判決後「不当判決」の旗を手にする原告ら法律上同性のパートナーとの結婚を認めていない法律の規定は違憲だとして、30人以上の性的マイノリティ当事者が国を訴えている「結婚の自由をすべての人に」訴訟。
全国6件の裁判のうち、最後に始まった東京2次訴訟で、東京高裁の東亜由美(ひがし・あゆみ)裁判長は11月28日、結婚を認めていないのは合憲とする判決を言い渡した。
高裁判決6件のうち、合憲と判断されたのは初めて。東京高裁はどのような点を合憲としたのか。判決要旨全文を掲載する。
【東京2次高裁・判決要旨全文】
判決要旨
令和7年11月28日午前11時判決言渡し (101号法廷)
令和6年(ネ)第1861号 「結婚の自由をすべての人に」訴訟控訴事件(原審・東京地方裁判所令和3年(ワ)第7645号)
担当部:東京高等裁判所第24民事部 (東亜由美 (ひがし あゆみ) 裁判長)
当事者名: 控訴人ら (1審原告) 山縣真矢 外 7名
被控訴人(1審被告) 国
主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
別紙判決要旨記載のとおり
判決要旨
1 事案の要旨(判決書第2の1)
本件は、法律上の性別を同じくする者との間で法律婚制度を利用することを希望する控訴人らが、民法及び戸籍法の諸規定(本件諸規定)が現行の法律婚制度を利用できる者を法律上異性の者同士に限定しているのは、憲法24条1項、2項、14条1項に適合しておらず、これらの条項に違反する憲法違反があるにもかかわらず、被控訴人が、正当な理由なく長期にわたって、同性の者同士の婚姻を可能とする立法措置を講ずるべき義務を怠っていることが国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるなどと主張して、被控訴人に対し、同項に基づき、慰謝料の支払を求める事案である。
原審は、控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らがこれを不服として控訴した。
2 国家賠償法上の違法の意義と立法に関して控訴人らが置かれている状況について (判決書第4の4(1)、(2))
(1) 国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決)。
(2) ところで、性自認及び性的指向(性自認等)は、今日、人の重要な個性であり、性自認等に従った法令上の取扱いを受けることは、人の人格的存在と結びついた重要な法的利益である(最高裁令和5年10月25日大法廷決定参照)。また、今日では、異性の者同士に加え、同性の者同士が、永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営む人的結合関係は、一つの家族の姿として社会的承認を受けていると認められる。このような同性の者同士の結合関係は、いわば「同性の者同士の事実婚」とでも呼ぶべき性質のものである。このような同性の者同士の事実婚は、少なくとも、私的領域において、事実婚と同様の法的性質のものである。しかし、事実婚については、単に手続を欠くだけの婚姻であり、特段、届出の有無を重要視しないというのが今日の一般的な国民感情であると思われるのに、控訴人らは、実際には、私的な日常生活の様々な場面で、事実婚とも異なる状況に置かれている。
(3) 令和5年制定のLGBT理解増進法の規定内容からすると、この状況は、性自認等の多様性に対する国民の理解不足に由来するところが大きいものと考えられる。そして、国際的には、この種の理解不足に由来する差別を解消する方策の一つとして、同性の者同士に係る家族に関する法制度を創設し、その関係を公証する取組が進められ、我が国に対しても、そのような法制度の創設が勧告されている。
ところが、我が国における立法の検討状況をみると、法律婚制度については、社会状況の変化を踏まえた改正が随時行われる一方で、同性の者同士に係る家族に関する法制度については、少なくとも約10年前から、政府において、国会等で慎重な検討を要すると政府が答弁等をしながら、その慎重な検討を開始したことをうかがわせる証拠がなく、国会においては、法律案が提出されても、審議が開始されないという状況にある。このことからは、かえってその慎重な検討は開始されていないこともうかがえるのであって、その検討状況は、客観的にみて、控訴人らが性自認等に従った法制度上の取扱いを受けるという人格的存在と結びついた重要な法的利益が十分に尊重されているとは評し難い状況にある。また、背景にある国民の理解不足との関係でも、LGBT理解増進法において、役割が定められた国、地方公共団体及び民間企業(同法4~6条)のうち、地方公共団体及び民間企業では、同性の者同士の結合関係を家族として取り扱う動きが広がっているのに、国のみが、上記のような検討状況にあり、同法8条に基づいて政府が定めるべき基本計画さえ、同法の制定から2年以上が経過した現時点でも策定されたとの立証がない。
