仕事と子育ての両立に不安を抱える人のうち、子どもがいる人の6割超が両立不安が原因で「転職や退職」を検討もしくは経験しているーー。企業の女性活躍・ダイバーシティ推進に関わる研修・コンサルティングを行うスリールが調査した「両立不安白書2025」で、両立に対する不安の中身やキャリアへの影響が明らかになった。
調査からは、仕事と子育てを両立しやすい「環境」は徐々に整ってきたものの、男女ともに子育てをしながらキャリアを形成することが難しいと感じている状況も浮かび上がった。
6割が仕事と子育ての両立に「不安」
調査は2025年7月、23歳から49歳までの計1278人を対象にインターネット上で実施。男女ともに子どもがいない層(678人)、子どもがいる層(600人)のそれぞれから回答を得た。スリールは2017年にも両立不安白書を発行しており、今回8年ぶりの調査となった。
「仕事と子育ての両立」に不安を感じた経験について聞くと、59.9%が経験が「ある」と回答。男性だけで見ても52.6%と過半数を超えた。女性だけで見ると67.1%にのぼり、子どもがいる女性は72.3%と最も高い結果が示された。
両立不安白書2025
両立不安白書2025キャリア意識と若手が抱える「不安」
「妊娠・出産後の働き方やキャリアについていつ頃から考え始めたか」(男性については、パートナーの妊娠・出産後の自身のキャリアについて)という質問に対しては、結婚前や妊娠前(男性はパートナーの妊娠前)から考え始めていたという回答は男性の29.7%、女性の23%を占めた。
両立不安白書2025仕事と子育ての両立に関する不安の中身については、男性は子どもがいないときから「経済的な負担増」と「子育て時間不足」に対する不安が多く、女性はこうした経済的・時間的負担への不安に加えて「体力面・精神面」の不安が上位にあがった。
両立不安白書2025両立不安から「転職や退職」を経験or検討、子どもがいる人の6割超
また、両立に不安があると回答した人のうち、両立への不安が原因で「転職や退職を考えた、もしくは経験した」と答えた人は子どもがいる男性では66.3%、女性では65%にものぼった。子どもがいない層も男女ともに5割前後を占めた。半数以上近い男女が「転職や退職を考えた、もしくは経験した」ということになる。また、女性より男性のほうがその傾向が高いことが示された。
両立不安白書2025
両立不安白書2025一方、男女ともに両立不安が「ある」と答えた回答群の方が、「ない」「考えたことがない」回答群よりも、今後のキャリアについて「わからない」という回答割合が少なく、管理職やスペシャリスト、起業・独立を目指す割合が多かった。このことから、白書では「両立不安がある人はキャリア意欲が高い傾向にある」として、「キャリア意欲の維持・向上が重要な要素である」と指摘している。
両立不安白書2025一方で、育児期社員の職場での自己効力感については、「職場において、自分の影響力は大きいと感じる」と答えた人は12.3%にとどまった。これは、育児期の社員が責任のある仕事や、影響力の大きい仕事ができなくなっている可能性がうかがえる。
両立不安白書2025これらの結果を踏まえて、白書では「『活躍したい』と考える優秀人材ほど、仕事と子育ての両立不安と自己効力感の低下により、キャリア継続への迷いを抱えている」とし、両立不安は個人の問題ではなく、企業が対応すべき経営課題だと指摘。子育てだけではなく介護や通院など、時間や場所で何らかの制約を持ちながら働く社員が増えている現状を踏まえ、「制約の有無にかかわらず管理職を目指せる組織」への変革が重要だと述べている。
「両立支援」と「活躍支援」のバランスを
「仕事が終わるとお迎え、食事の支度、洗濯と、多忙でへとへと」(40歳/女性/子ども有)
「日本は、スーパーマン、スーパーウーマンをロールモデルにしようとしている。日本は無理ゲー社会だ」(45歳/男性/子ども有)
こうした自由回答からも、仕事も子育てもしっかりやりたいものの、現実的には難しい「板挟み」の葛藤を男女ともに抱えていることが垣間見えた。白書を作成したスリール代表取締役の堀江敦子さんに、白書を作成した背景や企業や個人にとって必要だと考える視点について話を聞いた。
ーー前回の白書から8年ぶりに白書を作成した理由を教えてください。
2017年の白書では、子育てをしていない働く若手女性350人を対象に調査し、92.7%が両立不安を抱え、半数以上が結婚や子どもを持ったら仕事を辞めるしかないと考える「仕事かプライベートか」の二者択一になっていることがわかりました。当時は女性活躍支援の制度が整備されている企業もまだ少ない状況があり、子育てをしながら仕事を続けたい、キャリアを積みたいと希望する女性の現状を世の中に伝えたいと白書化しました。いまでは、待機児童が減少したり、男性の育休取得推進が義務化されたりと、子育てしながら働ける環境が整えられ、女性の「両立支援(休みやすさや、働き方の柔軟性の支援)」は進んできました。
男性については、プライベートで育児や家事に関わるべきという意識が広がった一方で、職場での業務負荷は変わらないままという現状があります。また、女性も仕事と子育ての両立はしやすくなった反面、育児をしながら仕事は継続できても、責任ある仕事を任せてもらえない、キャリアアップの為の経験が詰めない、という新たな課題が見えてきました。
こうした背景を踏まえ、男女の子どものいる人・いない人それぞれの不安や課題を明確化する必要があると考え、改めて2025年に調査を実施しました。
ーー調査の中で、男性の方が早い時期から両立に対する不安を感じ始める人が多いという結果が少し意外に感じました。どのように考えますか?
