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可愛さの中に毒があり、見るだけで元気になる。オリジナリティあふれる編み物作品を発表し続けているお笑い芸人のアイパー滝沢さんが、初の編み物ブック「アイパー滝沢のポゥシェット編み物道」(日東書院)を出版しました。

13年前、芸人としてのアピールポイントに「何か趣味を作らなきゃ」と、100円ショップの毛糸を手にとったアイパーさん。以来、51歳の現在まで編み物にずっと夢中。趣味ができて、それまで知らなかった自分に気づいた、といいます。

ハンバーガーとポップコーンのポシェットを両手に。編み方は出版した本に載っていますハンバーガーとポップコーンのポシェットを両手に。編み方は出版した本に載っています

100円ショップの毛糸とテキスト

──「アイパー滝沢のポゥシェット編み物道」、編み方のテキストとしてはもちろん、写真集としても素敵な本ですね。掲載した33点のポシェットは全部アイパーさんが?

建前上はね。ほんとはゴーストニッターがいるホゥッ。

── あ…大人の事情が…

いやいや、全部俺!変な冗談言っちゃいました、全部俺が作ってます!10年以上編み物をやってきて、いつか本を出せたらな、って思ってたんですよ。夢が叶いました。

── そもそも、どうして編み物を?

刑務所に入ってたときに刑務作業で編み物をしてて、いまシャバに出て芸人やってるんで、せっかくだからまた始めたホゥッ。

── あー…

もうわかった、って顔しないで。恥ずかしいなぁ。これオフィシャルのプロフィールなんで。

── 極道の芸風で、ホゥッは竹内力さんをイメージしているんですよね。説明してすみません。本によると、編み物を始めたのは芸歴9年目、38歳のときですか?

遅っ!俺、始めるの遅っ!まぁでも当時、本当に暇で。その頃、家庭用電化製品に詳しい「家電芸人」とか、⚪︎⚪︎芸人を集める番組をテレビで見てて、そういえば俺は何芸人なんだろう、オーディションに出すプロフィール欄にも何も書くことがない、趣味を作らなきゃな、って。

見た目が極道だから、真逆のほうが面白い。いけばなを調べたら、生花は高いし手が冷たくなりそう。甘いものが好きなんでコンビニスイーツも頭をよぎったけど、高いし、食べ続けたら体を壊しそう。編み物でもやってみるかなぁ、って100円ショップに行って、毛糸と編み棒と編み方の冊子を買ったのが始まりです。

アイパーさんの自宅には毛糸や編みぐるみがずらりアイパーさんの自宅には毛糸や編みぐるみがずらり

── 最初に作ったのは?

編み物といえばのマフラーだけど、作り目(編み目のもとになる部分で、マフラーの幅が決まる)を増やしすぎて編み進む方向を間違えて、極太のマフラーになって…編んでも編んでも全然長さが出なくて、数十センチでやめました。

初めて形になったのは、お花のコースター。いつだったかな、俺、日記つけてるんでちょっと待ってね。2013年1月18日だ。本とかYouTube見ながら、なんとなくこうやんのか、みたいな感じで、かぎ針を買ったその日にできました。誰かに教わったわけじゃないから、網目もガタガタ。でも、出来上がったあとの周りの反応を想像しながら編むのが楽しくて。こんな見た目の奴が可愛いのを編むの、それだけで面白いだろ、って。

入れ歯のポシェットはお気に入りのひとつ。こちらも本に編み図があります入れ歯のポシェットはお気に入りのひとつ。こちらも本に編み図があります

何より、面白がってほしいから

── 編み物を始めてすぐにオリジナル作品を作っています。ハードルが高そうに思うのですが…

自分が編んでいて楽しくて、まわりも面白がってくれるものを作りたい、っていうのが軸にあるんです。

怖そうなものに毛糸を合わせるギャップがいいな、と拳銃や刀用のチャカカバーとかドスケース、永ちゃん(矢沢永吉さん)の細長いタオルみたいなA.TAKIZAWAのマフラーとか、最初から作ってましたね。

そもそも刺繍とかミシンとか、ほかの手芸を何も知らなかったから「こういうもんなんだ」って作り続けてました。そんな難しく考えてなくて、作りたいものがあったら、それをどう作るか、しかない。

組長といえば身代わりが必要..ということで、“アイパー組長”が手編みした「身代わりアイパーくん」も自宅に鎮座組長といえば身代わりが必要..ということで、“アイパー組長”が手編みした「身代わりアイパーくん」も自宅に鎮座