(4) 以上の諸点に照らすと、本件の主張立証の限りでは、被控訴人の関係行政機関が、LGBT理解増進法に基づき、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を的確に実施していれば、このような状況が生じるとは考えられない。そうであるとすれば、当該施策を実施する権限を有する関係行政機関の公務員が、漫然と当該施策の実施を怠り、性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別が生ずる状況を放置しているものとして、控訴人らとの関係で、国家賠償法1条1項の適用上違法となる場合もあり得るというべきである。
3 控訴人らが主張する国家賠償法上の違法の有無について
(1) 控訴人らが主張する国家賠償法上の違法とその判断枠組み(判決書第4の4(3))
しかし、控訴人らが本件において主張する国家賠償法上の違法は、本件諸規定又は同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在が憲法24条1項、2項、14条1項に違反することを前提に、その立法又はそれを是正しない立法不作為(同性の者同士に係る家族に関する法制度の創設をしない不作為を含む。)が、国家賠償法上違法であるというものである。そして、弁論主義の下で当裁判所が判断できるのは、この違法の有無のみであり、本件の主張立証も、上記憲法違反をめぐって行われてきたものである。
このような国会議員の立法又は立法不作為は、当該立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などに、例外的に、上記違法の評価を受けるものである(最高裁平成17年9月14日大法廷判決)。
しかし、本件諸規定又は同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在は、次の(2)~(4)のとおり、控訴人らが主張する憲法24条1項、2項、14条1項に違反するとまで断じられない。
(2) 本件諸規定が憲法24条1項に違反するか(争点(1))について(判決書第4の1)
ア 婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべきものである。したがって、その内容の詳細については、憲法が一義的に定めるのではなく、法律によってこれを具体化することがふさわしいものと考えられる。憲法24条が、1項において「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と規定するとともに、2項において「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定するのは、このような観点から、婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものといえる(最高裁平成27年12月16日大法廷判決〔1079号〕参照)。
イ 憲法改正当時の社会状況、明治民法が採用していた法律婚制度の制度設計の問題点、審議経過における議論、憲法24条1項、2項の趣旨・目的及び規定ぶりを総合すれば、憲法24条は、憲法改正当時、社会的承認を受けていた歴史的、伝統的な婚姻形態である両性、すなわち異性の者同士が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営む人的結合関係を「婚姻」として、国会が、その法制度を定めるに当たっての要請、指針として、民主主義の基本原理である個人の尊厳(憲法13条)と両性の本質的平等の原則(憲法14条)を定めたものと解される。また、憲法24条2項は、そのような異性の者同士の「婚姻」に加え、それ以外の人的結合関係を含む「家族」に関し、同項が例示した事項及びそれ以外の「その他の事項」について、その裁量の限界を画した上で、国会の合理的な立法裁量に委ねたものと解される。そして、同性の者同士の事実婚は、憲法改正後に家族として社会的承認を受けた人的結合関係であり、諸外国の立法例をみても、同性の者同士に係る家族に関する法制度は、多種多様な制度設計があり、国ごとに多様な選択決定がされていることからすると、我が国に限って、同性の者同士に係る家族に関する法制度の内容が、直ちに憲法24条1項の婚姻と全く同一のものに定まり、国会による制度内容の選択決定が憲法上許されないと解する合理的な理由は見当たらない。
