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椎名林檎さん「日出処 (通常盤) 」椎名林檎さん「日出処 (通常盤) 」

椎名林檎さんと成田悠輔さんの対談が『文春オンライン』に掲載され話題になっている。

対談記事は元々、月刊『文藝春秋』2026年1月号に掲載された連載「成田悠輔の聞かれちゃいけない話」の椎名林檎さんゲスト回で、こちらを転載した形だ。

そこで椎名林檎さんから飛び出した「ほんの20年ぐらい前に敗戦したみたいな雰囲気になってません?」や、国旗・旭日旗などについての発言に対し、SNSで疑問が呈されている。

【画像】椎名林檎さん&旭日旗風手旗を持つダンサーで「NIPPON」

「旭日旗が突然、問題視されるようになった瞬間」「そういう文句」に「溜め息」

ふたりが話題にしたのは、椎名林檎さんが2014年に発表した楽曲『NIPPON』への批判についてだ。

2014年サッカーW杯ブラジル大会のNHK放送のテーマとして依頼されたという『NIPPON』は、タイトルや、日の丸がジャケットにあしらわれ、日本を前面に押し出している。

「万歳!万歳!日本晴れ 列島草いきれ 天晴」「乾杯!乾杯!いざ出陣」という曲の歌い出しや、「淡い死の匂い」「あの世へ持って行くさ 至上の人生 至上の絶景」といった歌詞が、特攻隊を連想させると物議をかもした。また「この地球上で いちばん 混じり気の無い気高い青」という“サムライブルー“を意識した表現に対して、純血主義を想起させるという声もあった。

椎名さんは当時の『withnews』のインタビュー(2014年11月17日掲載)で「(「淡い死の匂い」は)特攻みたいだとおっしゃっている方がいましたね。全然考えてもみませんでした。神風特攻隊が美意識としてカッコイイと思っていて、好きで書こうとしているとしたら、もっとやり方があると思うんです」と述べ、歌詞と特攻隊との関連を否定している。

今回の対談で、成田さんが「そのものずばり日本や日の丸を掲げるのは勇気がいることだったんじゃないでしょうか」と切り出した。椎名さんは「大和魂とか“ガンバレ、ニッポン”というよりは、『敵ながら天晴』という境地までをも書きたかったんです。そのため英語も使っています」と答え、国粋主義的な発想や愛国心を強調する意図はなかったと説明した。

椎名さんは続けて、『NIPPON』というタイトルに対して「『ニッポン』と読ませていることが『大日本』みたいなイメージを喚起する』という指摘があったことに言及。

成田さんから「そういう文句が来るだろうな、って予想されてましたか?」と尋ねられると、「これでも言われちゃうのか、って静かに溜め息を漏らしたくらいです。日韓関係があまり芳しくなくなり、ちょうど旭日旗が突然、問題視されるようになった瞬間でした」と述べた。

2人は、椎名さんや楽曲・歌詞に対する一連の批判が起きたのは、社会の「タブー」に踏み込んだからだと理由づけている。

成田さんは「この数十年の日本って、売れてるミュージシャンが国家や政治に一言でも触れることがタブー化しちゃいましたよね。椎名さんだけリスクを冒されていますが(笑)」と話し、椎名さんは「ほんとそうなんですよ。ほんの20年ぐらい前に敗戦したみたいな雰囲気になってません? 急にあれこれタブー視され始めた」と同意している。

本当に、ミュージシャンによる国家・政治的発言や、旭日旗などが急にタブー視され始めたことが、批判の理由なのだろうか。

旭日旗風の手旗をたびたび販売

まず本人の言葉にもあった旭日旗だが、椎名さんのライブ『林檎博’08』では旭日旗風デザインの手旗をプレミアムチケットのおみやげとして配布し、その後2014年と2018年のライブでも同様の手旗が販売された。手旗以外にも、旭日旗をモチーフにしたかのようなグッズ複数があった。それが2024年のライブでは、販売された手旗のデザインが一新され、旭日旗を露骨に思わせるようなグッズは見られなくなった。

初期のライブでは問題視されてこなかったが、批判する声が上がったのが2014年に「NIPPON」「日出る処」がリリースされた時だったという

『林檎博’14』で『NIlPPON』を披露した際、ダンサーがグッズの旭日旗風の手旗を振りながら踊っていた。軍隊・愛国的な様式に傾倒しているかのような表現は他の楽曲でも見られ、『公然の秘密』(2019年)や『芒に月』(2025年)のMVではダンサーが軍服風衣装を着用しているほか、「芒に月」では日本国旗を掲げるシーンもある。また、1999年頃に購入した愛車にはヒトラーと名付けた。

