『エリザベート』、『モーツァルト!』を手掛けたミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)&シルヴェスター・リーヴァイ(音楽・編曲)、そして小池修一郎(演出・訳詞・修辞)のゴールデントリオがタッグを組んだ歴史ロマン大作『レイディ・ベス』が2026年2月9日(月)に開幕した。
本作は、後に英国女王として、約45年もの長きにわたって繁栄をもたらした“エリザベス1世”となるレイディ・ベスの半生を大胆な解釈で描き出すミュージカル。主人公のレイディ・ベス役を奥田いろはと小南満佑子、ロビン・ブレイク役を有澤樟太郎と手島章斗がダブルキャストで務める。今回、レイディ・ベス役:奥田、ロビン役:有澤、メアリー・チューダー役:丸山 礼、フェリペ役:内海啓貴、ロジャー・アスカム役:山口祐一郎によるゲネプロの様子をレポートする。
物語の舞台は、16世紀のイギリス。ベス(奥田)は国王ヘンリー8世の娘にも関わらず、母アン・ブーリン(凪七瑠海)が反逆罪の汚名を着せられ処刑されたため、片田舎でひっそりと暮らしていた。ある日、ひょんなことから吟遊詩人のロビン(有澤)に出会い、反発しながらも淡い恋心を抱き始める。そんな中、現国王である姉のメアリー(丸山)に対して反逆を企てられていると疑いをかけられ、状況が一変する。メアリーの側近ガーディナー司教(津田英佑)やスペイン大使のルナール(高橋健介)に陥れられ、ついにはロビンとも引き離されロンドン塔に投獄されてしまうベス。一方、メアリーの圧政に不満がたまった民衆からは「ベスを女王に」という声が次第に高まっていき…。
8年ぶりの再演となる本作は、主要キャスト陣が前回公演から一新され、次世代を担うフレッシュな顔ぶれとなった。特に印象に残ったのは、奥田が演じるベスと有澤が演じるロビンの瑞々しさだ。奥田と有澤の若さあふれるエネルギーゆえか、歴史大作でありながら終始、現代的な空気を感じた。過酷な運命に翻弄され続けるベスの姿には胸が苦しくなる展開も多いが、二人のシーンでは普通の女の子と男の子として表現されているので、非常に身近な物語を観ているような気になる。そうした現代的な空気があったからこそ“陰”よりも“陽”が余韻として強く残り、晴れ晴れとした気分で劇場を後にできた。
奥田は、ちょっと生意気で好奇心旺盛な女の子から、女王として覚醒していくまでの変化を丁寧に演じた。奥田が本来持っている愛らしくてかわいらしさはそのままに、芯の強さもしっかりと感じられ「女王になるべく女性」の説得力を体現した。ロンドン塔に幽閉され、自身の置かれた境遇への苦悩や死への恐怖を吐露する2幕冒頭のナンバー「何故?」も圧巻。過酷な運命を嘆きながらも、母であるアン・ブーリンに思いを馳せ、強くあろうとする姿に胸が打たれる。
有澤が演じるロビンは、正義感が強く、そこにいるだけで周りが明るくなるパワーを持った人物として作り上げられていた。情熱と行動力で、身分差をものともせず体当たりで愛を語る姿が非常に魅力的だった。
メアリーを演じた丸山は本作がグランドミュージカル初出演だ。きっと大きなプレッシャーもあったであろうが、実に堂々とした演技を見せた。嫌みをズバズバと吐いたかと思えば、フェリペとの結婚に心を躍らせる。消すことのできない悲しい過去に振り回され、ベスへの対応に葛藤する様子も感じられ、非常に人間味にあふれたメアリーに仕上がっていた。
フェリペ役の内海も印象深い。登場シーンからあくの強さを感じさせるキャラクターだが、歌も芝居も安定感が抜群の内海が演じると何ともチャーミングに見えた。頭がよくクールでありながらコミカルさも持ち合わせた人物として物語の重要な1ピースとなっていた。
本作の日本初演からロジャー役を務めてきた山口。その場を掌握する圧倒的な存在感はさすがの一言。衰えない美しい歌声で観客を魅了した。
歴史大作と聞くと、ミュージカルに慣れない人はハードルが高いと感じるかもしれない。しかし、本作では、物語の冒頭で、この時代がどのような情勢にあるのかがしっかりと説明される。そのため、歴史を知らずに観劇しても存分に楽しめる。前述した現代的な空気感も含めて、初めてのミュージカル観劇にも非常に適していると感じた作品だった。
取材・文=嶋田真己