BBHF“ATOM”
2026.4.25 Shibuya WWW X
BBHFを辞めるのを辞めたと尾崎雄貴(Vo/Gt)が発言した昨年7月の『MELT』から約9ヶ月。バンドの存続に安堵したと同時に今回のライブ『ATOM』が去年のライブ時点で決定していたことだけを心に持ってこの日を待っていたファンは多かったのではないだろうか。が、ライブ直前にこの“ATOM”はライブタイトルのみならず、6月10日リリースの新EPのタイトルであることが判明し、かつライブ会場でフィジカルCDとして最速販売されることがアナウンスされた。ファンの心情としてはかなりの急展開であり、会場へ向かう心持ちもEPリリース前とは全く違うものになったはずだ。結果的に(いや、バンドとしては意識的かもしれないが)BBHF史上最も曲数も多く、最もキャリアの様々な時期のレパートリーを配し、ライブ未披露楽曲まで盛り込まれたパースペクティヴを誇る2時間となった。と、同時にそれは現在のBBHFの自然な姿でもあった。
『ATOM』リリースと同時に公開されたゴステイストのメイクはステージでも施され、雄貴、尾崎和樹(Dr)、DAIKI(Gt)はもとより、サポートメンバーのYohey(Newspeak/Ba)、岡崎真輝(Gtその他)もその世界観の一員としての佇まい。5人を迎えるファンの歓声にいつもと違う期待が込められる。DAIKIと岡崎にギターを託した雄貴はこの日ボーカルに専念する。グッと生々しさを増した「死神」でライブをスタートしたのも何だかしっくりくる中、続く「流氷」のキックが響くと、それだけで歓声が上がる。ライブアレンジだからというのもあるが、この曲もオリジナルに比べてロックバンドの生音感が前景化している。その感触は「立派なお人」でさらに増幅されて、どこか90年代UKロックバンドが曲の良さでサマソニのソニックステージを沸かせているような情景を重なって見えた。インディロック育ちのサウンド感を持つバンドでありつつ、時代を超えて人生の機微をもっと広範なロックとして表現するに至った近年の骨太なBBHFを初っ端3曲でもう立ち上げていたのだ。
BBHF
「ひさしぶりです。BBHFです。メンバーも意気揚々とやってきました。新しいEPを出すことになって今日はこれまでやってない曲も全部やります」という雄貴のまっすぐなMCに、フロアの空気も俄然熱くなる。しかし「やってない曲」がまさかの「ライカ」とは!このBird Bear Hare and Fish名義時代の曲はイントロで悲鳴に似た歓声が上がり、それを輝度の高いDAIKIのリフ、和樹の8ビートが昇華していく。DAIKIがスクラッチ奏法までやってのけ、意気揚々どころか挑戦者マインドでブチかます若さとふてぶてしさがバンドで再燃している。ちなみにこの日、DAIKIはフルボトルのワインをステージドリンクにしていて、デカダンなパンクスっぽい佇まいがメンバーにもウケていた。この時点でBBHFのライブでこんなに笑うことってあったっけ?と感じてはいた。一転、森っぽいグリーンの照明とSEに誘われるオーバーチュア的な「鳥と熊と野兎と魚」と「リテイク」を繋いで、アルバム『南下する青年』のストーリーが立体的に展開する。生々しいバンドアンサンブルが印象的だったこの日にあって、Yoheyのシンセベースなど、ほぼ唯一アトモスフェリックな音像で、駆け足でBBHFの全容を見ている気分にもなる。
尾崎雄貴
DAIKI
尾崎和樹
DAIKIの素のギターサウンドのリフがすごい彩度で耳に飛び込んだあと、雄貴が「新曲やります」と一言。エコー感やエフェクトが一切ないスタジオ練習みたいな生々しさで届けられたのはEP『ATOM』収録の「BLOOM」で、雄貴は時折フロアを睨みつけるように歌い、その様子が何を意味するのか?食い下がるようにファンは耳をそばだてる。<君のせい、ぜんぶ君のせい>というサビや<猫><にゃんにゃん>といったワードとストレートな曲調へのまっさらな反応がライブのムードを開いていくのが分かる。さらにもう1曲新曲が続くのだが、スネアが尋常じゃない長さで連打されるイントロは明らかにこれまでにないトーン。何が始まるんだ?という前のめりな空気をストーナーロックもかくやヘヴィなドライヴ感に突入していく。かと思えばボーカルはデス声めいたラップだし、今回のビジュアルには最もフィットしているのだが、何よりメンバーが演奏を楽しんでいるのが解析する気持ちを上回った。「エンフォーサー」と題されたこの曲、意味は「法の執行者」である。果たして態度の悪いこの曲の主人公のことなのか、この態度の悪い主人公が弾劾する対象なのか?興味深い。
歓喜と呆気がないまぜになったところに、「なにもしらない」である種の安心を伴った高揚感に導いてくれるのもライブの起伏を生んでいる。さも当然のようにポーンと景色を変えてくれる雄貴のボーカルの胆力がこの上なく効く。この日は一層、雄貴から見たDAIKIを想起させた「友達へ」。DAIKIのオブリガートが一層ライブアレンジの奥行きを増幅する。奥行きという意味では「シェイク」もそうだった。
