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嘘のない演技を追究し続ける俳優、竹内涼真が5年ぶりに舞台に挑戦する。

竹内が挑むのは、ゴスペル調のソウルフルな音楽で彩られたミュージカル『奇跡を呼ぶ男』。スティーヴ・マーティン主演の同名映画(1992年公開)を基に、音楽をアラン・メンケン、作詞をグレン・スレーターが担い、2010年にミュージカル化された。

本作の主人公は、伝導師として奇跡を起こして人々を熱狂させるジョナス・ナイチンゲール。その実態は、「奇跡」を演出して人々から献金を集めて放浪する詐欺師だった。生きるために嘘を重ねてきた男を演じる竹内に、本作に懸ける想いを聞いた。

「欲しいのは、スリルとライブ感と充実感」

――5年前に初舞台を経験されたときはいかがでしたか? 舞台ならではの醍醐味など、当時感じたことを教えてください。

初めて触れるものばかりでしたし、演出と自分の身体がうまくリンクしていない部分もあり、最初は戸惑いがありました。でもやっていくうちにどんどん楽しくなって、稽古も好きになったんです。2ヶ月くらいかけて一つひとつを積み重ね、少しずつカンパニーとの信頼関係を築いていき、本番の舞台ではその瞬間に生まれたものをぶつけ合う。この作業がすごく楽しかったんですよ。

もちろん同じ日は一度もなくて、初日にしかない感触もあるし、公演半ばで疲れてきた頃に出てくる面白さもあるし、毎日何かしら収穫があるんです。その収穫を蓄えて蓄えて、最後の大千穐楽を迎えるという過程も楽しかったですね。全部で50公演以上やったので、とにかくやり切ったという達成感がありました(笑)。でも、いつか自分がやってみたいと思える作品に出会えたら、また舞台に挑戦してみたいなと思っていたんです。

――それが今回のミュージカル『奇跡を呼ぶ男』だったんですね。本作に挑戦してみたいと思った理由は?

スリルとライブ感と充実感。あれがまた欲しくなったからかもしれません。もちろん映画やドラマの現場にもライブ感はあります。映画やドラマの場合は撮影して、編集して、みなさんのもとへ届くまでにいろんな工程を経て大切に仕上げていきます。舞台では稽古を積み重ねていきますが、本番ではそれまで自分たちがやってきたことを一度手放してお客様の目の前で演じます。なので、映像と舞台のライブ感やリスクって全然違うと思うんです。舞台は生で観てもらって、生でリアクションを受け取り、同じ劇場という空間で一体になる熱量を感じることができます。そういうスリルがたまに欲しくなるんです。初舞台から5年が経った今、リニューアルした自分で臨めるんじゃないかなと思ったのがきっかけですね。

――本作の第一報の竹内さんのコメントに「『奇跡を呼ぶ男』という題名を目の前にして、これは僕がやるべきなのでは、と直感しました」とありました。どういったところにその直感が湧いてきたのでしょうか?

この作品を日本で上演すると聞いたとき、もし奇跡が起きて成功するなら僕がやるべきなのかもしれないと思ったんです。ただ、今の僕ではまだできないですけどね。ここから開幕までに少し猶予はあるので、その期間に追い込んで「ゴスペルのミュージカル? できるの?」という疑いを、ガラッとひっくり返したいなと。

そしてもうひとつ、嘘から始まった中でどうにか本当の奇跡を作ろうとする物語にすごく共感しました。見栄を張ったり、人から認められたいと思ったり、そういう部分は少なからず自分にもあるので。僕は詐欺師じゃないですけど(笑)。20歳くらいのときに「僕は俳優として稼いで成功します」と親に言ってサッカーをやめました。それで結果が出なかったら、結果として嘘になるわけじゃないですか。今までひとつひとつの作品を積み重ねて歩んでいるから、本当だったと思ってもらえるだけで。世の中そんなことばかりですし、主人公のジョナスもそんな中で生きているひとりだと思うんです。この作品への挑戦も成功するかどうかはわからないけれど、可能性に懸けて奇跡を起こせたらいいなと。

「大切なのは嘘をなくすこと」

――元々ブラックミュージックがお好きだそうですが、音楽に馴染みがあったことも本作に惹かれた理由でしょうか?

それはありますね。ブロードウェイ版の映像を見て音楽を聴いたときに、瞬間的にかっこいいって思って。ボーイズIIメン、ブライアン・マックナイト、スティービー・ワンダーとか他にもいろいろ、小さい頃からブラックミュージックを聴いてきました。ブラックミュージックの独特のグルーヴ感を表現するのは、どうしたって難しいと思います。でもそれを僕ら日本のカンパニーで成功させることができたら、めちゃくちゃ楽しいんじゃないかなって。その可能性に飛び込んでみようと思ったんです。

――ブラックミュージックのグルーヴ感は、どうやってものにしようと考えていますか?