両立不安の中身として、男性は経済的な不安をあげる人が多かったのですが、「結婚したら家庭の大黒柱にならなければならない」という意識があり、そうした経済的な不安を結婚や子育てが始まる前から感じている人が多いのではないかと思います。実際に、子どものいる男性の36.7%が「男性は家族を養うため稼ぐべきだ」と回答しました。これは、男性が環境や周囲の振る舞いから無意識に抱えるマッチョイズム(伝統的な「男らしさ」の規範)の考え方が根本にあると感じています。
実は、性別役割分担意識の関する調査で、女性にも同じ質問を行なっていますが、回答は14.7%と男性の回答を大きく下回りました。
反対に、女性については「体力面」への不安が多く上がっています。仕事も子育てや家事も「自分が担わなければならない」という意識があるものと思います。こういった性別役割分担意識の払拭や、ジェンダーギャップ解消の取り組みが、今後の両立支援に必要になってくると感じています。
ーー両立に不安を抱える人のうち、「転職や退職」を検討もしくは経験したと答えた割合は男女ともに高い数値が示されましたが、特に子どもがいる男性が最も高かったです。どのような理由が考えられますか?
両立不安が原因で転職や退職を経験・検討する育児期の男性が多いことについては、調査前から想定していましたが、想定よりも高い割合だったと感じています。
男性の方が組織の中で柔軟な働き方が許されず、将来的に両立が望めないなら「転職や退職をするしかない」と考えていることがうかがえます。一方で、働き方が柔軟な会社も増えてきて、そのような会社を優秀な社員ほど選べるようになってきているという事も言えるかもしれません。
ーー企業が目指すべき姿として、「制約の有無にかかわらず管理職を目指せる組織」をあげています。「管理職を目指せる組織」とは具体的にどんな組織ですか?
管理職を目指したいか、目指したくないかは別として、「責任ある仕事」をその人の環境で判断するのではなく、個人の能力で任せられる組織を意味しています。まずは目指せる環境がなければ、管理職の希望自体を持つことができません。例えば時短であっても責任ある仕事ができ、経験を積み重ねられることが重要です。これがまさに、「活躍」支援と言って、社員のキャリアアップの為に背中を押す支援です。両立支援で働きやすさを整えながら、活躍支援を行っていくという両輪が重要なのです。
「活躍支援」とは、責任のある仕事を任せたり、経験付与を行う事だけではなく、管理職比率のKPIを作りポジティブアクションを行う事等を指します。
例えば、夜にミーティングがある組織なら、時短で働く人は出られません。こういった、制約の有無によってミーティングに入れないという状況を見直し、午後6時にはミーティングを終わらせるように働き方自体を変える必要があります。
ーー白書の中で、企業の支援は「両立への配慮はするがアシスタント業務や調整業務ばかりを任せる両立支援」か、「制約を考慮せず他の社員と同じ業務や負荷を与えるという活躍支援」のみ、の2つの対応に偏りがちだと指摘しています。こうした偏りが生じるのはなぜでしょうか?
両立不安白書2025特に女性に対して、両立支援は手厚い一方で責任ある仕事やチャレンジの機会が乏しく、男性に対しては育休復帰直後であっても配慮やサポートがないまま高い負荷の業務がそのまま課されるケースは少なくありません。
以前は女性が出産を機に仕事を辞めてしまったり、育休が取りにくかったりする状況がありました。その中で、育休を取りやすくしたり、時短制度の設定といった両立支援の充実から取り組む企業が多かった経緯があります。一方で、両立支援で働き方の柔軟性を確保した上で、責任のある仕事をさせたり、背中を押していく活躍支援ができている企業はあまり多くありません。活躍支援の場合は特に、一律に何か制度を入れたから解決するものではなく、個々にきめ細かく対応する必要があるからです。
例えば上司が部下一人一人のキャリアに対する意識を引き上げるには、プライベートも理解した上で、仕事についてフィードバックしたり期待を伝えたりする必要があります。
今回の調査では仕事で活躍したいと考える人材ほど、両立不安を抱えているという現状が明らかになりましたが、両立支援だけではなく活躍支援も両輪で進める必要があります。
ーー企業・組織主体でなく、両立不安を解消する上で対象者本人ができることはありますか?
育児期だけではなく、「ヘルプシーキング」(援助要請行動)の力をつけることが必要です。「周囲に迷惑をかけたくない」という気持ちから両立で悩む人は多いですが、「全てを1人でやらない」と意識を変え、周囲にうまく頼ることが重要です。
ヘルプシーキングの方法としては、自身が実現したいことやそれに向けていま頑張っていること、困っていること、相手に協力してほしいことを伝えます。例えば「子どもが乳幼児で病気などで急に休まなければならないこともあるが、責任ある仕事をしたい。そのために、チーム体制で仕事をすることを考えてもらえませんか?」などと具体的に提案すると、上司も受け止めやすくなります。