)達成できない」と回答しているという。調査において女性役員比率30%を実現できない理由として「伝統的な性別役割分業の影響」と回答した割合は71%に上り、「ワークライフバランスの問題」が63%と続いた。
こうした現状について、大塚さんは「政府は就業者数の減少により、2040年に日本のGDPが480兆円を下回ると試算しています。しかし女性の労働人口が男性と同じくらいまで上がると減少幅を40兆円抑えるとも言われています」とコメント。
さらに女性の労働人口が増えることで、男性の幸福度が上がるという研究結果も出ているという。大塚さんは「多くの男性が『1人で家庭を支えなくてはいけない』『自分が稼いでいかなくてはいけない』とプレッシャーを感じていることを加味すると、二馬力で働くことで精神的に楽になったり、次世代の子供に教育費をかけられたり、またその延長線で税収も増えたりと、社会全体の幸福度が上がっていきます」と説明した。
必要なのは「ポジティブな評価」ではない
続いて、大塚さんは女性活躍推進の話をする上で頻出する3つの声「女性に下駄をはかせるのは、男性に対する逆差別ではないのか?」「そもそも女性の母数が少なく手の打ちようがない」「管理職になりたくない女性が多い」について、調査結果を基に現実との乖離点を紹介。
さらに女性活躍というと、管理職への登用などの「評価昇進」を軸に動く企業が多いことに関して、「評価は本来一番最後に来るものなので、気を付ける場所は、教育、採用、配属、育成、働き方、処遇など全体にわたるのでは」と問いかけた。

大塚さんは「特に地方では『女性には勉強させないでくれ』などの衝撃的な発言が未だにあることや、大学受験で男女の採点の厳しさが異なっていたなどのニュース、一部企業が採用面接において女性だけに結婚や出産の予定について聞いている事例に代表されるように、そもそも女性が評価される働き手に成長するまでには多くの障害が生じています」と説明。
さらに「就職後も女性が主要部署に配属されにくいほか、出世につながるような経験を積ませてもらえなかったり、大きなプロジェクトへの参加機会が与えられなかったりといった課題もあります」と話し、評価までの道筋を整えて、女性が平等で正当な評価を得られる環境づくりが求められると強調した。
評価基準が長時間労働と結びついていることも大きな課題だ。働き方の多様化に対応した評価基準も求められている。ジョブ型雇用をはじめとした役割と求める結果(ロール&レスポンシビリティ)で評価し、労働時間ではなくアウトプットベースで働く雇用スタイルではない企業が多く、評価の物差しが「遅くまで頑張っている」などの時間依存型に絞られやすい。
そうした仕組みの中では、ワーキングペアレンツなどの時間制限がある中で働いている人は評価されにくい。さらに、そこには「家庭のことは女性がすべき」という偏見や、良かれと思って産休から復帰した女性を重要な役職から外す「マミートラック」も必然的に生じ、八方塞がりになっているという。
DEIは企業成長に欠かせない「経営戦略」

大塚さんはこうした数々の課題について「法規制や政府の方針、各社の取り組みなど、各所で既に策を講じていることも事実です」と話した。さらに「取り組んでいるにも関わらず、依然として課題が解決していないのであれば、現状からもう一段踏み込んだ取り組みが必要ではないか」と問いかけ、目を向けるフェーズに来ていると説明した。
そこで今回、Toget-HERでは課題解決に向けた新たな打ち手として、コーポレートガバナンスコードに「多様性のある人材ポートフォリオ計画策定と情報開示」「取締役会の女性比率は数値目標を明記する」という改定案提言。人材ポートフォリオの多様化は主に「株主の権利・平等性の確保」「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」「株主との対話」から構成される。取締役会の女性比率については、2030年までに女性役員の比率30%という目標を踏まえることを明記する。
大塚さんは「中長期的な企業価値を上げていくために自社の経営戦略に向けたポートフォリオの多様化を行い、それを適切に開示し、社長の後継者を選ぶ際には多様性を重視した計画をする。さらに取締役会が機能しているのか、株主をはじめとした外部の評価とともに開示していく内容です。多様性の確保を経営戦略として理解していただき、企業のコーポレートガバナンスコードに提言内容を入れていただけるように、金融庁など関係する皆様と1年ほどじっくりと話を進めていきたいと考えています」とコメントした。
最後に「選ばれる企業でいるため」の持続可能な経営戦略のヒントとして、Z世代の54%がDEIに消極的な企業について「好感を持てない」「働きたくない」と回答していることや、68.7%は「年収が50万円減ってもDEIに積極的な企業で働きたい」と回答した調査結果の引用。「新卒や投資家から選ばれる企業でいるための取り組みを提示する一助を担っていければいいなと思います」と意気込みを表明し、セッションを締め括った。
ライバル企業が協働で、若者の「地域離れ」解決に挑む
2日間にわたって開催された本イベントには「女性活躍」を共通のキーワードとして、上川陽子前外務大臣をはじめ、産学官で活躍する登壇者らも登壇。初日の「地方の人材流出は食い止められるのか〜連帯が地域を変える〜」には、木下麻子さん(ひろぎんホールディングス執行役員)と坂口有美子さん(ちゅうぎんフィナンシャルグループ執行役員)、そして横山浩花さん(国連女性の地位委員会 ユース派遣者)が登壇し、小安美和さん(Will Lab)がモデレータを務め、地方の視点から女性の活躍推進のヒントを考えた。
「地方の人材流出は食い止められるのか〜連帯が地域を変える〜」本セッションにおいて特に大きなキーワードとなったのが「連携」だ。特に坂口さんが所属するちゅうぎんホールディングスと木下さんが所属するひろぎんホールディングスは競合同士のライバル関係にあり、今年3月に締結した「サステナビリティ推進の連携協定」は大きな注目を集めている。
環境・社会課題(特にカーボンニュートラルやDEI)の解決や自動車産業支援、地域活性化などを目的とした同パートナーシップの背景について、坂口さんは「両社グループの産業地域は造船業や自動車産業などの製造業が集積しており、自然資本にも恵まれた地域です。そうした中で環境保全やカーボンニュートラルへの対応や転出超過など、大きな課題の解決が急務になってきました。環境や社会の課題は一社で解決ができないものなので、互いの非競争領域において地域の課題を共に解決して、足並みを揃えて地域発展を目指していこうということでパートナーシップを結ぶに至りました」と説明した。
また、セッションには岡山市出身で3月に岡山県内の大学院を修了した横山浩花さんが登壇。大学や自治体との連携を通じて人権についてのワークショップや大学祭での出前授業などを行っている横山さんは、若者の視点から地方で感じた課題について共有した。
横山さんは「ジェンダーや政治など社会的な内容を含め、生きる上で感じる違和感について話すサードプレイスが足りていないように感じます。同世代の仲間が少ないと違和感や生きづらさに対して声をあげにくいですし、『自分は変わり者なんだ』という思考に陥りやすくなり孤独を感じてしまいます」と話し、若者が「ここで暮らしたい」と思える地域づくりには、仲間づくりの場が必要だと提言。
加えて、多様な価値観に触れ、根強い固定観念を払拭することの意義についても言及。横山さんは「選択肢が見えづらい、多様な価値観に触れる機会の少ない地域では、地域コミュニティ特有の温かさや安心感がある一方で、個性を開拓しにくい仕組みになっているのではないでしょうか」と問いかけた。
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女性の活躍を含めたDEIの推進は、企業や地域など、多様なステークホルダーの持続可能性において不可欠になりつつある。
女性や若者などからも選ばれる企業や地域であり続けるため、今後も各所で多様な取り組みが推し進められていきそうだ。