なお、控訴人らは憲法24条1項の類推適用についても主張するが、この主張も同様に採用できない。
ウ 以上によれば、同性の者同士の結合関係(同性の者同士の事実婚)が憲法24条の「婚姻」に含まれ、又はこれに同条1項の類推適用がされるとは解されず、同性の者同士が憲法上「婚姻」の自由を保障されているとはいえないから、本件諸規定が憲法24条1項に違反する旨の控訴人らの主張は、採用することができない。
(3) 本件諸規定が憲法14条1項に違反するか(争点(2))について(判決書第4の2)
ア 本件区別取扱いと憲法14条1項適合性の判断基準等について
同性の者同士と異性の者同士との間には、法律婚に関する民法及び戸籍法の規定 (本件諸規定) により、法律婚制度を利用できるか否か、その利用の可否に関する区別 (本件区別取扱い) が生じている。
本件区別取扱いについては、憲法24条2項が立法府に与えた裁量権を考慮しても、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づかないものと認められる場合には、憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。
イ 本件諸規定による本件区別取扱いの合理性について
婚姻及び家族に関する事項は、その具体的内容の決定を国会の合理的裁量に委ねた憲法24条2項の下、関連する法制度においてその具体的内容が定められていくものであることから、当該法制度の制度設計が重要な意味を持つものである(最高裁平成27年12月16日大法廷判決〔1023号〕)。そして、民法が採用した法律婚制度は、「一の夫婦とその間の子」の結合体を、社会の基礎的な構成単位となる基本的な家族の姿として想定するという制度設計(本件制度設計)に立って構築されたものと解され、本件諸規定の立法目的は、本件制度設計の下で、夫婦が夫婦としてどうあるべきかという観点のみならず、その間に生まれてくる子の父母としてどうあるべきかという観点から、具体的な婚姻の要件及び効果を定めることにあると解するのが相当である。
昭和22年当時に比べ、今日の実際の社会の基礎的な構成単位は多様化し、もはや「一の夫婦とその間の子」から成る家族「のみ」が社会の基礎的な構成単位であるとは評価し難い社会状況にある。また、現時点では、同性の者同士の事実婚も、一つの家族の姿として社会的承認を受けており、国会が選択決定する婚姻及び家族に関する法制度の制度設計は、本件制度設計のみに限られない。
しかしながら、生まれる子の側からみれば、100%近くが夫婦の間の子として出生して養育され、「一の夫婦とその間の子」として社会生活を営んでおり、そのような国民が、なお全体の4分の1に及ぶ社会状況にある。また、憲法が、その前文において「われらとわれらの子孫のために(中略)この憲法を確定する。」とうたうように、国家は、国民社会が世代を超えて維持されることを前提とする。そして、男女の性的結合関係による子の生殖が、今なお世代を超えて国民社会を維持する上で社会的承認を受けた通常の方法であることにも変わりはなく、この方法をおいて、国民社会が世代を超えて安定的に維持されることを期することは困難である。加えて、婚姻数が減少し、未婚率が男女共に上昇しても、生まれてくる子のほぼ全てが嫡出子であるという事実は、「一の夫婦とその間の子」という結合体を形成しようとする異性の者同士にとって、現行の法律婚制度が、生まれてくる子の出生環境を整えるという観点から実際に有用な制度であることを、優に推認させるものである。
そうすると、他にも制度設計があり得るとしても、「一の夫婦とその間の子」の結合体を一つの家族の姿として想定する本件制度設計自体はなお合理的なものであり、本件制度設計に立って、夫婦としてどうあるべきかという観点のみならず、その間に生まれてくる子の父母としてどうあるべきかという観点から具体的な婚姻の要件及び効果を定めることには、現在でもなお合理性が認められ、本件諸規定における「夫婦」を法律上の男性である夫と法律上の女性である妻と解することは、上記立法目的との関連において合理性を有している。そして、本件諸規定が存在しなければ、誰も婚姻ができなくなり、憲法13条、24条に違反する結果となるから、その存在が憲法に違反することもあり得ない。したがって、本件諸規定による本件区別的取扱いは、事柄の性質上、合理的な根拠に基づくものといえる。
ウ 憲法14条1項の要請として法律婚制度への包摂が求められるとの控訴人らの主張について
控訴人らは、今日までの社会状況の変化に伴い、同性の者同士は、憲法14条1項の要請として現行の法律婚制度への包摂が求められる旨主張する。
