秩父宮ラグビー場(2024年4月17日)ラグビーの聖地がなぜ未供用区域なのか。文部科学大臣は財産処分要請の不認可と、国民への丁寧な説明を――。
建築や都市計画の専門家有志が7月2日、東京・明治神宮外苑の再開発で行われる秩父宮ラグビー場の権利変換には問題があるとして、財産処分申請を認可しないよう求める要請書をあべ俊子文部科学大臣に提出した。
財産処分の申請とは?
要請書を提出したのは、建築や都市計画等を専門とする研究者や大学教員のグループ「神宮外苑地区再開発の再考を願う建築・造園・都市計画・環境の専門家有志」だ。
神宮外苑再開発では、秩父宮ラグビー場と神宮球場を敷地を交換して建て替え、高さ185メートルや190メートル、80メートルの高層ビルを建設する予定だ。
秩父宮ラグビー場と神宮球場の敷地交換のために必要となるのが、神宮球場と秩父宮ラクビー場の権利変換だ。
この権利変換をするために、秩父宮ラクビー場を所有する日本スポーツ振興センター(JSC)は、文部科学大臣から同ラグビー場の財産処分の許可を得なければならない。
しかし、専門家有志は「権利変換には様々な問題がある」として、財産処分を許可しないよう訴えている。
(左から)文部科学省で記者会見した千葉商科大学前学長の原科幸彦氏、元日本大学教授の糸長浩司氏、東京大学名誉教授の石川幹子氏専門家が訴える問題とは
有志団体が一番の問題だとしているのは、東京都が秩父宮ラグビー場の敷地を「未供用」として、「都市計画公園」から外したことだ。
神宮外苑は「都市計画公園」に指定されている。都市計画公園とは都市計画法に基づく公園のことで、敷地には休憩所やスポーツ施設など公園と関係する施設以外は建てられないことになっている。
しかし、東京都は神宮外苑の再開発をするにあたり、「公園まちづくり制度」を使って秩父宮ラグビー場の敷地を「未供用区域」と断定。約3.4ヘクタールを「都市計画公園」から外して公園と関係のない建物も作れるようにした。
同時にこの場所に「再開発等促進区を定める地区計画」も適用したことで、高さ制限のあった風致地区に超高層ビルが建てられるようになった。
つまり、東京都が神宮外苑で「公園まちづくり制度」を使って秩父宮ラグビー場の敷地の一部を「未供用区域」に指定したことで、再開発が可能になったということになる。
秩父宮ラグビー場は未供用区域?
未供用区域とは、広く一般に開放されておらず、誰もが自由に立ち入りできない場所だ。試合観戦などで多くの一般市民が利用する秩父宮ラグビー場には当てはまらないようにも思える。
しかし、東京都は現在のラグビー場が周囲をフェンスなどで囲われていて、試合があるとき以外は自由に出入りできないということを理由に「未供用区域」と断定。
敷地の一部を都市計画公園から外して、超高層ビルが建てられる再開発計画を可能にした。
【画像】未供用区域と断定され、都市計画公園から外された秩父宮ラグビー場の約3.4ヘクタールはこの場所
有志団体は、この決定過程は「民主的で透明なものとはいえないだけではなく、知事の裁量権の濫用にあたり違法」と主張。
長年市民に愛されてきた秩父のラグビー場を「未供用」とするのは、実態から大きくかけ離れていると要請書で指摘する。
JSCが2021年に発表した「新秩父宮ラグビー場(仮称)実施・運営事業実施方針」では、秩父宮は戦後間もない1947年に建設され、長い間ラグビーの聖地として親しまれてきたと紹介されている。
有志団体は「JSCは、秩父宮ラグビー場は市民が親しめる公園としての機能を果たしてきたと言っている。これは、未供用区域だとする公園まちづくり制度導入の基本的要件とは著しく乖離している」と要請書で訴えている。
有志団体の一人で東京大学名誉教授の石川幹子氏は「JSCは長らくラグビーの聖地として親しまれてきたと説明しており、国民も皆さんもそう思っている」と7月2日に文部科学省で開かれた記者会見で語った。
「西の花園、東の秩父宮と言われてきた。それなのになぜ、利用されていない未供用区域とするのか。秩父宮は国民に開放されていないラグビー場だと言えるのか。それを文部科学大臣に答えて欲しいと要請書でお願いしています」
有志団体は再開発に関する次のような問題も要請書で指摘して、文部科学大臣に説明を求めている。
・新ラグビー場が建設されることで、長時間の日影や風害などが発生し、神宮外苑の樹木に悪影響が及ぶ
・新ラグビー場と新神宮球場を結ぶ歩道橋の幅が狭く、群衆雪崩が起きるリスクがある
・江戸の文化を継承している霞ヶ丘門など、外苑の歴史的文化資産が壊される
・新ラグビー場は、収容人数が現在より減るなどスポーツ振興の視点からも問題を抱えている
石川氏は、新宿御苑や白金の付属自然教育園なども夜間閉鎖されていつでも人が立ち入れないことを考えれば、秩父宮ラグビー場の周りにフェンスがあり常時開放されていないことが「未供用」とする理由にはならない、と語った。
さらに、「このような安易な形で都市計画公園が外されてしまえば、東京や横浜、川崎などの至る所で、同じことが起きてしまうという危機感を感じている」とも述べた。
秩父宮ラグビー場を巡っては、元ラグビー日本代表・平尾剛氏も、建て替えは「改悪」だとして、計画見直しを求めるオンライン署名を2023年に立ち上げている。


