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2022年のFIFAワールドカップ開催国にもなったカタール。今、世界に向けたコンテンツ発信の地として注目を集めています。

原油や天然ガスで経済発展したカタールは、現在はコンテンツ立国を目指す国に変貌を遂げています。東西の結節点という立地に、最先端のインフラや文化的な柔軟性があることを活かし、カタール政府関連機関「Media City Qatar(MCQ)」を2019年に設立。

国内だけではなく、日本企業、日本のコンテンツに対しても世界進出に向けた包括的な支援を行っています。

映画、アニメ、ゲーム、eスポーツなど日本発のエンタテインメントが、中東のカタールから、さらにヨーロッパ、北アフリカといった4億5000万人規模の市場へ進出する門戸が広がる可能性について考えたい。

そんな狙いで、関係者が集う『日本コンテンツの未来――中東、そして世界へ』が7月31日、TBS CROSS DIG主催、MCQの協賛で開催されました。

MCQ・CEOのジャシム・モハメッド・アル・コーリ氏MCQ・CEOのジャシム・モハメッド・アル・コーリ氏

全世界に向けた制作では、アイデアに対する価値が認められるように

MCQ・CEOのジャシム・モハメッド・アル・コーリ氏は、『鬼滅の刃』『君の名は。』と言った人気コンテンツ、宮崎駿、黒澤明といったレジェンドから、SONY、富士フィルム、東芝などを引き合いに、日本のエンタテインメントがこれまでカタールに与えた影響について触れました。

そして、MCQ・事業開発部長のタイール・カレド・アナニ氏は「私たちは東京と東京の未来を信じています」と、日本とカタールのコラボレーションに期待を寄せます。

イベントでは、日本のコンテンツ製作、そして海外市場に精通するトップランナーたちがセッションに登壇しました。

セッション『豪華対談!映像業界の世界進出とは』では、TBS CROSS DIG CCO竹下隆一郎氏の進行のもと、映画監督の大友啓史氏とプロデューサーの森井輝氏が対談しました。

NHK大河ドラマ『龍馬伝』や映画『るろうに剣心』シリーズを手がけてきた大友氏は、2025年12月からはドラマ『10DANCE』が、Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』のプロデュースで知られる森井氏は『今際の国のアリス』シーズン3が、ともにNetflixでの配信を控えています。

大友氏は「日本はこれまで国内での収益で映画の制作費が回収できていたため、世界に出ていくことが少なくガラパコス化していった側面があります。今は配信サービスが増えたことで、世界に向けて作りやすくなりました」。森井氏は「『今際の国のアリス』がシーズン3を迎えたのも、世界中で視聴してもらえた結果です」と、グローバル市場に向けたコンテンツ制作の手ごたえを感じています。

映画監督の大友啓史氏映画監督の大友啓史氏

そして、グローバル基準での作り方の変化についてはこうも話しました。

「デベロップメント(企画の開発)に時間をかけられるようになりました。これまではプロダクションに入るまでの時間は軽視されがちで、対価が発生しなかったけれど、今はアイデアそのものに対するバリューが認められるようになってきました。コロナ禍で籠っていた期間に作ってきた作品がこれから開花するように思います」(大友氏)

また森井氏は、テクノロジー面でもチャレンジができたことに言及。
「ハリウッドで第一線のCG会社と一緒に製作しています。実は、日本にも同じようなマシンがあるにも関わらず、そのマシンのフルスペックを使うクオリティを求められたことがなかったんです。『幽☆遊☆白書』ではその挑戦ができたので、日本の技術者の底上げにもなりました。一方で、日本の撮影クルーの丁寧さを評価してもらえる場面もありました」(森井氏)

プロデューサーの森井輝氏プロデューサーの森井輝氏

一方、劇場のスクリーンで誰にも邪魔されずに鑑賞する映画に比べて、スマホやタブレットなどを使って自宅で鑑賞する配信作品は、視聴者に飽きさせない技術が必要になるという。視聴者が求める刺激的な作品を世に送り出す難しさもあるとした上で、NHK出身の大友氏は「テレビの作り方が活かせる時代かもしれない」。森井氏は「日本のコンテンツにはまだまだ注目が集まっています」と今後を前向きに捉えていました。

SASUKEもWiiも「説明の要らないシンプルさ」が世界的ヒットのカギ

セッション『トップクリエイターが語る海外で通用するコンテンツ』には、スポーツ・エンタテインメント番組『SASUKE』の総合演出で知られるTBSの乾正人氏、任天堂の家庭用ゲーム機Wiiを企画開発した玉樹真一郎氏が登壇しました。

SASUKEといえば世界165カ国以上に放送されている人気番組。そして、Wiiは全世界で1億台超を売り上げたゲーム機です。一見関連がないようですが実は、乾氏は企画を考える段階で「忍者みたいな番組」と上司からキーワードだけを与えられたこと、玉樹氏は「おばあちゃん子だったので、おばあちゃんも遊べるゲームを作りたかった」と、その始まりの簡潔さには共通点がある模様。

