■2025.12.03「ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド・コンサート」@新宿文化センター
アトラスの人気RPG『ペルソナ5』の楽曲を、本場ニューヨークのスタイリッシュなビッグバンド・サウンドで楽しめるコンサート「ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド・コンサート」が、2025年12月2日(火)から4日(木)に新宿文化センター 大ホールにて、5日(金)に 神戸国際会館 こくさいホールで開催。音楽ディレクターをグラミー受賞アーティストのチャーリー・ローゼンが務め、シンガーにLyn(稲泉りん)を迎え、日米の腕利きプレイヤー総勢約30名の豪華ビッグバンドによる大迫力の演奏が楽しめる『ペルソナ5』ファン必見のコンサートだ。本レポートでは3日(水)に開催された熱気溢れるコンサートの模様をお届けする。
「ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド」とは、本コンサートの指揮・編曲・音楽ディレクションを手がける作曲家兼音楽ディレクターのチャーリー・ローゼンが企画したプロジェクトで、ビッグバンドアレンジが施された「ペルソナ5」シリーズの楽曲たちが披露された。ビッグバンドはトランペット、サックス、トロンボーン、ギター、ヴァイオリン、キーボード&ピアノ、ドラムなどで構成されている。
チャーリー・ローゼンは、『ペルソナ5』の大ファン。コンサートでは『ペルソナ5』を長時間プレイしていることを興奮気味に明かし『ペルソナ5』愛溢れるMCでも観客を喜ばせた。チャーリー・ローゼンはゲームとしてだけでなく『ペルソナ5』の楽曲も大のお気に入りのようで、「すばらしい楽曲たち!」と大絶賛。本コンサートに協力・監修をしたアトラス、そして作曲家の目黒将司への敬意&感謝の言葉も何度も伝える場面もあった。
また彼は『ペルソナ5』の大ファンであるだけに止まらない。ビッグバンドアレンジを施した楽曲「Last Surprise」で2025年のグラミー賞「ベスト・アレンジメント」にノミネートという実績を誇っており、アメリカでの『ペルソナ5』人気もかなり高いこともMCで紹介していた。ちなみに、チャーリー・ローゼンは「グラミー賞&トニー賞」をそれぞれ2度受賞した世界的演奏家だ。彼によると『ペルソナ5』の楽曲は、ジャズ、ソウル、R&Bといった様々なジャンルの音楽を内包していて、ビッグバンドでのアレンジにとても向いているとのこと。本コンサートでは、各ミュージシャンたちのソロパートが用意され、ジャズアレンジらしさ溢れる演奏が披露され、観客を沸かせた。
『ペルソナ5』愛が爆発といった様子で、コンダクターとしてだけでなくMCも盛り上げたチャーリー・ローゼン。日本語と英語を交え、時に愛が溢れすぎてしまい「何を言っているのか分からなくなってしまいました(笑)」などと、独特のトークでイベントを盛り上げる。『ペルソナ5』というゲームへの愛はもちろん、日米のミュージシャンで構成されたビッグバンドへの敬意や、観客そしてアトラスへの感謝の言葉を何度も伝える姿が印象的だった。指揮だけでなく、ギターを始め様々な楽器を演奏しながら動き回り、そしてコンダクターとして唯一無二の姿を見せ、コンサートを盛り上げた。
おしゃれなBGMとして人気の『ペルソナ5』の楽曲たちが、腕利きのプレーヤーたちによって、スタイリッシュ度を増して生演奏された本コンサート。15分の小休憩を挟み、前後編(第一部&第二部)で全19曲が演奏された。演奏はもちろん、各楽曲にあわせた演出も『ペルソナ5』ファンの心をくすぐるものだった。ライティングの演出はもちろん、ミュージシャンたちの後方に設置された大型のスクリーンにはゲーム映像が流れ、そのスクリーンの背景も楽曲によって変わるという贅沢な演出なのだ。圧巻の声量でLynが参加するボーカル曲では、観客が立ち上がり(チャーリー・ローゼンが「立ち上がって盛り上がって楽しんで!」と観客に促したため、遠慮なく観客は一気に立ち上がったのだ!)、手拍子やコール&レスポンス、時には歓声も上がり会場が一体となってノリノリで盛り上がる。Instrumental(インストゥルメンタル)の楽曲は、アレンジにより“壮大さ”と楽曲そのものにプラスして、ソロパートのプレイヤーたちの個性が強調されており、音の迫力や楽曲の勢いを浴びるように堪能できた。
佐倉双葉(CV:悠木碧)の影ナレ後、チャーリー・ローゼンによるオリジナル楽曲「Overture」でコンサートの第一部が開演。仮面を剥ぐスタイルでコンサートが幕開け。チャーリー・ローゼンをはじめ、ミュージシャンたちの決めポーズに会場は大きな拍手に包まれる。続く『ペルソナ5』のOP曲「Wake Up, Get Up, Get Out There」でコンサートの幕開けを告げる。ゴールドの衣装に身を包んだLynの登場に観客が沸く。チャーリー・ローゼンがミュージシャンたちを紹介し「立ち上がって盛り上がってミュージシャンたちへの拍手もよろしくお願いします!」とコンサートでの過ごし方を伝授。音楽に身を任せ、観客たちの体が揺れ動く中、「Life Will Change」が演奏されると観客は一気に立ち上がり、自然にクラップが始まる。1曲目でギターを持ってグルグルと回っていたチャーリー・ローゼンは、2曲目にはタンバリンを手にする場面も。続いて披露された大人なムード漂う「Butterfly Kiss」と「Tokyo Daylight」では、スクリーンに映し出されるシックなムード漂う主人公の日常パートを感じながら『ペルソナ5』の世界に没入していく。4曲目の「Tokyo Daylight」ではチャーリー・ローゼンの手にはマラカスが。楽曲ごとに、そして楽曲中にもコロコロとプレイする楽器を変え、音でも目でも楽しませてくれる姿には尊敬しかない!
