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ショパン国際ピアノコンクール3位受賞から早5年、今年もスペイン出身のマルティン・ガルシア・ガルシア(以下ガルシア)の日本公演が開催される。Aプログラム「ショパン×リスト」とBプログラム「チャイコフスキー×ラヴェル×シューベルト」が用意され、2025年5月29日(金)から全国20カ所を巡る。全貌をガルシアが語ってくれた。

Aプログラム「ショパン×リスト」は、前半がショパン、後半がリストの予定である。

「ショパン(1810~49)は特別な作曲家で、演奏するには時間とエネルギー、そして深い理解が必要です。今回の5曲は、脈がつながっていて、組曲のような構成です。音楽的なアイデア、各作品のモチーフさえも、信じられないくらい似てたりするんですよ」

「バラード第2番」「スケルツォ第3番」「3つのマズルカ」など、プログラムの5曲は、いずれも人生後半に書かれたもの。故郷ポーランドの民俗舞踊、パリの文学や美術などさまざまな芸術的要素が関わっている。

「ショパンの後期作品の音楽概念は『融合主義』という言葉でよく説明されます。ロマン主義的な世界観の象徴ですね。伝統、未来、そして超越的なものとのつながりは、前半最後の『バラード第4番』で、最高の形で達成します」

私生活では、求婚者に断られ、新たな恋人となった作家のジョルジュ・サンドとマヨルカへ。その後、彼女の故郷・ノアンへ移り、田園暮らしとパリでのコンサートの往復生活を送ること約8年。濃密な日々を過ごした最盛期に当たる。

  一方、後半のリスト(1811~86)は、「尼僧院の僧坊」「ソナタロ短調」など3曲。イケメンの「ピアノの魔術師」→「宮廷楽長」→「聖職音楽家」と変貌を遂げた、30代~50代初め頃の作品だ。カトリック信者のカロリーネ侯爵夫人との結婚問題で、心労絶えない時期でもあった。

「リストは、ショパンと肩を並べられる数少ない作曲家の一人と言えるでしょう。なかでも1840年以降の作品がふさわしいと思って選びました。超絶技巧演奏をするためのパッセージやアクロバティックな表現を一切排除しているところがが素晴らしい。ヴァイマル時代(1850~60年頃)とその後の人生の意味も含まれています。
締めの『ソナタ ロ短調』は、ロマン主義時代の頂点です。力強く深遠な構造を持っているだけでなく、超越性、道徳、構造、伝統、革命、抽象性、そして庶民の知恵が結びついている。とても謎めいた作品だと思います」

  興味深いことに、Bプログラム「チャイコフスキー×ラヴェル×シューベルト」については「ショパン以外の作品も聴いてもらいたくて用意しました。僕にぴったりのプログラムです!」という。

「チャイコフスキー(1840~93)とシューベルト(1797~1828)のソナタは、子供の頃から両方とも演奏したいと思っていました。全く異なる作品ですが、不思議なことに、共通する音楽的要素があるんですよ。まず、チャイコフスキーの『ソナタ ト長調』は、彼が作った最高のメロディーの集合体。バレエ組曲『くるみ割り人形』や『白鳥の湖』、ヴァイオリン協奏曲、初期の交響曲などを彷彿させます」

では、シューベルトのソナタは?

「『ソナタ第18番』は、彼の作品群では重要視されないかもしれないけど、最後の3つのソナタと同等の感情的な深みをたたえています。死のわずか2年前に作られ、ベートーヴェンになろうとか、優れた作曲家になろうなどと無理に努力していない瞬間に生まれた作品です。自身の才能に身を委ね、導かれるままに書き起こしたピアノ曲。でもこれはピアノのためじゃなく、想像力のための作品と言えるでしょうね」

ラヴェル(1875~1937)の「高雅で感傷的なワルツ」は、シューベルトの「高貴な円舞曲」などを手本に書いたといわれる。後に、管弦楽版のバレエ曲にもしている。

「ありふれた日常の喜びをとても見事に表現した作品と言えるでしょう。ありふれたものを崇高なものへと昇華させることが、この作品の真骨頂です。Bプログラムの3曲は、演奏者と聴衆の双方に、ピアノは単なる楽器ではなく、歌声、ヴァイオリン、オーボエなど他の独奏楽器、オーケストラ、はたまた川のせせらぎ、オルゴールの音、鐘の音などの表現もでき得る存在だと思わせてくれる作品です」

ガルシアは親日家で、テレビ朝日『題名のない音楽会』やNHK-BSの『街角ピアノ スペシャル』など、メディアでも知られるようになってきた。日本語のボキャブラリーも少しずつ増加中だ。グルメで、大好きなすき焼きや新鮮な魚介から伝統食の奈良漬けまで、各地の食べ物を幅広く味わっているが、喫茶やカフェで飲むコーヒーも楽しみのひとつ。

『街角ピアノ』では、オフタイムに都内のレコード喫茶を訪ねた。ここで、幻の名盤に遭遇。20世紀の世界的ジャズベース奏者、チャールズ・ミンガスが1964年にリリースした唯一のピアノアルバムだ。歓喜のリスニングをしながらコーヒーを味わった。まさに至福のひとときだった。

「誰もがおいしいコーヒーを楽しめる街の一つが東京で、店の雰囲気もコーヒーの味も驚くほど多様ですね。アラビカ種の豆が好みですが、特にスペシャルティコーヒーはたまらないです! コーヒーは、小さなカップの中に広大な世界を再現してくれるもの、それがとても魅力です。
日本のファンの皆さん、いつも僕の演奏を聴いてくださって心から感謝しています。終演後、心身ともにリフレッシュして、人生の新たな活力を得てもらえるよう頑張ります」

『マルティン・ガルシア・ガルシア ピアノ・リサイタル』

文・原納暢子