BBHF
最近の曲作りはセッションで形作っていくことが多いと、先ほどの新曲の組成を裏付ける雄貴の発言。そこからこの日珍しくDAIKIから雄貴にもっとBBHFでライブをやるべきだという提案が増えていく。この時点ではそこまでDAIKIが強弁するとは想像していなかったのだが。
爽快なアップテンポというより、この日はティーンエイジャーのバンドのようなフレッシュさを感じた「サラブレッド」、「ほぼ初めてやる曲」という曲振りから、シンセのイントロに驚きに満ちた感嘆の声が上がったのは「とけない魔法」。80sサウンドを消化したグローバルポップの潮流ともリンクする曲調が6年を経た今、しっくりくる。<腕をあげてさぁショーを続けよう>というフレーズ、遠くまで届く雄貴の歌の力が自然とハンズアップを起こしていた。レア選曲への反応がビビッドだったからか、今度は「いつもの曲やります」というわざわざのアナウンスに笑いが起こるが、「僕らの生活」でのDAIKIと岡崎のユニゾンするギターリフはいつ聴いてもツボを押す最高のフレーズだ。少年が青年に成長していく逡巡と飾らないリアリティが、今、ファンの年齢にもハマるのか、ステージを見上げるのではなく同じ目線で共有されている印象を受けた。どんどん曲を繰り出すタフさと音楽的な幅の広さは憂いと逞しさを音像でもテンポでも体現する「Here Comes The Icy Draugr」で頂点へ。オアシスというよりノエル・ギャラガーのソロ的な哀愁が横溢するギターサウンドやメロディが一切背伸びを感じさせないばかりか、サビの迫力ある歌唱に至っては完全に雄貴オリジナルのエレジーである。歌が巧いとか声量があるとかを超えて、五臓六腑に沁みる迫力を湛えていた(雄貴は後ろ手を組んで、むしろリアムっぽい佇まいではあったが)。
尾崎雄貴
DAIKI
尾崎和樹
5人の熱量がストレートに「やめちゃる」に接続。Yoheyも前のめりになって、雄貴、岡崎と向かい合ってプレイしているほどで、これほどストレートに熱いBBHFは見たことがない。「メガフォン」も雄貴がパフォーマーとして歌を全身で表現し、曲の持つシニカルな側面をギタリスト二人のセンスが際立たせていた。そして説明なくこの日3曲目の新曲はEP『ATOM』から悪魔信仰を想起させるタイトルの「666」。クランチなギターリフに一瞬「メタル?」と思わせつつダンスパンクな要素もあってかなり痛快だ。この日のメイクや黒装束に最もハマっていたと思う。意外にも(?)エンディングとともに大歓声が上がるあたり、フロアのバイブスはバンドと共犯関係を結べる親密さがこの日完全に出来上がっていた。そりゃそうだ。誰より早くBBHFの新曲にナマで出会えたわけだから。
BBHF
「名残惜しいです」を3回繰り返し「名残惜しいおじさんです」と自分で突っ込み、素直に「BBHF楽しいです」と言う雄貴をはじめ、全員がこの上なく楽しそうだ。ボトルワインをほぼ飲み干したDAIKIに「DAIKIくんが余計なこと言わなければピュアな気持ちでできるんですけど」と釘を刺すも、「だってもっと見たいでしょ?」とストレートに返され、フロアも味方につけたDAIKIがこの日の殊勲賞なのは間違いない。本編ラストはライブタイトルかつEPのタイトル曲である「ATOM」だ。ミディアムスローで物語を紡いでいくような曲調はBBHFの代表的なスタイルでもあるが、よりその場で醸成されるグルーヴに身を任せるようなスケール感はこの曲が持つ個性でもあるだろうし、この日のライブの一連の流れが生み出したものでもあったのではないだろうか。原子の子アトムと生みの親の視点が交互に出現する歌詞に聴こえたが、果たしてどんな経緯があるのだろう?この曲のタイトルが冠されたライブがこの日1日なのは勿体ないな、と早くも名残惜しかった。そう。そんな意味でも名残惜しい。
BBHF
まだまだ消化しきれないものも大いに残しながら、DAIKIが放ったフィードバックノイズがまだ聴こえるうちにアンコールの拍手が起こった。アンコールでは珍しく5人全員が雑談のテンションで話すのだが、岡崎にまでガリレオとBBHFのどっちが楽しいかを尋ねるDAIKIはここでもフロアを味方につけていた。BBHFのソングライターはもちろん雄貴だが、ロックバンドとしてのカラーはDAIKIの存在なくして語れない。それがこの日、明らかに“二人フロント”に見えたのことが次のフェーズを示していたのではないか。
少年から青年への旅路を歩むからこそむしろ原点的な「バック」の瑞々しさに気付かされた後、DAIKIは「尾崎雄貴、和樹にBBHFまたやりたいって言わせるように今日は仕向けてきた」と発言し、ファンの同意を得て殊勲賞どころか大優勝である。ラストナンバーである以上に、この日は「バックファイア」がバンドのテーマソングとしてあまりにハマっていたことを追記しておく。
Text by 石角友香
Photo by @Shun_officially
Hair & make-up by @asahi_sano