『ペルソナ5』の世界観にグイッと没入したところで「ペルソナ」シリーズではおなじみの楽曲「全ての人の魂の詩」は、ボーカルもコーラス隊もないアレンジで、荘厳な雰囲気を漂わせながらジャズバラード調で演奏されるという新鮮さも味わうことができた。世界的トランペッターのエリック・ミヤシロによるソロパートもとても印象的な一曲だった。
続いて披露されたのはムーディーなイントロで始まる「Beneath the Mask」からの、ジュリア・アダミーのグリーンのベースが映える「Have a Short Rest」。穏やかな雰囲気のメロディーは、ボルテージが上がりまくっている観客の心にちょっとした落ち着きを取り戻してくれる楽曲たちだ。「Beneath the Mask」ではスクリーンには思い出を切り取ったようなセピア色の写真(アルバム)が流れていた。ピアノ&キーボードのマシュー・ウィタカーのソロパートも心の奥底まで楽曲を響かせる。チャーリー・ローゼンはギターを背負っての指揮で魅せる。ステージが暗転し、続く「Will Power」と「Rivers In the Desert」はビッグバンドならではの壮大さと迫力、そしてLynによるパワフルな歌声が観客を圧倒した。
そして、小休憩後を挟み、第二部へ。影ナレは日替わりで、この日の担当は佐倉双葉。第二部は『ペルソナ5 ザ・ロイヤル(P5R)』のOPテーマ「Colors Flying High」でスタートし、物語が大きく動き出すタイミングで流れる楽曲「Tokyo Emergency」、そして「Break it Down」へと続く。「Colors Flying High」ではトロンボーンのジミー・オーコネル、「Tokyo Emergency」ではトランペットのブライアン・デイヴィス、「Break it Down」ではアルトサックスのアンドリュー・グールドのソロパートに大きな拍手が湧き起こる。ミリタリー風の映像が印象的な「Layer Cake」、学校でのテストイベントが流れる「Life Goes On」など、楽曲と映像のシチュエーションがリンクし、再び『ペルソナ5』の世界観へとグイグイと引き込まれていく。映画の一コマのような映像演出の「No More What Ifs」では明智吾郎の映像が流れるメモリアルな雰囲気漂うエモい時間となっていた。
全19曲が披露されたコンサートはあっという間に終盤へ。「もうすぐ終わりとは言いたくない…」と寂しそうにするチャーリー・ローゼンのコメントに納得。あっという間に終盤まできたことに「もう終わり?」と驚きを隠せないほどだった。「えー!」という観客の反応からも、あっという間に終盤に差しかかってしまったことが伝わってくる。「The Whims of Fate」では、チャーリー・ローゼンがこれまで以上に観客の拍手を煽り、ステージを盛り上げた。そして本編最後の楽曲は「Take Over」。この日一番のクラップで楽曲がスタート。サックス×ドラムの長めのソロパートはまさにアドリブ合戦のようで、ジャズの醍醐味を存分に堪能。会場には観客の「HEY!」の掛け声が自然に沸き起こり、楽曲を彩っていく。スクリーンには怪盗団メンバーの総攻撃フィニッシュの映像が流れ、観客の心をそして体をも最高潮に踊らせていた。
ドラムのジャレッド・ショーニグの煽りでアンコールがスタート。披露されたのは「星と僕らと」と「Last Surprise」の2曲。『ペルソナ5』のエンディングテーマである「星と僕らと」がしっとりと流れ始めると会場には「おーぉ!」といった驚きの声、どよめきがあちこちから聞こえていた。演奏されたことへの驚きと、楽曲から伝わるメッセージをダイレクトに受け止められたことへの感激のどよめきに感じられた。そしてコンサートの大トリ、ラストを飾ったのはチャーリー・ローゼンもニヤリとしながら紹介した「Last Surprise」。サックス、トロンボーン、ドラムらそれぞれが「終わりの挨拶」といった様子で時に、アドリブも交えたセッションをしながらソロパートを披露。タイトル的にもコンサートの締めくくりにぴったりの一曲だった。
コンサート最終日の神戸公演では「ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド・コンサート」が、2026年夏に再演されることも発表された。早速の再演。今回の反響の大きさがうかがえるうれしいニュース。「ペルソナ」ファンなら一度は足を運んでほしいコンサートであると同時に、何度も浴びたくなるクセになるコンサートだ。
取材・文:タナカシノブ