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ベルリン・フィルの公認アンサンブル「フィルハーモニー・カメラータ・ベルリン」の初来日ツアーに、ピアニストの亀井聖矢がソリストとして登場。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番に加え、自作のピアノと弦楽のための作品の世界初演で共演し、アーティストとして大きなステップを踏み出す。

――今回は亀井さん自作のピアノと弦楽のための作品と、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番で、フィルハーモニー・カメラータ・ベルリンと共演されます。ベルリンフィルのメンバーと自作を初演するというのは、一つの挑戦になりそうですね。

本当に大きな一歩になります。これまでに書いた曲で一番大きな編成はピアノトリオですし、そもそも12名の弦楽器とピアノという編成の作品自体あまり聴いたことがないので、各楽器がどんな音色、音域を出せて、それが絡み合うことでどんなハーモニーが構築されるのかを想像しながら書いています。またリハーサルなどを通じてメンバーに意見をもらいながら、オーケストレーションを調整して本番に臨むつもりです。
いつかピアノ協奏曲を書きたいという夢に向けて、こういう機会が成長させてくれるのだろうと思います。

――どんな作品になりそうですか?

協奏曲第3番の前に置く序曲のようなものを考えています。3番が書かれたのは、ベートーヴェンが〈ハイリゲンシュタットの遺書〉を書いた少し後のこと。当時の彼の精神状態、苦悩を乗り越えて希望を見つけていった流れを意識し、古典的な作りにしながら、音像やハーモニーは近代寄りの作品になると思います。終盤は複雑な響きの末、きれいなハ長調のハーモニーに到達して救いと共に終わり、そこから力強いハ短調のピアノ協奏曲に入っていく流れを想定しています。

――ベートーヴェンについては6月にピアノ協奏曲第5番「皇帝」、そして次は第3番と演奏する機会が続き、またドイツでの留学生活で得たことも相まって、理解が深まっているところでしょうか?

そうですね。実はこの前、1泊2日でベートーヴェンの生地であるボンに行きました。ベートーヴェンハウスで自筆譜を見ながら生涯を追うと、今当たり前のようにある音楽がどんな意図を持って生み出されたのかがわかり、作品の各部分で起きていることを改めて新鮮に楽しめるようになりました。
あとライン川下りのクルーズ船にも乗りました。緑が輝いて見えて、こんな自然の中に身を置いていたら良い作品が生まれるだろうなとも感じましたね。
留学生活で学んだこともあって、作品を練習して手の内に入れることの一歩先まで考え、音に意味を持たせるというより、音の意味を心で感じられる状態まで持っていくことができるようになった気がします。

――他に行ってみたい作曲家ゆかりの場所は?

秋にブラームスの1番と2番を弾くので、次はブラームスのことを調べたいですね。

――再びドイツものですね! 音楽から強いエネルギーが生み出せる曲が好きだと以前おっしゃっていましたが、この辺りのレパートリーに心地よさを感じるのでしょうか?

そうですね、僕は結構ガッツリ弾くタイプなので。ベートーヴェンやブラームスは、堂々と思う存分音を鳴らして構築することが合う作品で、繊細な部分にも芯があります。不安定な揺らぎも自分の意思の範囲で幅を作れるので、弾いていて快適なんです。
特にベートーヴェンなど、思うように体を動かし、指先に意志を伝えて表現すると、ベートーヴェンが求めていたことに近いであろうものが出力されていると感じられます。

――昨年のエリザベートコンクール入賞から1年が経ちました。コンクールへの挑戦の時期を終え、活動のあり方を設計し直すタイミングだとおっしゃっていましたが、その計画は進んでいますか?

コンクールに挑戦していた頃にはできなかった時間の使い方ができるようになって、作曲や新しいレパートリーの勉強、大好きな謎解きの企画の始動など、いろいろなことを動かし始める一年になりました。試行錯誤しながらゆっくり土台を固めていきたいですね。

――海外で演奏する機会も増えたと思いますが、いかがですか?

興味深いと感じているのが、日本とヨーロッパでお客さんの音の評価軸が少し違うのではないかということ。日本のホールは響きがすごく良いので、聴き手が全体的な響きの美しさやまとまりから強い印象を受けとって、結果的に演奏のコントラストや曲の雰囲気にフォーカスして聴いているように感じます。
一方、ヨーロッパはドライな響きのホールが多く、音が鮮明に聴こえるため、一音一音の意思や意味をよりはっきりさせないと、曲全体の表情も出ないように感じます。そのため、客席に対してのアプローチの仕方や耳の使い方を変える必要があるのです。
そんなホールによっての違いをキャッチして、そこに合わせた音を作ることを今後より意識していけたらいいなと思っています。

――あれほど激しい演奏をしているようで、とても冷静に聴衆のリアクションを感じているのですね。

情熱に身を委ねる自分と、客観的な自分が共存している感覚です。「激しく弾いている」という意識も、自分の中では特になくて。もともとの性格も激しい感じではないですし。

――確かに、感情的な人という印象はないです。

だから、自分のどこにそういう人格が眠っているのかわからなくて、ちょっと不思議な感覚なんです。もしかすると、多くの方によりわかりやすく、より魅力的に伝えたいという意識が働いた結果、そうなっているのかもしれません。

――「音楽の魅力をわかりやすく伝えることに情熱を注ぎたい」と以前おっしゃっていましたもんね。

そうですね。これからも自分が持っている技術や表現を磨き続けて、素晴らしい音楽をたくさんの方と共有していけたら嬉しいです。

取材・文=高坂 はる香