【あわせて読みたい】“放射能汚染土がやってくる”は「福島の特別視」につながる。除染土巡る反対運動、飛び交う差別や偏見を生む言葉
「福島第一原発事故の直後、5人の子どもを放射線の影響から守ろうと避難した女性がいる」ーー。沖縄テレビは3月19日、「子ども達を守りたいと沖縄に避難した女性の14年」というタイトルの記事をYahoo!ニュースなどに配信した。
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から14年が経過したが、「いまだに全国でおよそ2万8,000人が避難生活を余儀なくされている」と、茨城県南部の神栖市から九州・沖縄地方に自主避難した女性の思いを伝えた。
神栖市は福島第一原発から約170キロ南に位置し、原発事故による避難指示は出ていない。放射線に対する不安は人それぞれだが、メディアが報じる際は科学的根拠に基づいた情報も合わせて掲載することが重要だ。
このような問題意識からハフポスト日本版が同局を取材すると、「福島に暮らす方々への偏見を招く可能性があるとの認識が欠けていた」という答えが返ってきた。
(※本記事はメディアの報道に対する問題提起であり、自主避難者の女性に言及するものではありません)
経緯を振り返る
沖縄テレビは「わすれない3.11」という特集記事で、夫や5人の子ども、夫の両親と神栖市で暮らしていた女性を取り上げた。女性は原発事故後、5人の子どもと実家のある佐賀県に移動。その後、NPOを頼って沖縄県に移住したという。
同局は「放射性物質の影響を子どもに受けさせたくなかった」や「母親として子どもたちのこれからの健康と命が大事だった」という女性の声を伝えた一方で、放射線の被ばくによる健康被害は認められていない福島の現状については全く記載しなかった。
例えば、世界保健機関(WHO)は「今回の事故による放射線によって疾患の罹患の増加が確認される可能性は小さい」、国連科学委員会(UNSCEAR)は「事故により日本人が生涯に受ける被ばく線量は少なく、今後も放射線による健康影響が確認される可能性は小さい」とそれぞれ評価している。
福島県の基本調査(回答者約46万6000人)でも、「放射線による健康への影響は考えにくい」と示されている。
福島の人々はこれまで、根拠に基づかない情報により、結婚や出産など様々な場面で差別や偏見を受けてきた。科学的な情報の発信を疎かにすると、現地に住む人々に大きな影響を与えることは、この14年間の歴史を見ても明らかだ。
沖縄テレビが指摘を受け「追記」した文章「偏見を招く可能性への認識が欠けていた」
このような経緯から、ハフポストは4月2日、沖縄テレビにメールで質問を送付。1週間後の9日、大濵直樹報道局長の名前で返信があった。
まず、記事は東日本大震災の記憶の継承を意図したもので、「原発事故による健康被害を問うものではなかった」と説明したが、「公的機関の情報の欠如が福島に暮らす方々への偏見を招く可能性があるとの認識が欠けていた」と言及した。
福島で原発事故の放射線による健康被害が出ているとは考えておらず、「様々な葛藤を抱え自主避難を選んだ女性の心情を描こうと試みた」という。
UNSCEARの報告など科学的な情報を記載しなかった理由については、「女性が沖縄へ移住した動機などに焦点をあてる企画としたため、公的機関が示した報告の確認をせず、結果触れなかった」と回答した。
また、ハフポストの指摘を踏まえ、記事に次のような文言を追加したことを明らかにした。
「国連機関のUNSCEARは、福島の原発事故による放射線被ばくの健康影響に関する報告書で、これまでも健康影響は報告されておらず、将来的な健康影響は見られそうにないこと、妊婦・胎児への健康影響も見られそうにないことを明らかにしています」
福島への差別や偏見を巡っては、三菱総合研究所(MRI)が「震災・復興についての東京都民と福島県民の意識の比較」という報告書を2024年3月に公表している。
その中で、福島の一定数の人々が「原発事故の後に特別な目で見られる」と回答しており、MRIはこれを「差別や偏見の下地となるおそれがある」「誤った情報が世の中に流布された際に問題が表面化する懸念がある」と指摘した。
同局の記事は科学的な情報が掲載されていないことで、「福島を特別視」するような内容になっているのではないかと尋ねると、「福島の人々を特別視する意図はない。弊社の報道が差別、偏見を生まないようつとめる所存」と回答した。
なお、この記事はYahooニュースのほか、FNNプライムオンラインやグノシーでなどで掲載されたという。


