カンボジア・プノンペンの王宮と、カンボジア国旗を掲げる宮殿の護衛(2004年10月27日)国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)は9月3日、カンボジア政府が当局や与党のカンボジア人民党を批判した日本在住のカンボジア人とその家族らに嫌がらせをしているとする調査結果を公表した。
HRWは2025年4〜7月、日本で暮らす23人のカンボジア人に聞き取り調査をした。このうちほぼ全員が、2017年に解党を命じられた旧最大野党の「カンボジア救国党」や、「キャンドルライト党」といった野党への支持を表明する集会やデモに参加したことがある。
また調査に応じた人のほとんどが、カンボジアの警察や軍高官、与党に任命された村長が現地の家族を訪問して、日本での政府批判の活動をやめるよう圧力をかけたと証言したという。
「夫と同じように死にたいのか」日本で難民認定
カンボジア出身のI.J.さんは、2018年から日本で暮らしている。夫は2014年、カンボジアで賃上げデモに参加していた際、現地の治安部隊に射殺された。カンボジア国内で抗議活動をする中で、「インタビューを受けるのをやめろ」「夫と同じように死にたいのか」などと警察から脅迫を受けたと、HRWに証言した。
I.J.さんは日本で50 回以上、デモやカンボジア政府に批判的なイベントに参加した。カンボジアの裁判所はI.J.さんに対し、本人が不在のまま、扇動罪で有罪判決を言い渡した。罰金刑に加えて選挙権と被選挙権をはく奪したという。日本政府は2025年6月に、I.J.さんを難民認定した。
HRWの調査ではこのほか、「畑をいじっていたら、(日本にいる)カンボジア人民党のメンバーが訪ねて来て、デモに参加するなと言われました。あまりそういうので挑発するとあなたも刑務所に入れられるよ、と(言われた)」「フン・マネット(首相)が来日した時、総理官邸の前でスタンディングデモをしました。一日後、(カンボジアの)村長が区役所に来てって(親戚に)言った。また(私が)デモに参加したからやめろって(親戚に)言ってきました」といった、当局による自身やカンボジアの親族への嫌がらせを訴える証言もあった。
HRWアジア局プログラムオフィサーの笠井哲平さんは、「カンボジア政府は、国内で行ってきた活動家や野党党員に対する著しい弾圧の範囲を、日本を含む海外に在住するカンボジア人に対しても広げている」と指摘。
「日本政府は、カンボジア政府の国境を越えた弾圧を公に批判した上で、日本在住のカンボジア人の人権をさらに守るための対策をとるべきだ」と提言する。
HRWは日本政府に対し、日本に住むカンボジア人の監視や脅迫をやめるようカンボジア政府に働きかけること、嫌がらせを受けているカンボジア人たちが助けを求められる窓口を早急に創設することを求めている。
聞き取り調査の結果は、HRWの公式サイトに掲載されている。
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