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菊池亮太の2年ぶりとなる全国ツアー『人生の階段』が、2026年2月1日(日)渋谷 CLUB QUATTROでExtraFinalを迎えた。大学時代からアーティストサポートや楽曲提供などの音楽活動を行い、YouTubeの配信活動で人気と知名度を得ると活動範囲をさらに広げていった菊池。サントリーホール(2021年)、イギリスツアー(2023年)、オーチャードホール(2025年)のチケットは完売となった。

2024年にはガーシュウィン作曲のピアノとオーケストラ作品4曲を一晩で完走。2025年は、ピアノ・リサイタル『For Mars』で、ホルスト「火星」のオーケストラをピアノ1台で再現。新日本フィルハーモニー交響楽団とは超難曲のヒナステラ「ピアノ協奏曲第1番」で共演し、東京交響楽団とは、自作「ピアノと管弦楽のための交響詩<トラベラーズ・ファンタジア>」を初演するなど、クリエイティブな才能を広げながら、ピアニストとしても作曲家として今まさに進化の途上にある。

 ExtraFinalは昼夜2回公演。先述した通り、オーチャードホールやサントリーホールが満員になる菊池の動員規模を考えると、座席数およそ200人の空間でその演奏が聴ける、なんとも贅沢な機会だ。舞台上にはグランドピアノと、シンセサイザー。観客は飲み物を片手にリラックスした様子で開演を待っている。

ステージをスポットライトが照らすと、菊池がゆらりと登場。どんな舞台でも、菊池の肩の力はほどよく抜けていて、舞台の上から少し照れくさそうに観客を見渡す。

座ったのはシンセサイザーの前。弾き始めたのはショパン「ノクターンOp.9-2」のアレンジ。シンセサイザーで和音を波打たせ、会場中をリラックスしたムードで満たすと、アコースティックピアノに移行。空を飛ぶような壮大な旋律へと変貌を遂げ、風景を変えていく。巧みなアレンジだが、こちらをただ圧倒するのではなく、手を引いて別の景色へいざなってくれるような包容力があった。

再びキーボードへ移行すると、次に聴こえてきたのはサティ「ジムノペディ」。アンニュイな旋律が次第に宇宙的な響きをまとい、気づけば夜空へ。ドビュッシー「月の光」へと変身した。余韻の長いシンセサイザーの音色で聴くと、幾重にも重なる光が見えるようだった。Un poco mossoの16分音符から再びアコースティックピアノへ。洒脱な和音を交えながら、現れたのはラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」。フランスものとは打って変わった、荒波をくぐり抜けるような力強さで突き進むと、浮遊するような「パガニーニの主題による狂詩曲 第18変奏」へ。さらに「ヴォカリーズ」、「鐘」、そして再び「ピアノ協奏曲第2番」へと回帰し、壮大なラフマニノフメドレーは終止した。

20分ほどのオープニングを終え、マイクを手にした菊池。「アンコールのような公演にしたい」ということで、客席からリクエストを募る。

ショパン「練習曲Op.25-1」、大野雄二「ルパン三世のテーマ」、嵐「カイト」を経て、可愛らしい高音でJ.S.バッハ「イタリア協奏曲」へ移り変わるとドラマチックに下降し、羽田健太郎「渡る世間は鬼ばかり テーマ」へ。旋律に挟まれた華麗な装飾音に会場からは小さな笑いが起こった。

クロード・モルガン「オリーブの首飾り」ではダンサブルにリズムを刻み、華麗なアルペジオを経て、ショパン「練習曲Op.10-1」へなだれ込むように変容。アルペジオを引き継ぎながら坂本龍一「戦場のメリークリスマス」へ。松任谷由実「春よ、来い」、菊池亮太「冬のエチュード」と季節を巡り、「オー・シャンゼリゼ」がアクセントに挿入される。YMO「ライディーン」をスローテンポでハーモニックに奏でると、ここで再び「渡る世間は鬼ばかり」が現れ、華やかなアルペジオでリクエストメドレーを終えた。

続いて「オタマトーン」(※音符の形をした電子楽器)を取り出し登場。可愛らしくも情熱的な歌声(?)のプッチーニ『誰も寝てはならぬ』の熱唱に、客席は笑いと感動に包まれた。

続いて新しい試みとなったのが、打ち込み音源のオーケストラとの“共演”だ。東京交響楽団と初演した菊池作品の「ピアノと管弦楽のための交響詩《トラベラーズ・ファンタジア》」を披露した。この作品は菊池いわく、“自分探しの世界旅行”をテーマにしており、その言葉通り、旅の自由さ、思いがけなさを表現するような独創的な発想に満ちている。

この日、演奏したのは作品の終盤部分。ピアノの超絶技巧に耳を奪われていると、大胆なオーケストラが乱入してきて、旅の風景が一気に様変わりする。グロッケンとのデュオはセンチメンタルな心情を物語るようだ。菊池いわく、実際に訪れた国をイメージしたとのことだが、菊池の脳裏にはどのような風景が思い描かれていたのか、想像をかき立てられる。

「いつものツアーとは違った、わがままな感じに」とコメントし、メドレーが次々と繰り広げられる。ガーシュウィン「ピアノ協奏曲ヘ調」を中心にしたアレンジが展開される。アコースティックピアノとシンセサイザーを駆使し、ダンサブルだったりかわいらしかったりと、多彩な表情を描いた。シンセサイザーでギターソロのような高ぶりをみせると、会場は静かな熱気に包まれる。アコースティックピアノへとその熱量を引き継ぎ、高揚感に包まれて終曲した。

季節柄、恵方巻きを食べるパフォーマンスも挟み、リスト、ベートーヴェン「エリーゼのために」のクラシックメドレーを経て、拍手にピースで応えると、華やかなアルペジオでエンディングへ。「A列車で行こう」から「スーパーマリオブラザーズメインテーマ」。会場の手拍子と一体になって駆け抜けていく。リクエストに応え、ホルスト「火星」を経て、「A列車」からモーツァルトの「ソナタK.545ハ長調」へ。ジャンルや時代を超えて、多種多様な味付けを加えながら列車は進む。菊池のこれまでの歩みや、未来の可能性を象徴するようだ。華やかな力強い低音で終止し、『人生の階段』ツアーは千秋楽を迎えた。

ユーモアに満ちた菊池のアレンジを堪能したこの日。技巧を駆使した華やかなアレンジや、センチメンタルだったり可愛らしいアレンジに、「スーパーマリオブラザーズのテーマ」や「猫ふんじゃった」といった親しみやすい楽曲を織り交ぜ、観客をホッとさせたり笑わせたりするのは、いつもの菊池らしいスタイル。

そこにシンセサイザーが加わったことで、サウンドやグルーヴはジャズバンドやロックバンドのように立体感を増した。聴き慣れた楽曲からも新たな表情が引き出される。アコースティックピアノからシンセサイザーへの移行には常に必然性があり、切り替わるたびに高揚感は一段と高まっていった。菊池の中に広がる豊かなサウンドのイメージが、遺憾無く発揮されていた。

中でも印象的だったのは、シンセサイザーのエフェクトでギターソロのような効果を出した場面。“歌”のような雄叫びに、胸が高鳴った。

終演後、舞台裏を訪ねると「あと2時間は弾けます!」と笑顔を見せた菊池。今年は昨年に引き続き、作曲にも大きな意欲を見せているという。次はどんな音楽で私たちを驚かせてくれるのか、“菊池ワールド”のさらなる広がりが、ますます楽しみになった夜だった。

取材・文=東ゆか