しかし、本件諸規定の立法目的は、具体的な婚姻の要件及び効果を定めるというものであり、簡易な届出により、夫婦や親子関係についての関連する法制度の全体を利用することを可能とする趣旨の規定である。一方で、憲法24条2項により国会が見据えるべき夫婦と親子関係についての全体の規律は、本件制度設計の下で、昭和22年から現在までに、私的領域及び公的領域における多数かつ多種多様な関連する法制度が相互に作用・影響し合って形成されてきたものである。この関連する法制度の中には、本件制度設計と切り離せないものからこれと係わりないものまで濃淡があり得るところ、新たに社会的承認を受けた家族の姿について法制度を創設する場合には、その全体の規律を構成する個々の法制度との整合性や妥当性といった国会の多方面にわたる総合的な検討と合理的な裁量判断による制度設計を含めた選択決定が必要不可欠になると解される。
本件諸規定のみをみても、「夫婦とその間の子」を同じ氏とすることは、本件制度設計と密接不可分に関わるが、生まれてくる子の氏の問題のない同性の者同士の人的結合関係にこの規律を及ぼすのかや、近親婚の規律などについても様々な意見があり得る。さらに、性自認が身体的な性別と同じ者については、その身体的な性別もまた個人の重要な人格的個性であり、具体的な法制度の内容の詳細は、そのことも踏まえて行われる必要がある。実際に、諸外国における法制度にも、多様な制度設計があり、憲法24条が、国会による選択決定を待たず、同性の者同士に係る家族に関する法制度の内容について、当然に現行民法が採用した法律婚制度と全く同一内容に一義的に具体化されることを予定しているとは解されない。
そうであるのに、婚姻の成立要件を定める本件諸規定の「夫婦」に同性の者同士の結合関係を含めると、憲法24条が国会の選択決定に委ねた同性の者同士に係る家族に関する法制度の内容は、現行の法律婚制度と全く同一の内容のものとして当然に一義的に具体化され、関連する法制度を含めて適用されることになるのであり、そのような解釈はとり得ないから、控訴人らの上記主張は採用できない。
エ 同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在が憲法14条1項に違反するとの控訴人らの主張について
(ア) 控訴人らは、今日までの社会状況の変化に伴い、同性の者同士に係る家族に関する法制度が存在しないことが、憲法14条1項に違反する旨主張する。
しかし、立法裁量に委ねられた法制度は、存在しないことが直ちに憲法14条1項に違反するものではない。本件で不存在である立法は、その性質において、憲法上保障された権利を実現するものではない。また、その内容においても、新たに社会的承認を受けた家族の姿についての法制度を制度設計から検討するというものである。諸外国においても、同性の者同士に係る家族に関する法制度の立法時期は国ごとに異なり、創設していない国もある。そうすると、国会がこのような性質・内容の立法を怠っているとみたとしても、現時点においては、このことをもって直ちにその立法不作為が憲法14条1項に違反するとはいえない。
(イ) 控訴人らは、国際的な取組や勧告を踏まえ、性自認等を理由とする差別の解消を目的として同性の者同士に係る家族に関する法制度の創設を求めるものとも解される。
しかし、家族に関する法制度自体は、本来、社会の基本的な構成単位のあり方を定めるものであり、定められた制度に差別があってはならないが、差別を解消することをその制度本来の目的とするものではない。一方で、性自認等の多様性に対する国民の理解不足を解消する方策も、家族に関する法制度の創設だけではなく、例えば、差別を禁止する明示的な法律を立法するという方策もあり得る。そうすると、憲法24条2項は、国会が、社会状況における要因の一つとして、性自認等を理由とする差別の実情をも踏まえつつ、夫婦や親子関係についての全体の規律を見据え、多方面にわたる検討と総合的かつ合理的な裁量判断により、差別の解消を目的として法制度を創設するか否か、創設するとしてその内容をどこまで現行の法律婚と同じものにするかなど、制度設計を含めた選択決定をすることを求めていると解される。
(ウ) そして、国会自体も、全体が立法に全く取り組んでいないという状況にはなく、質疑がされ、審議は開始されないものの、複数回、法律案が提出されている状況にある。憲法が立法裁量に委ねた事柄について、国会内で実際に審議の求めがある以上、憲法は、第一次的には国会が、多方面にわたる検討と総合的かつ合理的な裁量判断により、国民の代表機関として自ら上記の選択決定をすることを求めていると解される。そうすると、それを待つことなく、現時点の状況をもって、憲法上客観的に保障された権利が実現していない状況と同視することはできない。
