東京地方裁判所に向かう選択的夫婦別姓・第3次訴訟の原告ら(2025年9月1日)結婚する時に、夫婦が同氏にするか別氏にするかを選べないのは違憲だとして、事実婚カップルや意志に反して改姓を強いられた夫婦が国を訴えている裁判は、9月1日に東京地裁(品田幸男裁判長)で口頭弁論が行われた。
選択的夫婦別姓をめぐる裁判では、2015年と2021年に最高裁大法廷で「夫婦同氏を定める民法は合憲」と判断されている。
しかし、第3次訴訟の原告は1日の口頭弁論で、2015年の最高裁判決で「合憲」と判断されたのは、司法のジェンダー不平等の影響もあると主張。
「判事の男女間での“経験則”が異なっていたことが影響しており、変更される可能性が大きい『弱い判例』だ」として、過去の判断を変更すべきだと訴えた。
女性判事全員が「違憲」とした2015年判決
10対5で合憲と判断した2015年の判決では、15人中女性の判事は3人だけで、その3人全員が違憲とした。
日本では結婚する時に改姓するのは95%と圧倒的に女性だ。望まない改姓を強いられた人たちは、銀行口座や公的書類などの名義変更、アイデンティティ喪失といった不利益を被っている。
原告の寺原真希子弁護士は、名字の変更は男女間での「経験則」が異なる問題であり、2015年の合憲判決は最高裁判事の男女比が影響した結果だと1日の口頭弁論で述べた。
その上で、男女の構成比が変化すれば変わりうるという意味で「弱い判例」だと主張した。
口頭弁論後に開かれた報告会(2025年9月1日)原告の1人黒川とう子さんも、2015年の第一次訴訟の判決を読んで、男性裁判官と女性裁判官の経験則の違いを実感した、と口頭弁論後に開かれた報告会で語った。
「合憲と判断した第一次訴訟の判決に(不利益の解消には)通称使用で事足りると書かれているのを読んだ時に、なんて他人事なんだと思いました」
2015年の最高裁判決は、改姓が圧倒的に女性に偏っていることについて、「個々の協議の結果」であり、男女間の不平等が存在しているわけではないと結論づけている。
しかし黒川さんは「どちらの姓にするかを協議の上で決めた」とする結論は、実態にそぐわないとも述べた。
2024年の調査では、約8割の夫婦がどちらの姓にするかを「話し合わなかった」と回答している。
黒川さんは、こういった調査結果や周囲の話から、結婚時にどちらの姓を選ぶかがそもそも議論になっていないだけではなく、女性の方が諦めを強いられていると感じていると語った。
「女性の方が相手の親やきょうだい、親類などを説得しなければいけない。私の友人は説得する人の数を数えて諦め、法律婚して夫の氏に変えて、仕事では通称を使用しています。しかし不便さだけではなくアイデンティティの喪失を何十年も引きずっています」
夫の根津充さんも、「女性判事が少ないことが、この判決の根底に大きな歪みをもたらしているんだろうなと感じている」と黒川さんの考えに同意。
男性は、女性から改姓したくないと言われた時にどう受け止めるかで当事者になっていくこともあると思うので、この問題を考えてくれる男性たちが増えてほしい、と語った。
「男性判事の多くはわからなかった」と回顧
2015年の最高裁判決で違憲と判断した櫻井龍子、岡部喜代子、鬼丸かおるの3人の女性は全員、結婚で名字を変えていた。
3人は退官後に、選択的夫婦別姓の合憲に至るまでの議論で「男性と女性の裁判官との間で価値観や考え方の違いがかなりあった」「弱い立場に立ったことのない人は、微妙な差をわかっていない感じがした」「間接差別に含まれるのだと主張したが、男性判事の多くはわからなかったようだ」など、この問題に対する男女間の認識の違いが大きかったことを語っている。
寺原弁護士は、報告会で「2015年の合憲判決は、ジェンダー不平等が生み出した判決と言えるか」と聞かれ、「そのように捉えている」と回答した。
「残念ながら、女性差別的な意識や慣習の中で、その圧力に気づけるか気づけないかは、差し迫った人でないとわからないというところがあります。それが男女比という形で、結果に出たというのは否定できないと思います」
「もちろん、女性裁判官だから必ず違憲と判断するわけではありません。しかし単純に考えて、もし男女比が逆だったら、違憲になっていた可能性が高かったと思います。(2025年7月に)女性判事が4人になりました。これは史上最多ですがまだまだ足りない数です。それも含め、実態を踏まえた判断をする上で、裁判所の改革は必要ではないかと思います」
選択的夫婦別姓は2025年5月に、28年ぶりに衆議院法務委員会で法案が審議入りした。しかし結論は見送りとなり、秋の臨時国会での継続審議となった。
黒川さんは「国会で、本気に取り組む議員とそうでない議員の差がはっきり出たと残念に思っています。だからこそ司法の場で違憲と言ってほしい」と述べた。


