メルカリが、サーキュラーエコノミーの実現に向けて2025年度に取り組んだ活動と、その結果をまとめた「FY2025.6 Impact Report(インパクトレポート)」を公開した。
同社では、2020年より毎年発行してきたこのレポート(2023年まではサステナビリティレポート)を、今年度はPR が主導で制作している。主に投資家向けに公開されてきた資料をよりブラッシュアップした狙いや反響、同社のIRに対する考え方について、コーポレートPRマネージャーの津田衣音子さんと、主にIRとコーポレートPRを兼務している緒方史乃さんに話を聞いた。
企業活動が、社会や環境に与えたポジティブな影響を計測し、結果を示すのが「インパクトレポート」。フリマアプリ「メルカリ」などの事業を通じて、サーキュラーエコノミーの実現を目指す同社は、今年のインパクトレポートで、「メルカリ」での取引を通じて生まれた温室効果ガスの削減貢献量は、算定対象カテゴリーで日米合わせて年間約69万トンになるなどと報告している。
温室効果ガスの削減貢献量約69万トンは東京ドーム約285杯に相当するほか、メルカリで衣類を1着取引すると、CO2が約9.6㎏削減でき、家庭用エアコン使用の27時間分に相当するなど、数字で見るインパクトは非常に大きい。
FY2025.6 Impact Report社会的な課題解決に繋がるストーリーの発信が求められている
―インパクトレポートの制作をIRだけでなく、PRチームも加わって進めたのはなぜでしょうか?
コーポレートPRマネージャー・津田衣音子さん(以下、津田):2020年から始めたレポートを年々進化させ、内容を拡充していったことで、ESGの評価機関や投資家の皆さんからは「読みごたえがある、そして大きなインパクトがある」と評価をいただいています。ただ、お客様や一般の方まではなかなか届けられなかったこともあり、今年からは広報が中心となって制作を進めました。
例えば温室効果ガスの排出量削減。この量というのは、今一つ分かりにくいですよね。これまでも「東京ドーム何個分を削減しました」などと表現していたのですが、今年はさらに踏み込んで、服1着をメルカリで取引するとどれくらいのインパクトがあるかをまとめました 。
また、「『メルカリ』でのリユースにより回避した衣類廃棄量(重量)は日本の衣類廃棄量の7.7%に相当」とすることで、影響の大きさを示すことができたのではないかと考えています。
FY2025.6 Impact Reportただし、レポートでは出すだけでは、興味関心のある方にしか届かないのが現状なので、今後どのようにコミュニケーションしていくか継続的に考えていく必要を感じています。
コーポレートPR 緒方史乃さん(以下:緒方):メルカリは今もグロース企業として認識されていますが、2018、19年ごろからはESG投資家や格付け・評価機関の方からの取材も増え、社会の公器としてどのように課題解決に繋がっているか、社会的なインパクトと絡めたストーリーをもっと発信してほしいという要望が増えてきました。
どうしてもIRの領域では、決算説明資料は業績の部分に集中してしまいますが、PRやサステナビリティチームと共同でレポートを作ることで、メルカリの事業そのものが社会課題解決につながるというストーリーを、より伝えやすくなっていると感じています。
GMVが上がることで、CO2を大幅削減。一方、AI活用によるCO2の排出は?
―多くの企業では、社会課題の解決に取り組むことが株価や業績にはなかなか反映されづらいジレンマもあるかと思いますが、そこをクリアできているのですね。
緒方:弊社ではKPIの1つとしてGMV(=Gross Merchandise Value ECサイトやマーケットプレイスなどにおける「流通取引総額」を指す)を重視しています。本来は捨てられるようなものがメルカリで流通した結果、同時にCO2がこれだけ減ったという指標と連動しているので、会社が大きくなるのに伴って、社会的なインパクトも増していると考えています。
―今回(2025年6月期)の決算発表内容では「AIネイティブ化」も大きな柱でした。多くの企業にとっての課題でもありますが、エネルギー使用の大きいAI活用を進めるとCO2の排出も増えます。どう取り組まれていく予定ですか?
緒方:おっしゃる通りで、弊社もAIネイティブカンパニーとして今注力している領域で、CO2の排出量につながる一面もありますが、 生産性が向上することで、例えば100必要だった工数が50になる、お客さまの体験がAIによって改善されるなどのポジティブな面もあると考えています。
コア営業利益、マーケットプレイスのGMV、フィンテックの債権残高に注目!
