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ピアニストの三輪郁が、6月8日(月)大阪・ザ・フェニックスホールにて、リサイタル『憧憬~天才たちを讃えて』を開催する。公演を前にオフィシャルインタビューが公開された。

ピアニスト、三輪郁が紡ぐ作曲家たちの思いの輪廻。リサイタル『憧憬~天才たちを讃えて』

ソリストとして、また室内楽奏者としてウィーンの演奏様式を継承するピアニストの三輪郁。『憧憬~天才たちを讃えて』と題された今回のプログラムは、三輪のライフワークとも言うべきモーツァルト、シューベルトを中心としながらも、ビゼーによるモーツァルトの編曲やブゾーニ、プーランクの作品も織り交ぜた多彩な内容。ウィーンと、三輪が心を寄せる天才たちの系譜を、彼女ならではの視点でとらえた魅力的なものとなっている。公演を前に三輪郁に聞いた。

 ――最初にプログラムを見た時、物語のようなものを感じました。パリ時代のモーツァルトに始まって、ビゼーのモーツァルトに受け継がれて、そのビゼーの『カルメン』がブゾーニに霊感を与えて、みたいに。後半のプーランクからシューベルトへの流れも、とても自然だと思います。

 そこを汲んでいただけると、とてもうれしいです。モーツァルトとシューベルトというのはウィーンから離れることができない私としては柱となる存在なので、この2人への「憧れ」という気持ちが表れた作品に注目してみました。それは例えばある作品を参考にすることだったり、思いを巡らせることや汲み取ることなど、いろいろだと思うのですが、ビゼーやブゾーニ、プーランクもまた、私自身が憧れてやまない天才たちであり、その憧れは輪廻するみたいにそれぞれの作品や演奏に生きてくるものだと思うんです。

 ――それが今回のテーマですね。

 最初はモーツァルトの変奏曲から。彼の音楽の妙の部分というのは、バリエーションにあるような気がしていて、まずは「みんなが知ってる『きらきら星』っていうのがあってね」っていうところからスタートしたいと思いました。ビゼーはモーツァルトを根っこに持ちつつも、やはり早世が惜しまれる作曲家。ビゼーの作品にはモーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』をピアノ・バージョンに編曲したものがあって、それを取り上げることにしました。そしてブゾーニの、「ビゼーの『カルメン』による室内幻想曲」へとつながるのですが、この作品には、実は私がブゾーニ・コンクールを受けた時の課題曲の1つだったという思い出もあるんです。ウィーンでの留学時代に毎日のようにオペラ座に通って、バルツァとカレーラスの『カルメン』を何回も観たので、それを脳裏に浮かべながら練習したことなども思い出しながら……。この辺りはきっと気持ちよく弾けるんじゃないかなと思います。

 ――ここまでが前半ですね。すでにとてもいろいろな風景が見えるような気がします。

 前半にモーツァルトを弾こうというのは決めていたけれど、実はプログラムの曲目としては、後半のシューベルトのソナタ第13番が先に決まりました。というのは、私がウィーンに留学したのが1986年なので、ちょうど40年前。これはやはりウィーンに因んで、シューベルトをもう一度ちゃんと弾いておきたいなっていう気持ちもあったし、個人的なことを言えばこのA-durのソナタが、私のピアニスト生活のキャリアの扉を開けてくれた作品でもあるんです。

 ――そのエピソードを教えていただけますか。

 ドルトムントのシューベルト国際コンクールを受けた時に、本選に残ったんです。でもその時は1位とか2位とか、そんな結果ではなかった。ところが審査員でいた指揮者の方が、私がA-durのソナタを弾き終わった後に「僕は絶対に君と仕事をするからね」っておっしゃったんですね。 この曲と、次に弾いたアルペジオーネ・ソナタを聴いて、もう僕は絶対、君と仕事をするからって。当時ドルトムント歌劇場のシェフをしていたクラウス・ヴァイゼっていう方なんですが、彼はそれから20年ぐらいにわたって、私をいろんなオーケストラにソリストとして呼んでくださいました。その時も「定期演奏会に来年おいで」って、その場で約束してくださって。だから私のピアニストとしてのデビューは、ドルトムント・フィルハーモニーというオーケストラでメンデルスゾーンのピアノ・コンチェルトを弾いた、というものでした。コンクールが1987年、デビューしたのは89年かな。

 ――三輪さん自身の節目につながるプログラムでもあるんですね。今回、私が意外に思ったのがプーランクだったんです。プーランクそのものも意外だったし、それがこの場所にあって、すごくしっくりしているというのが驚きでした。

 プーランクとの出会いは六重奏から始まって、室内楽をずっとやってきているので、フルートもオーボエもクラリネットもヴァイオリンも、デュオもトリオも……様々な場面で弾いてきました。それで、いつかピアノ曲もちゃんと聴いていただきたいなっていう気持ちはずっと持ち続けていたんです。とは言え、ウィーンが長かった私としては、いわゆる“フランスもの”は踏み込んではいけない領域なんだ、みたいなところがすごくあったんですよ。ただ室内楽の方面から入ることができたプーランクは、父がオーケストラに長年所属(元NHK交響楽団トロンボーン奏者の三輪純生氏)していたことも影響してか、トランペットとかトロンボーンみたいな管楽器的な要素を近くに感じることができる作曲家だなと感じる部分もあって、好きだったんです。

 ――三輪さんのピアノの音に独特の色彩感が感じられるのは、お父さまの存在も大きいのではないかと私も思いました。そうした音楽的な空気の中で、三輪さんはおそらく室内楽的な響きを身につけられたのかな、という気がします。

 オーケストラをたくさん聴く機会を与えてもらえたというのは本当に幸せなことだったと思っています。それはもう小さな頃からね。また妹がヴァイオリン弾きなので弦楽器もすごく近くにありました。そんな訳で、そういう家庭環境は私にとっては素晴らしい財産だなって、今でも思っています。

 ――それが三輪さんならではの、今回のプログラムにつながってきているように思えます。だって普通に並べたらモーツァルトとシューベルトの間にプーランクは来ませんから。

 そうですね。前半にモーツァルトとシューベルトを弾いて、後半フランスもの、みたいなのはあるかも知れないけど。だから今回は、この作曲家同士の「思いの輪廻」みたいなところに光を当てながら、ちょっと私自身の「思い」も挟んで、聴いていただけたらなって思いながら作ったプログラムなんです。

――「思いの輪廻」って素敵な言葉だと思います。いろんな天才たちに受け継がれていった「思い」がお客さまにも伝わると良いですね。

大阪公演はお喋りできるのかどうかわからないけれど、言葉ではなくても、音楽で思いが伝わればいいなって思っています。私のピアノで、お客さまそれぞれがお持ちの「憧れ」の蓋を開けることができたらうれしいですね。

取材・文=逢坂聖也

チケットは、イープラスにて一般発売中。