── 2015年には「目出し帽にもなる巾着」が、ハンドメイド作品のコンテスト「ホビー大賞」でユニーク賞を受賞しています

芸人なのにユニーク、って言われると恥ずかしくもあるんですけどね…。

日本ホビーショー(世界最大級のハンドメイドの祭典。ホビー大賞の授賞式や入賞作品の展示も行われる)のことも俺、全然知らなくて、毛糸メーカーのハマナカさんが「コンテストに出してみたら」って誘ってくれたおかげで、卒業証書以外で初めての賞状をもらいました。

ハマナカさんは、俺が編み物を初めて半年ぐらいの頃、先輩のお笑いイベントで初めて作品を展示したときに「応援したい」って声をかけてくれて、そこからずっと毛糸を提供してくれています。クロバー(ハンドメイド製品の開発・製造・販売を手がける会社)の人が俺のSNSを見てくれていて、そのつながりで「面白い編み物をやってる芸人がいるらしい」って聞いて、来てくれたみたいで。

賞もですけど、SNSを見て反応してくれたり、実際に会いに来てくれたり、っていうのが嬉しいです。

── 縁が続いていますね。本には、担当編集者との出版までの道のりも紹介しています

今みたいな編み物ブームがくる前から「いつか本を作ろう」って言ってくれてた編集さんで。

俺は自分が好きなものしか編まないから、どういうものが流行ってるとか今何が求められてるとか、全然分からない。だからこういうのを掲載するのどうかな、っていう案を伝えて、相談しながら本を作り上げたというか。

チャカカバーは「そんなの誰が使うんですか」って言われて、まぁそうだよね。作品のダメ出しもあったけど、それよりも人として、作品づくりの締切を守らないペースの遅さに「アイパーさん、売れないのはそういうところじゃないですか?」とか叱られて(笑)、ほんと、おっしゃる通り。

編集さんが一生懸命動いてくれてるのに、俺がダラダラしてて。ケツ叩かれないとやらないんで、諦めずに言ってくれる人で良かったです。怒られるのも笑いのネタになるんで、ありがたかった。

初出版の喜びを愛猫・ハナと分かち合う初出版の喜びを愛猫・ハナと分かち合う

── ハンバーガーやクリームソーダ、クワガタ、入れ歯…掲載しているどのポシェットも、ポップで可愛い。そのセンスはどこから?

センスなんてないよ。可愛いのは毛糸の力。俺はボニーっていうカラフルな毛糸をよく使ってるんだけど、それ以外の毛糸でも、どんな仕上がりでも可愛くなるのが毛糸の良さです。

ポシェットって実用的と思われがちだけど、ものがそんなに入らなくても、見た目が面白いだけでもいい。俺が作っているのは季節問わず使えるものばかりだし、本を手にとってくれた人は、毛糸=冬、と思わずに、編みながら楽しんでほしいなって思ってます。

始めてみたら、知らない自分に気づいた

── 趣味を作りたい、と思っている大人は多いと思うんです。長続きの秘訣はありますか?

俺も芸人として「趣味を作んなきゃ」から始めたけど…最初から「いつまで続くか」「その先は」なんて思ったら大変じゃない?

飽きっぽい性格で、お笑い以外で長続きしたことなんてキャバクラ通いぐらいだった俺が、編み物には飽きたことがない。こんなにハマるなんて思ってなかった。

これ出来たらウケるだろうな、びっくりするだろうな、笑ってくれるかな、ってニヤニヤ想像しながら編むのが楽しくて、出来上がったのをSNSにアップしてウケたらまた嬉しくて。楽しいことを続けてたら10年以上経ってた。

やる気がないと何もしないんで、作りたくないものは編まないです。

でも、今は面白くない、作りたくないと思うようなことでも、いつか気持ちが変わるかもしれない。変化ってすごく素敵なことだから、そうなったらそのとき作ればいい。

ストレスになったら意味がない。こだわりを持たずに、そのときの流れで自由に何でも挑戦できるのが趣味の良さかな、って思う。

── 編み物を始めて、内面的な変化はありましたか?

人の気持ちを考えるようになったかな。贈るために編むときは、どんなものなら喜んでくれるだろう、って相手のことを考えて編む。そういうことを続けてたら、街に出ても自然と、今まわりの人はどう思ってるのかな、とか、こんなことしたら迷惑になって良くないな、って考えるようになった。そんな大それたことじゃないし、当たり前のことなんだけど。

あと、変わった、というのとはちょっと違うけど、編み物を始めて、自分の根気強さと手先の器用さを知りました。だからまた、何か新しいことを始めたら、知らない自分に気づくかもしれないよね。

(取材・文/川村直子)

12月24日配信予定のインタビュー後編では、アイパー滝沢さんが時代に抗い「極道」の芸風を続ける理由から、編み物の魅力まで、たっぷり語っています。乞うご期待!

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