―一般的な業績の達成状況や予測についてもお伺いしたいです。直近の決算・事業動向の中で特にどの指標に注目すべきでしょうか。
緒方:2025年6月期に初めて連結目標を出したのですが、コア営業利益が非常に好調です。マーケットプレイスは新規ビジネスにも投資しつつも、高い収益性を実現していますし、昨年から増収フェーズへの移行を掲げているフィンテックも営業利益の目標が30億円以上だったところ、45億円で着地しました。
FY2025.6 4Q 決算説明資料米国での事業、USメルカリも、昨年度のコミットメントにしていた「ブレイクイーブン」を達成しています。一方、マーケットプレイスとUSメルカリのGMVの成長率は昨年度、目標に対して未達だったことから、引き続き課題と認識しながら、トップライン(売上高)の成長に向けて今取り組んでいるところです。第二の収益の柱となっているフィンテックはペイメントをはじめ、様々な事業をやっているのですが、特にクレジットカードの「メルカード」が、債権残高2,481億円というコアビジネスとして全社の成長を牽引しているところで、ぜひ注目いただきたいです。
FY2025.6 4Q 決算説明資料―フィンテックはどのように社会課題の解決に寄与しているのですか?
緒方:一般的な金融サービスでは、その人の社会属性に基づいて、与信を付与する仕組みになっていますよね。返済能力が高くても学生であるとか、定職に就いていなくてサービスを利用できない方が一定数います。
弊社はAIを活用した独自のスコアリングシステムを用いて、たとえば期限通りに発送しているかなどマーケットプレイスでの行動履歴に基づいて、そのような方でもサービスが利用できるようになっていることが特徴です。
―USメルカリ事業の立て直し中ということで、アメリカの一般般消費者の市場、環境について聞かせてください。日本ではインフレにより中古市場が活性化している一方、アメリカはインフレで鈍化していると説明されています。双方のインフレ率が異なるとしても、日米でどうして差が出ているのでしょうか。
緒方:もちろん事業規模や国が異なることも要因となっていますが、アメリカのようにあまりにインフレ率が高いと、可処分所得が追い付かず、趣味関連のものを買い控える事象が起きていました。
メルカリのようなセカンドハンド事業では、食品や日常的な商品ではなく、趣味嗜好に即したものがメインとなるので、数年前は買い控えから購入頻度が落ちる傾向が顕著でした。
ただ、USメルカリでもエンタメ・ホビー商材は特に人気があるので、2025年の4Q(4-6月)はエンタメ・ホビー商材がGMVの25.7%という数字でした。越境取引は注力している分野で、国別の取引金額では中国、台湾、アメリカと並んでいます。
―サステナビリティや人的資本への投資を重視しています。具体的な結びつきというのは明示するのが難しいのは承知ですが、事業成長との関連はどう捉えているのでしょうか。
津田:メルカリは事業を通じて解決すべき最も重要な課題として「5つのマテリアリティ」を掲げています。社会的インパクトとして「個人と社会のエンパワーメント」「あらゆる価値が循環する社会の実現」、プロダクト・サービスを通じて創出する事業価値として「テクノロジーを活用した新しいお客さま体験の創造」、価値創造を支える組織・経営基盤として「中長期にわたる社会的な信頼の構築」「世界中の多様なタレントの可能性を解き放つ組織の体現」の5つすべてが経営においては重要で、何か一つで劇的に成長を促すよりは全体で企業価値を上げていくものと捉えています。
FY2025.6 Impact Report特に取締役会の多様性はかなり進捗していて、女性比率も上がっていますし、 エンジニアの部門でも外国籍の人材比率が増加しています。男女間の賃金格差も是正に努めてきました 。これら全ての企業活動の結果が総合的にポジティブインパクトに反映されていると考えていただきたいですね。
緒方:メルカリは長期目線でのロードマップ経営を採っています。短期目線での質問が集中しがちではありますが、私たちとしては長期目線での目標に向けて、このような領域に注力している、という視点でお話をすることを心掛けています。
今期は引き続きトップラインを成長させつつ、利益も伴った成長を目指していきます。それに向けて注力している3事業がどう成長しているかをお伝えしていく予定です。
津田:事業全体では組織、プロダクトともにAIネイティブに注力しています。決算資料ではお伝えしたものの、進捗を報告する機会がまだ持てていないので、いずれ、何かしら成果を発表できればと思っています。
【画像】メルカリのインパクトレポート


