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「築地銀だこ」を運営するホットランドグループがリゾート開発に取り組んでいる。

その場所があるのは、東京から車や電車で約2時間の距離にある群馬県桐生市の山奥。ローカル線のわたらせ渓谷鉄道・水沼駅直結の温泉施設「駅の天然温泉 水沼の湯」。そこから3分ほど歩いた山のふもとには、アウトドアサウナ・グランピング・室内バーベキュー場が一体になった「サウナの森 水沼ヴィレッジ」が広がっている。

2024年にオープンした「サウナの森 水沼ヴィレッジ」の面積は約3万坪。その広さは、日本で最も大きいサービスエリアである「海老名SA」を超えるほど。宿泊できるグランピング施設を9棟から11棟へ増設する計画も立てており、リゾート施設の拡張は続いている。

営業成績も好調だ。2025年8月に公表された決算説明資料によると1年間で売上が約2倍へと拡大。「サウナの森水沼ヴィレッジを成功事例とし、新たな成⾧モデルを構築」と総括している。

なぜ日本一のたこ焼きチェーンである「銀だこ」が、リゾート開発に注力しているのだろうか。新規チェーン店の開発やリゾート開発を担う「ホットランドネクスステージ」の取締役を務める岩﨑将旺さんに話を聞いた。

群馬県桐生市のわたらせ渓谷鉄道水沼駅直結の「駅の天然温泉 水沼の湯」群馬県桐生市のわたらせ渓谷鉄道水沼駅直結の「駅の天然温泉 水沼の湯」

コロナ禍で「たこ焼」が大打撃⇨飲食・リゾート事業に活路

群馬県桐生市は、築地銀だこの創業者・佐瀬守男氏の出身地であり、同社のルーツである「ホットランド焼きそば」が生まれた場所でもある。起業家が地域創生に携わる事例は珍しくはない。築地銀だこグループのリゾート開発も、自治体から遊休地について相談を受けて始まったものだった。

「桐生市から『この土地を何かに活用できないか』と相談を受け、“地元を盛り上げたい”という思いからプロジェクトが始まりました。ただ、この時はグランピングやサウナ施設を作る構想はなく、飲食店など別の可能性を探っていたんです」

施設の建設予定地は人や車がほとんど通らないため、飲食店の開業には不向きな場所だった。リスクが高いにもかかわらず、プロジェクトに踏み切った背景には、コロナ禍の影響が大きかったという。

コロナ禍に突入した当時のホットランドグループの主力事業は、「築地銀だこ」とお酒を楽しめる「銀だこハイボール酒場」だった。しかし、2020年にコロナ禍が訪れると他の飲食チェーンと同様に大打撃を受ける。有価証券報告書によると、2019年度の売上高は324億3432万円だったが、2020年度の売上高282億7325万円。最終的な業績は1138万円の赤字となっている。

この時に注力を始めたのが油そば店や定食屋などの飲食店事業だ。一部のブランドは多店舗展開に成功し、2022年には主食を専門とした飲食業態の開発を担う「ホットランドネクステージ」を設立。2023年の決算資料では「日本一のたこ焼チェーンから日本を代表する外食企業グループに」と事業領域を拡大する方針を発表している。

つまり、行政から相談を受けた時期はホットランドグループが新規事業の開発を模索していた時期であり、両者の意向がうまくマッチしていたのだ

サウナ・グランピング・飲食店が揃う大規模アウトドア施設へ

ではどのように飲食店の開発を進めたのだろうか。

まずは、“人との接触を避けて自然を楽しめる飲食店”というコンセプトを立て、全天候型 BBQ レストラン「スミテラス焼肉BBQ」とカフェ「シカモアカフェテラス」を作ることを決めたという。この2店舗は2023年にオープンしている。

しかし、「山のふもとにある飲食店」というコンセプトだけでは、十分な魅力を打ち出しているとは言えない。そこで、当時人気を集めていたグランピング施設の建設も計画に加えた。さらに開発を進めていく中で、アウトドアサウナを作る案も浮上。結果として、日帰り利用向けのアウトドアサウナ小屋を2棟、そしてプライベートサウナを備えたコテージを2棟建設することになった。

小屋サウナとバレルサウナを備えた日帰りのアウトドアサウナ小屋サウナとバレルサウナを備えた日帰りのアウトドアサウナ

さらに「サウナの森 水沼ヴィレッジ」のオープン直前、敷地に隣接する民家のオーナーが亡くなり、親族から相続について相談を受けたことをきっかけに、その古民家を引き継いで十割そばを提供する店舗も立ち上げることになった。こうして24年9月、サウナ・グランピング・全天候型BBQ・カフェ・そば店がそろう大規模複合型のアウトドア施設が完成した。

若い世代が訪れることを想定した飲食メニューも新たに打ち出したという。先行してオープンしていた「スミテラス焼肉BBQ」では4000円(税込4400円)から利用できる食べ放題のコースをスタート。また、施設と同時に開業する「十割そば 囲炉裏 水沼店」では、そばのおかわり無料サービスを実施。わかりやすい看板メニューを打ち出せたのは、本業で培ってきたノウハウがあるからだろう。

古民家を引き継いでオープンした「十割そば 囲炉裏 水沼店」古民家を引き継いでオープンした「十割そば 囲炉裏 水沼店」

一方で、サウナやグランピング施設の運営は銀だこグループにとって初めてとなる。ノウハウの蓄積はないが、どのように進めたのだろうか。

「接客のマニュアルは本業で培ったものを活かしていますが、サウナの温度設定などお客様の感想を聞きながらひとつずつ改善していきました。運営しながら満足度を高めるような取り組みを進めたんです」