「SASUKEは子どもに見てもらいたい。子どもに訴えかけられるモチーフを大事にしています。挑戦者がコースを進む様子は、カメラが横スクロールで追いかけていくのですが、任天堂のゲーム『スーパーマリオ』のイメージ。何の説明もなくルールが理解できる感覚を大事にしています」(乾氏)

「Wiiが誕生する2006年以前はどんどんゲーム文化がマチュア(成熟)になっていった時期です。新しく遊び始めるユーザーが減少する中、どうすればゲームの未来が明るくなるかを真剣に考えていました。また、ゲームには不健康なイメージもあったので、家族みんなでできて、健康的で、笑顔で…と逆のイメージを持たせられないかと考えたんです」(玉樹氏)

任天堂の家庭用ゲーム機Wiiを企画開発した玉樹真一郎氏、スポーツ・エンタテインメント番組『SASUKE』の総合演出で知られるTBSの乾正人氏の対談任天堂の家庭用ゲーム機Wiiを企画開発した玉樹真一郎氏、スポーツ・エンタテインメント番組『SASUKE』の総合演出で知られるTBSの乾正人氏の対談

SASUKEの海外進出は、アメリカのケーブルテレビが日本の放送内容を編集してシリーズものにしたことが始まり。徐々に人気に火がつき、アメリカ人プレイヤーが競い合う番組がアメリカ制作で生まれ、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアと各国に広がっていきました。世界的な人気について、乾氏は「ナレーションや説明がなくても、『水に落ちたら失格』などわかりやすいことと、出場者の紹介で『大工さん』『パン屋さん』などわかりやすく印象付け、『この人が勝ち進みそう』などと予想がしやすいことではないか」と、シンプルさが肝要だったのではと分析します。

玉樹氏も同様にWiiのヒットはシンプルさにあると考えています。
「試しに何となくやってみたらこのやり方で合っていた、何だか楽しい、という一連の体験をする底支えしてくれるのはやはり、分かりやすさです。細かいUXデザインの機微や身体性を追求する文化が日本独自なのかもしれないと個人的には思っていますね」(玉樹氏)

SASUKEは中東でもすでに開催されており、更なる拡大が期待されるところ。

乾氏は「全ての国で自国開催をしてほしいので、世界中で同じアトラクション、同じ競技、同じ楽しさを共有している世界になってほしいです。また、今はSNSもあってプレイヤー同士が関係を深めていたりもするのですが、放送局、テレビ局間でのコミュニケーションももっと広がればいいなと思っています」と今後の抱負を語りました。

現在は任天堂を離れ、地元青森で活躍する玉樹氏。「青森のおじいちゃんおばあちゃんに理解できないものは世界に通用しない、持っていけるはずがない、そんなことを改めて感じます」と原点に立ち返っているようです。

カタールとの協業は、作品を世界に広げ、ブラッシュアップするチャンス

セッション「カタールの魅力 中東とエンタメの可能性」では竹下氏と映画プロデューサーの水野詠子氏が対談を行いました。

第75回カンヌ国際映画祭 「ある視点」部門に出品された『PLAN 75』、そして、第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された『ルノワール』(ともに早川千絵監督)は実は日本・フランス・フィリピン・カタールの合作。

カタールの映像クリエイターを支援している団体ドーハ・フィルム・インスティテュートはカタール以外の作家に対してもサポートを行っています。

水野氏は、カタールの映画制作支援について「新しいものに対して理解が深く、オープンな目で見てくれるほか、若手クリエイターをサポートするインフラが非常に整っている」と感じたそうです。

映画プロデューサーの水野詠子氏映画プロデューサーの水野詠子氏

75歳以上が自ら生死を選択できる制度が施行された近未来の日本を描いた『PLAN 75』も、1980年代後半の日本を舞台に11歳の少女のひと夏を描いた『ルノワール』も劇中の描写はきわめて日本的ながらも、国際的な評価を博しています。

「『PLAN 75』は企画段階ではローカル向けかなとも思っていましたが、様々な国の方とお会いした結果、尊厳を持って年を重ねていくことは、どの国も抱えている問題だと捉えていることがわかりました。そして、ドーハ・フィルム・インスティテュートにサポートしていただけることになりました」(水野氏)

そして、国内だけでなく、国外に映画制作のパートナーを得ることは、金銭面の支援だけでなく、さまざまな国の意見に耳を傾ける上で、映画の普遍的なメッセージを伝える上でよりブラッシュアップできること。それが大きな収穫だと水野氏は語りました。

ゲーム、映画、テレビなど様々なコンテンツのこれからを語り合ったこの日の登壇者たちゲーム、映画、テレビなど様々なコンテンツのこれからを語り合ったこの日の登壇者たち

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