以上のところに加え、同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在に関しては、①その立法の不存在によって、同性の者同士が婚姻の本質を伴う結合関係を形成すること自体が侵害されているわけではなく、そのような結合関係は、同性の者同士の事実婚として法的に保護されること、②簡易な届出によって関連する法制度全体の適用を一度に受けることはできないとしても、関連する法制度の趣旨に即して個別に適用ないし類推適用を受けることはでき、また、婚姻によって発生する扶養義務や婚姻費用分担義務、離婚による財産分与や法定相続分等、婚姻の基本的かつ重要な法的効果の一部については契約で代替する方法があること、③法律による公証とは異なるものの、人口比率で約93%相当の人々が居住する自治体がパートナーシップ制度を導入し、多くの民間企業が、同性の者同士の形成・子育てを異性の者同士と同様に支援する取組が広がっていること、④性自認が身体的性別と一致しない者は、特例法による法律上の性別の変更を経て法律婚を選択することができること等の事情も指摘することができる。
(エ) 以上の事情を総合すると、同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在を原因として本件区別取扱いが生じていることについては、全体としてはなお、憲法24条2項が立法府に与えた裁量権を考慮した場合に、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づかないとまで断じることが困難であり、憲法14条1項に違反するとまではいえない。
オ 小括
以上のとおり、本件諸規定又は同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在によって生じる本件区別取扱いが憲法14条1項に違反する旨の控訴人らの主張は採用することができない。
(4) 本件諸規定が憲法24条2項に違反するか(争点(3))について(判決書第4の3)
憲法24条の要請、指針に応えて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定が上記のとおり国会の多方面にわたる検討と判断に委ねられているものであることからすれば、婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法24条1項、14条1項に違反しない場合に、更に憲法24条2項にも適合するものとして是認されるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものとするのが相当である(前掲最高裁平成27年12月16日大法廷判決〔1023号〕参照)。
争点(1)及び争点(2)において説示したとおり、本件諸規定は、憲法24条1項、14条1項に違反しない。そして、異性の者同士の婚姻を法律婚制度として具体化し、その具体的な要件及び効果を定める本件諸規定が、同性の者同士に係る家族に関する法制度を含まないものであるとしても、これまで説示したような状況の下で直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるということはできない。
したがって、本件諸規定は、憲法24条2項に違反するものではない。
(5) 小括(判決書第4の4(3))
本件諸規定又は同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在は、前記(2)~(4)のとおり、控訴人らが主張する憲法24条1項、2項、14条1項に違反するとまで断じられない。取り分け、国会との関係では、審議は開始されないものの、複数回、法律案が提出され、審議が求められている。憲法が立法裁量に委ねた事柄について、国会内で審議が求められている以上、憲法は、国会がその審議を尽くした上で、同性の者同士に係る家族に関する法制度の選択決定をすることを求めていると解される。人が性自認等に従った法令上の取扱いを受けることは、人の人格的存在と結びついた重要な法的利益であるから、このままの状況が続けば、憲法13条、14条1項との関係で憲法違反の問題を生じることが避けられないが、現時点では、まずは国会内で審議が尽くされるべきであり、直ちに前記の立法不作為が前記のような国家賠償法上違法の評価を受ける場合に当たるとはいえない。
したがって、控訴人らが主張する国家賠償法上の違法があるとは認められない。
4 結論
そうすると、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとする。

