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東京バレエ団が2026年2月27日(金)~3月1日(日) 東京文化会館で〈レジェンズ・ガラ〉と題し、モーリス・ベジャールジョン・ノイマイヤーイリ・キリアンという3巨匠の名作を一挙上演。ここでは、ベジャール振付『春の祭典』のリハーサルと、ジル・ロマン(振付指導)および 佐野志織(芸術監督)への囲み取材の模様をお届けします。

佐野志織(左)、ジル・ロマン(右) (photo Shoko Matsuhashi)

佐野志織(左)、ジル・ロマン(右) (photo Shoko Matsuhashi)

 ストラヴィンスキーの「春の祭典」は20世紀を代表する名曲で、1913年にバレエ・リュスにおいて初演を手がけたニジンスキー以後、多くの振付家が挑んできた。なかでも傑作と称されるのがベジャール版(1959年初演)だ。原台本にある原始的で自然崇拝的な儀式とは異なり、ボディタイツ姿のダンサーによる肉体の交感と衝突を通して、人間の動物的本能をえぐり出す。東京バレエ団は1993年以降国内外で上演を重ねるが、国内では7年ぶり。振付指導として、ベジャール作品の申し子であるジル・ロマンを迎え、万全を期す。

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉公開リハーサル『春の祭典』 (photo Shoko Matsuhashi)

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉公開リハーサル『春の祭典』 (photo Shoko Matsuhashi)

 公開リハーサルは2月28日(土)に出演予定のキャストにより行われた。

 まず男性たちが登場。彼らは、床を這ったり、腰を落として股を内にたわめたりと奔放に動く。二人の演者が舞台中央で胸を突き出してぶつけあったり、皆が次々に身を投げ出すような跳躍を続けたりと白熱した展開に。2人のリーダー(鳥海創、陶山湘)、2人の若い男(井福俊太郎、山下湧吾)らは、変拍子の不協和音と一体となり、野性味たっぷりに踊る。その中において南江祐生の生贄は、もてあそばれ、悶えながら深いの哀しみを身体の奥底からふり絞るように表す。身のこなしはしなやかで、繊細な感性をも感じさせる。

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉公開リハーサル『春の祭典』 (photo Shoko Matsuhashi)

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉公開リハーサル『春の祭典』 (photo Shoko Matsuhashi)

 続いて女性陣が現れる。男性たちの鋭角的な動きとは違う、上半身をのびやかに使った色気のある動きもベジャール振付の妙味だ。そうするうちに男性たちが現れ、女性たちを円陣で囲んで踊る。そこから生贄の長谷川琴音のソロへ。腰を落とし、両手を大きく広げつつ細やかに音を拾い、ステップを踏む。優美さの中に潜む芯の強さが確かに伝わった。4人の若い娘(金子仁美、足立真里亜、政本絵美、工桃子)やアンサンブルのスタイルもこれまで以上に美しく、それでいてそれぞれが存在感を発揮しているのが肌で感じられる。

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉公開リハーサル『春の祭典』 (photo Shoko Matsuhashi)

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉公開リハーサル『春の祭典』 (photo Shoko Matsuhashi)

 やがて男女の生贄が相まみえ、激しく交わり、クライマックスへ。群舞を伴い高揚感たっぷりに展開するスペクタクルには、圧倒されざるを得ない。人間の生と性の欲望が生々しくぶつかる本作は、エロス(生)とタナトス(死)を讃えるというベジャール不変のテーマの原点だろう。2027年の没後20年、生誕100年を前にあらためてそう思わせる。

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉公開リハーサル『春の祭典』 (photo Shoko Matsuhashi)

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉公開リハーサル『春の祭典』 (photo Shoko Matsuhashi)

 ロマンは直近の上演である2024年のイタリア・ツアーの前にも本作を指導しており、長谷川&南江もその際に主演を経験済み。そのため、公演の約1か月前でありながら振付がダンサーたちの身体によく沁み込んでいる。ロマンは、踊り演じる上でのニュアンスを助言。細長い棒を用いながら南江に「熊のような姿勢で」と手を取りながら教えたり、群舞に対して「ここはもっとおびえながら」と指示したりすると、踊りの立体感と精度が増す。

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉公開リハーサル『春の祭典』 (photo Shoko Matsuhashi)

東京バレエ団〈レジェンズ・ガラ〉公開リハーサル『春の祭典』 (photo Shoko Matsuhashi)

 リハーサル終了後、ロマンと佐野志織(芸術監督)が囲み取材に応じた。

 ロマンは長谷川&南江の生贄について「純粋で役にぴったり。動きも正しく、よいものが出ていて心打たれた」と称賛。いっぽう、2月27日(金)と3月1日(日)の伝田陽美&樋口祐輝に関して「もちろんファーストキャストも素晴らしい」とフォローを忘れない。

 『春の祭典』を上演する際の難しさを問われたロマンは「女性は女性らしさと力強さを持ち合わせていなければいけませんが、力強く演じる傾向にあります。男性には何か自分を見失っているような感じが必要ですが、こちらも強く踊られ過ぎる傾向にあります。そのバランスが難しい」と明かす。さらに「モーリスが言っていたのは「女性が男性をリードしていく、導いていくように作っていく」ということ。それぞれのキャストが上手くバランスを見付けながら演じていかなければならないという難しさがあります」と説いた。

ジル・ロマン(振付指導) (photo Shoko Matsuhashi)

ジル・ロマン(振付指導) (photo Shoko Matsuhashi)

 時代や社会の変化に応じて何か変更があるのかを聞かれ、ロマンはこう答える。「これだけの傑作なので、手を触れないようにしています。振付と音楽はそのままで、作られた当時の意図や意味・役柄を伝えたい。モーリスから教わったこと、彼の言葉を伝えています」。

 佐野は「東京バレエ団のダンサーたちが踊る『春の祭典』として、ベジャールの息吹を感じられるように力強く踊ってもらいたい、踊らせたい」と話す。「東京バレエ団のよさはアンサンブルが揃うことです。しかし、この作品では美し過ぎないところ、すなわちベジャールの振付の美しさもありつつ、作品の中での役柄としての個々があった上での力強さや女性のたおやかさといった内に秘めたエネルギーをお届けできたら」と意気ごむ。

佐野志織(芸術監督) (photo Shoko Matsuhashi)

佐野志織(芸術監督) (photo Shoko Matsuhashi)

 ロマンは「佐野芸術監督がおっしゃるように、踊るにあたって美しすぎてはいけないのです。ダンサーたちには、生のもの、少し崩した美しさといったもの――ロダンの彫刻のようだとも言えますが――を感じながら作品を生きて踊ってほしい」と望む。そして「東京バレエ団の状態はいいですし、よい公演になるでしょう」と手応えを示した。

ジル・ロマン(振付指導) (photo Shoko Matsuhashi)

ジル・ロマン(振付指導) (photo Shoko Matsuhashi)

 ノイマイヤーによるオリジナル作品『月に寄せる七つの俳句』、キリアンの名作『小さな死』との3本立ては、他では決して見ることのできないプログラムだ。開幕が待ち遠しい。

取材・文=高橋森彦