判決後「不当判決」の旗を手にする、「結婚の自由をすべての人に」東京2次訴訟の原告ら(2025年11月28日)「極めて不当で差別的だ」――。
東京高裁の東亜由美(ひがし・あゆみ)裁判長が、法律上同性カップルを結婚制度から排除する法律を「合憲」と判断したことを、原告が強く批判した。
原告弁護団は、「論点をずらした」判決だと主張。他の高裁判決とは一線を画す特異な判決だとした。
「結婚の自由をすべての人に」東京2次訴訟の8人の原告は、判決後の記者会見で時には涙で言葉を震わせながら「大きなショックを受けた」と語った。
子どもを産み育てる男女カップルこそが「あるべき家族の姿」と断じる
「結婚の自由をすべての人に」訴訟は、30人を超える性的マイノリティ当事者が原告となり、全国5カ所で計6件の裁判が行われている。
原告は、法律上同性カップルの結婚を認めていない現在の法律の規定は、「結婚の自由」などを定めた憲法24条1項、2項や、「法の下の平等」を保障する憲法14条1項に反すると訴えてきた。
これまでに判決が言い渡された5つの高裁はいずれも、「同性カップルが婚姻制度を利用できないのは、不合理な差別に当たる」などの理由で、結婚を認めていない現在の法律を「違憲」と判断してきた。
先行する5件の裁判では、いずれも高裁で違憲判決が言い渡されているしかし、11月28日に合憲とした東京2次訴訟の高裁判決は「同性カップルが制度から排除されていることが違憲かどうか」という重要な争点を検討しなかった。
その代わりに、東京高裁が合憲判断の根拠としたのが、「あるべき家族の姿」だ。
東京高裁は、「一の夫婦とその間の子(男女カップルとその子ども)の結合体」こそが基本的な家族の姿で、現在の結婚制度はその家族の形を守るために設計されたと主張。
憲法が施行された1947年と比較して現在は家族が多様化していることを認めた一方で、「生まれてくる子どもの視点」から見れば、今も100%近くの子どもが男女間の夫婦の「嫡出子」として産み育てられているとして、それを根拠に、男女カップルとその子どもで構成される家族を保護するという結婚制度のあり方は合理的で、憲法14条1項違反にはならないとした。
「差別的ですらある」と批判
東京高裁が「男女カップルの子どもとして養育される子がほぼ100%」と述べた点について、原告弁護団は「婚姻外で出生し養育される子、法律上同性カップルの間で養育される子、養子や里子として養育される子の存在を完全に無視するもので、事実誤認であるだけでなく、差別的ですらある」と批判した。
上杉崇子弁護士は「子を産み育てている同性カップルがいるという事実を無視」しており、「セクシュアルマイノリティに対する誤解と偏見に満ちた判決」と記者会見で述べた。
パートナーの武田八重さんと子育てをしてきた原告の一橋穂さんも、「我が家には子どもがいます。私たちの形も否定されたということで、怒りに震えています」と語った。
記者会見する原告と弁護団(2025年11月28日)また、最高裁の論理展開について、沢崎敦一弁護士は「原告は、嫡出子として生まれた子どもとその家族を保護することが不合理だとは主張しておらず、論点をずらした判決内容だ」と主張した。
沢崎氏は「私たちが主張してきたのは、法律上同性カップルが結婚制度を利用できないことが不合理だということです。しかし判決は法律上同性カップルを排除することの不合理性については全く検討せず、現在の法律が異性の夫婦とその子を保護するための制度として合理的かどうかだけに注視していており、論理的におかしい」と説明している。
沢崎敦一弁護士(2025年11月28日)東京高裁は他にも、事実婚や公正証書、自治体や民間企業のパートナーシップ制度などの同性カップルへの支援などが広がっていることを理由に、法律上同性カップルが結婚制度を利用できないのは不当な差別とは言えないとした。
また、24条1項については「法律上異性カップルの婚姻を保障するものであり、法律上同性カップルは含まれない」として違憲を認めなかった。
「存在しないものとして無視されたように感じた」
こういった判断について、原告は、「存在を無視されたように感じた」と語った。
ケイさんは、20年以上をともにしたパートナーと結婚したいという思いでこの訴訟の原告になった。
その後パートナーと別れたものの、シングルになった後も原告を続けてきた理由を、記者会見で次のように振り返った。
「私は長い間、(周囲に性的指向や性自認を公表しない)クローゼットとして生き、誰にも知られないようにパートナーと2人だけの小さい世界を守り続けてきました。自分たちの関係を隠すために、ゲイ男性との形式的な行為関係を結ぶという本来なら必要のない選択をしたこともありました」
「そんなクローゼットの私が身バレのリスクを背負ってまで原告になり、一人になった後も法廷に立ち続けたのは、制度の不便さだけが理由ではありません。制度から排除され、社会から存在しないものと扱われ続ける事が、どれほど自分の人生をじわじわとむしばんでいくのか、どれほど人の尊厳を削り取っていくのかを、身をもって知っているからです」
「この裁判は私自身の尊厳を取り戻すための闘いであり、今を生きる人、これから生まれる誰かが自分の人生を恐れずに語れるようにあってほしいとの思いを込めた闘いでした」
「今日の判決を聞いて、透明人間のように生きてきた私のようなクローゼットの声を届けたいと思って法廷で陳述したことも、みんなの振り絞った声も、何も聞いていなかったんだなと感じました。私は存在しないものとして無視されたように思います」
「もう諦めない」最高裁へ
結婚の自由をすべての人に訴訟は2019年に始まった。裁判が始まってから6年半の間に、原告を含めて、パートナーとの結婚を望みながらも亡くなった性的マイノリティの当事者たちもいる。
原告の河智志乃さんは、「結婚を求めていたのに、間に合わなかった人がいます。原告の私たちも上は50代60代で、どうなるかわからない年齢にかかっています。若い世代の当事者からも、将来が見えない、まだ結婚できないのかという声が上がっています」と、結婚の平等が人権や命の問題であることを記者会見で強調した。
(左)記者会見で話す河智志乃さん(2025年11月28日)今回、東京2次の高裁判決が合憲とした一方で、すでに最高裁に上告している他の5件の訴訟は、高裁で明確な違憲判決が言い渡されている。
原告らは「諦めない」「これからも闘いを続ける」と述べ、東京2次訴訟も最高裁に上告する意思を伝えた。
河智さんは「こんなにも人の幸せや人生、尊厳が侵害されている状況が続いていいわけはないんです。最高裁で違憲が出ることを願うばかりです」と訴えた。
存在を無視されたように感じたと語ったケイさんも、「私はこれまで散々踏まれてきて、ある意味慣れているのでこんなことではへこたれません。諦めが多い人生でしたがもう諦めません。今日の判決は受け入れがたいものですが、結婚の自由がすべての人に保障されるその日まで戦い抜きます」と語った。


