楽しいニュースをまとめてみました。
「STOPレイシャルプロファイリングカード」の初回版「STOPレイシャルプロファイリングカード」の初回版

肌の色や「外国人風」の見た目、民族的出自などを理由とした人種差別的な職務質問の抑止につなげようと、外国ルーツの当事者や支援者たちが、「STOPレイシャルプロファイリングカード」を制作した。

一般的な名刺サイズのこのカードには、レイシャルプロファイリング(※)という用語の簡潔な説明に加え、警察官による差別的な取り扱いがそれを受ける人の尊厳や心理的安全性を損ない得るという注意喚起などが記されている。

職務質問の法的根拠である「警察官職務執行法」第2条1項は、「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる」と定めている。

肌の色や国籍、「外国人風」の見た目のみを理由とした職務質問は、法律上の要件を満たしていない。

日本では2024年、人種差別的で違法な職務質問を繰り返し受けたとして、外国出身の3人が国、東京都、愛知県を相手取り東京地裁に提訴したカードは、2025年12月16日の第8回口頭弁論の後、原告側弁護団の報告会に集まった人たちに公開された。

制作者たちは「日本語を話せなかったり、日本の法律を詳しく把握していなかったりする外国ルーツの人たちが、不当な職務質問を受けた時に自分の権利を守るために使ってほしい」と呼びかけている。

(※)「レイシャルプロファイリング(Racial Profiling)」とは、警察などの法執行機関が、「人種」や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすること。日本を含む世界各地で人権問題となっており、国連の人種差別撤廃委員会は一般的勧告(2020年)で、「レイシャルプロファイリングとの効果的な闘いには、人種差別を禁止する包括的立法が欠かせない」と指摘し、禁止法の策定や実施を各国に求めている

アメリカで注目高まる「レッドカード」

カードを企画・制作したレイシャルプロファイリングの根絶を目指す有志グループ「STOPレイシャルプロファイリング」によると、きっかけは、外国ルーツの当事者から「差別的な職務質問を受けたときに警察に提示できるものがほしい」という要望が寄せられたことだった。

制作にあたっては、アメリカの移民支援団体「移民法律情報センター」の「レッドカード」やアメリカ自由人権協会の「Know Your Rights」のグラフィックなど、海外の取り組みからも着想を得た。

レッドカードは、移民の人々が移民・税関執行局(ICE)や国境警備の連邦職員によって不当な介入を受けた場面を想定して作られている

片面には、「私は合衆国憲法修正第4条に基づき、所持品を捜索する許可を与えません。私は、憲法上の権利を行使することを選びます」など、取締官に対する意思表示が英語で記されている。

裏面には、「あなたには憲法で保障された権利があります。 もし移民局の職員がドアをノックしても、ドアを開けないでください」など、カードを持つ人に向けた助言や注意書きがあり、スペイン語や中国語、日本語など56カ国語が用意されている。

トランプ政権が移民の取り締まりを強化する中、レッドカードへの注目が高まり、団体のサイトによると2024年11月以降の配布数は1000万枚を超えた

アメリカ・ニューヨークのカフェで無料配布されている「レッドカード」=2025年4月アメリカ・ニューヨークのカフェで無料配布されている「レッドカード」=2025年4月

「権利を守り、苦痛を減らしたい」

こうした海外の事例を参考にしつつ、日本の警察による人種差別的な職務質問の場面を想定した「STOPレイシャルプロファイリングカード」では、外国ルーツの当事者や支援者、弁護士ら有志が議論を重ね、オリジナルの文言を練り上げた。

おもて面には、「これはレイシャルプロファイリングに基づく職務質問ではありませんか?」と警察官に問いかける表現のほか、レイシャルプロファイリングが国連機関から予防・阻止を勧告されていること、日本で職務質問を受けた外国籍者の割合が日本国籍者の約5.6倍だとする弁護団の調査結果などを記載した。

裏面には、警察官職務執行法第2条1項に加え、カードの目的や不当な職務質問を受けた際の対応方法などを日本語と英語で読めるQRコードを載せている。

カード作りに携わった「Japan for Black Lives」の川原直実さんは、「外国ルーツの人たちから、職務質問中に警察官にひどい言葉遣いをされたり、任意であるにもかかわらず断っても聞いてもらえなかったりして、『権利を侵害されたと感じることがあってもどうしたら良いか分からない』という訴えを何度も聞いてきました。自分の権利を守る手段の一つとしてカードを携帯してもらい、当事者の苦痛を少しでも減らしたい」と語る。

カードの構想から完成まで約1年。レイシャルプロファイリングを受けたことがある当事者からの意見を踏まえ、文言を何度も練り直したという。

弁護士で「STOPレイシャルプロファイリング」メンバーの宮下萌さんは、「当事者からは、あまりにも強すぎる表現だと威圧的になり、カードを持つこと自体がかえって怖くなる、という意見も寄せられました。そうした不安を緩和でき、また警察官とのトラブルも避けられるような文言にしようと模索しました」と振り返る。

初回版の完成を報告する川原直実さん(右)。「誰もが肌の色や見た目を理由に犯罪を疑われることなく、安心して暮らせる社会。それが実現したときに、このカードは役割を終えるのかなと思います」と話した。=2025年12月16日初回版の完成を報告する川原直実さん(右)。「誰もが肌の色や見た目を理由に犯罪を疑われることなく、安心して暮らせる社会。それが実現したときに、このカードは役割を終えるのかなと思います」と話した。=2025年12月16日

当事者以外が持つことにも意味がある

カード配布に協力する店舗もある。東京都日野市の「本屋とキッチン よりまし堂」では、店内の棚にカードを置く予定だという。

同店を運営する岩下結さんは、配布協力の声がかかった時、「お店を始めた当初から、エスニックルーツや性別によらず誰もが安心して過ごせるセーファースペースをコンセプトにしていたので、もちろん置かせてもらいますとお返事しました」と明かす。

当店にも外国籍や外国ルーツを持つお客様が多くいらっしゃいますが、最近の排外主義的な風潮を受けてか、他人から心無い言葉を投げかけられる経験をした人がいます。そうした方々へのエンパワーや、話のきっかけになることを期待しています。このカードが広く普及し、警察官や一般市民にもレイシャルプロファイリングの問題性が知られるようになることを願います」(岩下さん)

カードは外国ルーツの当事者だけでなく、人種差別的な職務質問を目撃した第三者が介入する際にも活用できる。川原さんは、当事者以外が持つことで「サポートの意思表示にもなる」と話す。

「差別的な職務質問を経験していない人たちから、『職質されるぐらい、しょうがないんじゃない?』という声を聞くことがあります。ですが、レイシャルプロファイリングは人の権利を侵害する行為なんだとカードを通じて知ってもらいたいです」

カード制作で意見交換する有志の参加者たちカード制作で意見交換する有志の参加者たち

「STOPレイシャルプロファイリング」によると、今回披露されたカードは初回版で、今後使用した人からの感想などを踏まえ、改良していく予定という。

カードのデータはこちらから無料でダウンロードできる。また、カードの設置・配布に協力してくれる書店やカフェ、オフィスなどを募集しており、希望者は専用フォームから申請できる。

(取材・執筆=國﨑万智)

【アンケート】
ハフポスト日本版では、人種差別的な職務質問(レイシャル・プロファイリング)に関して、警察官や元警察官を対象にアンケートを行っています。体験・ご意見をお寄せください。回答はこちらから

…クリックして全文を読む