物真似みたいなそのままコピーを目指すようなアプローチはしないように思ってます。ブロードウェイ版を観てそのまま踏襲しようとしても、多分うまくいかないと思います。僕にとって、リメイクの概念で大切なのは嘘をなくすこと。嘘をなくすというのは自分の身体の中で鳴っているものを信じられるかどうか、自分の心の中が充実しているかどうかだと思うんですね。それにはブラックミュージックの本場アメリカで生きてきた人の歴史、文化、宗教、音楽性など、これらを学んでいく作業が必要です。それはすごく難しいこと。だって僕はそこで育っていないから。だからこそ勉強をする姿勢は大切ですし、最後まで続けていくべきですし、それはきっと成功への鍵になると思います。

とはいえ根本的には同じ人間だと思っていて。なので、まずはジョナスの感情の流れと自分を結びつけて、段々と物語やキャラクターを自分とリンクさせる。そこから沸々と湧き上がってくるエネルギーを音楽に乗せて出していく。その結果、ゴスペルの音楽性と僕ら日本キャストが持っているパッション、正確性、真面目さ、チームワークなどが結びついたら、見たことのないような新しいものができるんじゃないかなって。どうなるかわからないけれど、そう信じたいんです。

もちろん、リズム感やグルーヴ感を習得するには相当稽古が必要だと思います。今も少しずつボイトレを始めていますが、掴めたら本当に楽しいだろうなあ。あとは時間との勝負ですね。グルーヴ感を持ってゴスペルを歌うことができたら、会場全体がひとつになれると思います。演じる僕らだけじゃなくて、オーケストラのみなさんや客席の端から端まで含めて全員の気持ちを持っていくような熱量が、この作品にはある気がするんです。

――歌とダンスは前回の舞台での経験も活かしつつ、どんな心持ちで準備されていますか?

すごくラッキーなことに、今年の2月まで『10DANCE』という映画の撮影でずっとダンスを踊っていたんです。この映画で得たダンススキルは、何かしら反映できるんじゃないかな。きっと初舞台のときよりは相当レベルが上がっていると思います。

歌に関しては、また練習を重ねていかなきゃいけないですね。ジョナスは喋っているところからリズムに乗って自然と歌に入っていきます。セリフと歌の境目がないんです。嘘を本当にしていくエネルギーや、相手に考える隙を与えない巧みなパフォーマンスなど、自分の中にイメージはあるので演出家の方とひとつの正解を見つけていけたらいいなと思います。

「いつでもリスクを背負って挑戦する準備はできている、そんな感覚」

――作品のストーリーとしての魅力はどういうところに感じましたか?

主人公が正義ではないところですね。僕、そういう作品がすごく好きなんですよ。ジョナスが抱えて隠しているものや詐欺師という役柄に惹かれました。彼のように道徳から外れている人でも、心の奥底には何かしらの光や真実みたいなものがあると思うんです。その光に真正面から向き合うのは、自分を曝け出さなくてはいけないのでとても怖いことでもあります。おそらくジョナスは嘘が本当になっていく過程で、嘘をついてきた自分と向き合わなきゃいけないんです。そんな彼の人生を僕らしく演じてみたいと思いました。

あとは個人的に、小学生や中学生くらいの若い俳優さんとお芝居で関わりたかったんですよね。それがこの作品で叶えることができそうです。

――若い方と一緒にお芝居をしたいと思うのはなぜですか?

ピュアなエネルギーに刺激をもらえるからですかね。大人になるといろんな雑念が入ってきて、嘘をついたり、見栄を張ったり、楽をしたり、制限されたり……ピュアじゃなくなってきちゃうんです(笑)。少年とぶつかることで、可能性を秘めた自由なエネルギーが生まれる奇跡を感じたいんですよね。

ジョナスは足の不自由な少年と出会って、そこで化学反応が起きます。この二人にはきっと共通点があると思うんです。自分の嘘から解放されて自由になりたいジョナスと、物理的もしくは心理的に不自由があって自由になりたい少年。この二人が掛け算をしたら、すごく面白い何かが生まれるんじゃないかなって。まだ稽古も始まっていない段階ですが、いろいろ想像を膨らませています。

――ジョナスという役を演じる上での手がかりは何か掴めそうですか?

最近思うのは、これまで自分が生きてきた人生や、今の等身大の自分が感じていることを理解することが、そのタイミングで役を演じることに繋がるんじゃないかなって。

本格的な稽古に入る前も撮影スケジュールが立て込んでいますが、前の作品をやりながら今の自分がどういう状況なのかを理解していって、ジョナスという役に結びつけていけたらなと。そうすればより嘘がなくなって、自分と役がリンクすると思うんです。今年の終わりぐらいから、段々自分の身体とこの作品がリンクしていくモードになっていくのかなと感じています。

――ちなみに、今取材をしている現時点でのご自身の状態はどんな風に捉えていらっしゃいますか?

そうだなあ……野望と、身体の中で燃えている熱が、ちょっと落ち着いてきている感じ。それは決して冷めているわけではなくて、例えば焚き火をしているときに木が炭に変わってメラメラッとするじゃないですか。あの感じです。しかもそれはものすごく熱くて、いつでもリスクを背負って挑戦する準備はできている、そんな感覚。自分にワクワクしているイメージです。

――普段からどのようにご自身の変化を感じ取っているのでしょうか?

例えば、人に会ったときに話しながら「今の自分はこうかも」と感じることもあります。そのタイミングがいつくるかは自分でもわからないんですよ。一日仕事をしている中で気付くこともあれば、着たい服や買いたいものとか、日常の変化にも表れます。今日は人に会いたくないなとか、そういう何気ないことにもアンテナを張って敏感に感じ取って、今の自分はこういう状態なんだなと理解しようとしています。それが役へと繋がっていって、本当の自分の表現になるんです。「これは自分がしたい表現なんだ」という充実感を得るためには、日常と仕事はどうしても切り離せないんですよね。どちらもやっぱり、自分なんです。

取材・文=松村蘭(らんねえ) 撮影=池上夢貢