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2023年に惜しまれつつこの世を去った脚本家の山田太一は、テレビドラマ史に残る傑作を数々残した。『岸辺のアルバム』は、山田が1974年の多摩川水害に着想を得て新聞に連載した小説をもとに、自身の脚本で77年にテレビドラマ化した作品である。平凡な四人家族が打ち明けられない秘密を抱え葛藤する様を描いた本作は大きな反響を呼び、第15回ギャラクシー賞、第10回テレビ大賞などの栄誉に輝いた。

放送から49年の時を経た2026年、初の舞台化が実現する。22年に向田邦子原作のドラマ『阿修羅のごとく』を新たに舞台化し、第30回読売演劇大賞優秀作品賞、優秀演出家賞、優秀スタッフ賞を受賞した「モチロン」のプロデュースである。倉持裕脚色、木野花演出、小林聡美主演という座組に、原作ファンはもとより演劇ファンの期待も高まるばかりだろう。

多摩川沿いの一軒家に暮らす田島則子(小林聡美)は、仕事一筋の夫の謙作(杉本哲太)やなかなか受験勉強に身が入らない長男繁(細田佳央太)、すげない態度の長女律子(芋生悠)に気を揉み、日々の家事に追われてばかりいる。そんなある日家に不審な電話がかかってくる。最初は訝しがる則子だったが、そのうちその電話の男(田辺誠一)との会話が閉じこもってばかりいる日々の気晴らしになるのだった。しかし家族の軋みは思わぬかたちであらわになり……

原作ドラマで描かれた時代の空気感が肌身でわかるという小林聡美に、現在の心境を聞いた。

小林聡美

小林聡美

ーー『岸辺のアルバム』の舞台化のお話を聞いたときはどのように思いましたか。

一見、平凡に暮らす家族の、日々の生活のなかでそれぞれが秘密にしていることがちょっとずつ明らかになりますよね。ドラマはドキドキしながら観ていましたが、まさか舞台化されるとは思っていませんでした。『阿修羅のごとく』を終えてもう舞台は体力的に無理かなと思っていたときでしたし、ドラマで則子を演じていた八千草薫さんは当時40代でしたから、「私でいいのか?」とも思いました。

ーー田島則子という役をどのように捉えていらっしゃいますか。

私が子どもの頃に見ていた家庭のお母さんの典型的なイメージですね。家族のことを一番に考え、大変なことを一手に担い一杯一杯になっている。夫が忙しくて家にいなくて、子どもたちもそれぞれの世界を歩き始めている。家の外との繋がりもなく、これから家族はどうなるのかと考えたりもする。家族に尽くす毎日の一方で、どこか虚無感を抱えていて、そんなときにふと魔が差してしまう——他人事ではない話ですよね。

ーー則子が選択する行動は放送当時視聴者にショッキングに受けとめられました。

彼女のやったことは一般的には許されることではないですが、私はわかってあげたいという気持ちがあります。則子の気持ちのゆらぎは説明のつかないものである意味人間らしいし、長い人生のなかの強烈な経験のひとつになると思うんです。きっと時代が変わっても彼女に共感する方がいると思います。そんな人間の本質に訴えかける部分があるからこそ『岸辺のアルバム』は名作と言われ続けているのではないでしょうか。

小林聡美

小林聡美

ーー苦い見応えがある一方で家族を肯定的に描いている点も特徴的です。

血は繋がっているし生物的には近いけれど、一人ひとり違う人間の集まりが家族なんだと思います。それぞれ事情を抱えながら集っている人たちの危うい入れ物であるともいえます。それを維持するためにみんながもがいている。いろいろなことが起きるなかで田島家のみんなは改めて家族を見直し、前に進むことができたのだと思います。そう考えると家族ってそれぞれが成長するためのちいさな社会なのかもしれません。だから家族のドラマって面白いんですよね。

ーー今回も『阿修羅のごとく』の倉持裕さんの脚色、木野花さんの演出です。

現時点ではどのように劇化されるのかはまだわからないのですが、出演者のみなさんの醸し出す空気感を大切にして新鮮な雰囲気の作品にしていけたらと思っています。倉持さんは限られた上演時間のなかで原作の世界観を再構築するセンスの素晴らしい方です。また木野さんは演劇に対して本当に情熱的で、目指すところに向かって決して妥協しません。そういった面で心強く頼もしいお二人です。

ーー二作とも現代ではなくなりつつある家の固定電話が重要な役割を果たします。

則子にとっては家の外と繋がることのできる特別な手段です。電話をめぐる家族のドラマはいっぱいありました。長電話するなと娘が父親に怒られて、家族喧嘩の原因になったり。二作とも固定電話ならではの不自由さが物語を盛り上げますよね。

小林聡美

小林聡美

ーー夫の謙作を演じる杉本哲太さんとは1998年に映画『キリコの風景』で夫婦役に取り組まれています。

お互い30代の時でした。杉本さんは同級生で同じ年なんですよ。また共演させていただくのがすごく楽しみです。ちょっと前にドラマ『団地のふたり』で共演したのですが、その時に再会してこんなお茶目な方だったんだと発見をしました。他の出演者も素晴らしい方々ばかりなので、皆で力を合わせて大きい壁を乗り越えるつもりでこの作品に向き合いたいと思います。映像と違って舞台は最初から最後までみんなで作りあげていくのでとても時間が濃いんですよね。健康第一に元気で乗り切りたいですね。

ーー小林さんが最近出演されている作品を拝見すると、しなやかで自由に、楽しそうにお仕事をされている印象を受けます。

いつだって仕事は大変ですけれども、3、40代のときは必要のないプレッシャーを感じていた気がします。この歳になるとそんな深刻にならず、もっと面白がって仕事をしていいのかなと思うようになりました。どの現場でも周りのスタッフは私よりも若い人たちばかりです。私が仕事を始めたころの録音技術はオープンリールでしたが、今は現場でスマホがモニターになっていたりするのを見ると、すごい未来を見せてもらっているような気がしてしまいますね(笑)。

ーー最後にお客様に向けてメッセージをお願いします。

ドラマを見たことのある方はすごく楽しみにしてくださっていると思います。則子の体験を通して、時代が変わっても変わることのない、家族というものの脆さ、そして希望に共感していただける作品となっています。新鮮な『岸辺のアルバム』をぜひ劇場で目撃してください。

小林聡美

小林聡美

ヘアメイク:磯嶋メグミ
スタイリスト:藤谷のりこ

取材・文=深沢祐一   撮影=奥野倫