しかし、「サウナの森 水沼ヴィレッジ」が完成した時点では駅直結の温浴施設の運営には携わっていない。なぜ手がけるようになったのだろうか。

駅直結の天然温泉をリニューアルした理由

ホットランドグループが手がける「水沼の湯」は、2025年4月にリニューアルオープンした施設だ。ロビーにはお香の香りが漂い、モダンな内装が広がっている。駅舎のホームにあるため、窓から電車が通る様子も見ることができる。ホテルのロビーのようなラグジュアリー感と旅情を堪能できるのが特徴だ。

「水沼の湯」はもともと地元の企業が運営しており、地元客で賑わっていた温浴施設だった。しかし2023年の8月、運営団体の資金繰りが悪化して一時休業に。引き継いだのがホットランドグループだった。

「アウトドア事業も始まったばかりでしたし、一緒にこの場所を盛り上げようと思っていたので驚きました。社内では反対意見もありましたが、事業を引き継ぐ選択肢しかありませんでしたね」

事業を引き継いだ理由は地域創生のためだけではない。施設を改装することで「サウナの森 水沼ヴィレッジ」とは異なる客層を獲得できる見込みがあったのも大きかった。

「アウトドアサウナとグランピングは若い世代に多くご利用いただいていたのですが、冬になるとどうしても売上がガクッと落ち込んでしまうこともわかって。一方、温泉であれば年配のお客さまやアウトドアに興味のない方にも楽しんでいただけますし、冬場でも訪れてもらえるのではと思ったのです」

改装に伴い重視したのは、県外からの顧客を呼び込み、満足してもらえる施設を作ること。もともとは入浴料600円で運営していたが、採算を取るためには価格の見直しが必要となり、2倍以上となる平日1350円・土日祝1550円へと変更。その分、価格に見合った体験価値を提供するためにリニューアルでは次の3つのポイントを重視して進めたという。

荒神山を望める大露天風呂荒神山を望める大露天風呂

倍以上の値上げに見合う「3つの価値」とは

ひとつ目は、地元の食材を楽しめるレストラン「里山本陣」をオープンしたことだ。

現在のレストランのメニューを見てみると、群馬県産の鶏肉や豚肉を使った釜飯の定食や地元のうどんである「おっきりこみ」が並ぶ。インバウンド客の訪問を想定した「黒毛和牛のすき焼御膳」もあり、派手な料理も多い。これらの価格帯は1000円を超えるものが大半で、利用客が増えれば温浴施設の利益にも貢献する仕組みになっている。

つまり、「その土地ならではの食体験」を提供し、顧客満足度を上げることで、売上の拡大につながる店舗づくりを目指したというわけだ。

レストラン「里山本陣」では地元の食材を使ったメニューが味わえるレストラン「里山本陣」では地元の食材を使ったメニューが味わえる

ふたつ目は、休憩スペースのリニューアルと拡張だ。館内には、たこ焼きやアイス、飲み物などを注文できるコーナーを新設。その先には、寝転んで休憩できるスペースが2部屋用意されている。

この休憩エリアへと続く廊下の屋根は、駅舎の骨組みを活用しており、天井を見上げると風情を感じられるのも魅力だ。心地よい空間づくりにより、滞在時間を長くすることで、よりゆったりとさまざまな体験を味わうことができる。

最後は、「サウナの森 水沼ヴィレッジ」との相乗効果を狙ったサウナ室の改装だ。改装前の浴室には温泉が一つずつあり、外のスペースに露天風呂・水風呂・サウナが設置されていた。

このレイアウトはそのまま活かしているが、サウナの内装と設備は大きく変更している。フィンランド製のサウナストーブを空間の目立つ位置に設置し、石材で囲まれていた壁面を新しい木材に張り替え、本格的なフィンランド式のサウナへとリニューアルした。

「サウナの森 水沼ヴィレッジを利用したお客様もいらっしゃるので、ガッカリさせたくないという想いからサウナ室にはこだわりました」と岩さんは振り返る。

その結果、2025年のリニューアルオープンした時には、首都圏からの観光客だけでなく、地元に住んでいる人も訪れる施設へと成長。新規施設のオープン特需により、リゾート事業全体の売上アップにも成功した。

しかし、値上げによる地元に住む人たちからの不満はなかったのだろうか。

「行政の方からの声を聞いて、地元の人が訪れにくくなっていることに気づきました。ただ、私たちとしては地元の人と一緒にこの場所を盛り上げていきたいと思っています。水曜日には入館料を600円にする半額キャンペーンを始めました」

筆者が取材で訪れたのは水曜日の午後だったが、プラスチックのカゴにタオルなどの入浴セットを入れた高齢者夫婦が何組もいた。地元の人との共存戦略も一定の効果を出しているようだ。

今夏は予約満員。前年比で3倍以上の予約数に

地域創生と新たな飲食事業開発というホットランドグループの挑戦を凝縮した「水沼の湯」。リゾート地を訪れる客層は20〜30代のアウトドア好きに加え、温泉や旅を楽しむ40代以上にも広がり、幅広い年齢層にも支持されるリゾート施設となった。

「サウナの森 水沼ヴィレッジ」が完成して1年が経ち、グランピング施設としての認知度も向上している。今年の夏は予約が埋まり、前年と比較して3倍以上の予約数になったという。

固定費が負担になるためリスクも高いと言えるリゾート開発。この先、築地銀だこグループは新世代のリゾート開発の事例を作り上げられるのだろうか。

(取材・記事・撮影/中 たんペい、編集/荘司結有)

【画像】(全13枚)水沼の湯&サウナの森 水沼ヴィレッジの全容がこれだ

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