「芒に月」のミュージックビデオはYouTube「椎名林檎」公式チャンネルで見ることができる。「芒に月」のミュージックビデオはYouTube「椎名林檎」公式チャンネルで見ることができる。

椎名さんは、『NIPPON』の楽曲が特攻隊を想起させるという批判や旭日旗を問題視する声に対して、「急にタブー視された」という風に理解している。対談ではまた「以前は国旗なんて普通の家の玄関に飾っていたし、お正月の時は車のフロントに差したりしていましたよね」と話している。

椎名さんは、旭日旗(場合によっては日本国旗)がどういった文脈で使われ、政治的な意味を持っているのかや、そこに軍隊を思わせる要素が加わることの危険性を見落としていると言わざるを得ない。

旭日旗・国旗を手にした右派系市民グループの活動が盛んだった時期

椎名さんが『NIPPON』をリリースした2014年前後は、極端な民族主義・排外主義的主張に基づいた右派系市民グループの活動が盛んだった頃と重なっている。

そうしたグループは、東京の新大久保や大阪の鶴橋をはじめとする街路や学校の前で、特定の人種へのヘイトスピーチを叫びながらデモ行進を行ったが、その際に彼らが掲げたのが国旗や旭日旗だ。

新大久保で行われたヘイトスピーチデモ新大久保で行われたヘイトスピーチデモ

それまでも右翼団体の活動は市中で行われたが、街宣車から軍歌を流しながら抗議するスタイルが多く、2010年頃から徒歩によるデモを活動に取り入れる団体が増加。当時のデモを報じた記事や写真、当局の資料は、プラカードや旭日旗、日本国旗を掲げたり、シュプレヒコールを叫んだりしながらデモ行進する様子を伝えている。

公安調査庁の『内外情勢の回顧と展望(平成23年1月)』では、「近年、インターネットを通じて活動の参加を募り、集会やデモ行進など大衆運動の形態をとりながら、右翼的な主張を展開して執拗な抗議活動を行う『右派系グループ』の動きが活発化している。特に、在日韓国・朝鮮人の追放を主張するグループの中には、差別的な言葉で相手を罵倒し、誹謗中傷を繰り返す行為をエスカレートさせ、逮捕される者も出た」と報告している。

その後、2016年にヘイトスピーチ解消法が成立するなどして、ヘイトスピーチをする街頭デモは減少傾向にあるが、近年ではクルド人に対するヘイトスピーチが深刻化。在日クルド人排斥を主張するデモ隊が旭日旗を掲げるなど、依然として存在し続けている。

椎名さんは、本人が述べているように、国粋的な意図はなく旭日旗をライブグッズにしたのだろう。

初期作品『本能』ジャケットとミュージックビデオでの看護師の衣装と同じように、ファッションとして引用したに過ぎないのかもしれない。

だが、旭日旗が歴史的背景から旧日本軍を想起させるだけでなく、いまもなお排外主義的な活動で用いられている以上、意図していなかったとしても、モチーフとして引用することがどのような意味を持つか注意深くなるべきだろう。

そこに軍隊や特攻を思わせる衣装・歌詞が加わることで、国粋的なメッセージが強まり、批判的に捉えられる理由としては十分だと言える。

椎名さんへの批判が起きたのは、旭日旗やこうした表現が「急にタブー化」されたからではない。それらが持つ歴史的な文脈や、誘発しかねない危うさに自覚的でないまま、自身の創作に取り込んできた結果ではないだろうか。

「ほんの20年ぐらい前に敗戦したみたいな雰囲気」と言うけれど

終戦の年に生まれたタモリさんの言葉に「新しい戦前になるんじゃないですかね」というものがある。

これは『徹子の部屋』(テレビ朝日 2022年12月28日放送)で黒柳徹子さんから「来年はどんな年になりますかね?」との質問に答えたものだが、反響が広がり2023年の流行語大賞にノミネートもされた。

あれから3年、ロシアのウクライナ侵攻は継続しており、2026年にはアメリカとイスラエルがイランを攻撃し、世界中で戦争が起きている。

「ほんの20年ぐらい前に敗戦したみたいな雰囲気になってません?」という椎名さんの発言には、戦争に対する恐れや危機意識のなさが表れており、ひいては楽曲「NIPPON」への批判に耳を傾けない姿勢を生み出している。

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