スマホで動画を見ているうちに、気づけば購入ボタンを押していた。そんな発見型の買い物が広がる中、日本でもTikTokのネットショッピング機能「TikTok Shop」が急速に存在感を高めている。
TikTok Shopとは、TikTokの中でそのまま買い物ができる機能のこと。日本では2025年6月30日にサービスが開始された。ユーザーが普段通り動画を視聴していると、興味関心に応じた商品紹介やライブ配信が流れる。気になった商品があれば、アプリを閉じたり外部サイトに移動したりすることなく、その場でシームレスに購入できる仕組みだ。
しかし、商品を出品すれば勝手に売れるほど市場は甘くない。多くの企業が勝ち筋を見いだせず、足踏みしているのが実情だ。
そうした中、外食大手の松屋フーズは、TikTok Shopを開設してからわずか1カ月で売上3800万円を達成した。従来のECとは異なる購買行動をどのように捉え、具体的な戦略に落とし込んだのか。EC運営担当の岩田幸恵さんに話を聞いた。
TikTokアカウントなし⇨市場に早期参入
松屋フーズは、コロナ禍での巣ごもり需要を追い風に、EC販売で年商50億円超の実績を持つ。この成長を支えてきたのが、2024年11月に設立した合弁会社モールハック。食品ECに特化したコンサル企業Gastroduce Japanとともに、商品開発から販売戦略、商品出荷などを一気通貫で行う体制を確立し、松屋での実績をもとに運営代行事業を手掛けてきた。
2025年6月には、TikTok Shopに対応した戦略策定やLIVE運用サポートなど新たなサービスを開始。松屋フーズは10月に、公式TikTok Shopを立ち上げた。
ただ、新規参入した背景は、意外にも緻密な市場分析の結果ではない。協力会社から海外での成功事例を聞いたことをきっかけに、「まずは試してみよう」と前向きな姿勢で一歩を踏み出したという。
ECチームは当初、TikTokのアカウントすら運用していなかった。SNSの利用者は「これまでの顧客層とはやや異なるのでは」という見方があり、積極的に投資すべき対象とは見なされていなかったからだ。
それでも参入を決めたのは、購買に至るまでの“流れ”が従来のECとは大きく異なると感じたからだという。
「日本の大手ECモールが検索を起点としているのに対し、TikTok Shopは動画を通じて商品の魅力を直感的に伝えることができ、まだ顕在化していない購買意欲にも自然に働きかけられます。この購買動機が生まれるプロセスに、新しい可能性を感じました。また、集客から決済までが一つのプラットフォーム上で完結し、売上を可視化しやすい点も利用する後押しになりました」(岩田さん)
松屋のTikTokショップでのLIVEセールの様子1カ月で売上3800万円を達成できた理由
松屋フーズでは当初、認知の拡大を優先し、売上は後から伸びていくと見込んでいたが、サービス開始からわずか1ヶ月で1万2000セット、3800万円を売り上げる結果に。
この成果の背景には、立ち上げ当初から計画的に進めていたクリエイターを活用したマーケティングがある。
「商品の魅力を届けてくれるクリエイターを集めるため、クリエイターがフォロワーに向けて商品を直接紹介できる『オープンコラボレーション機能』を活用して募集を行いました。その結果、約100人のクリエイターにサンプルを提供し、投稿が広がりやすい環境を整えることができました」
この時重視したのは、フォロワー数の多いクリエイターに頼るのではなく、多くの動画を発信してもらい、商品がユーザーの目に触れる機会を増やすことだった。
「100人のうち1、2人は再生数が大きく伸びていて、その方々のフォーマットを自社アカウントでも参考にしたところ、かなり手応えがありました。TikTok Shopでは、成果の出た手法を一つひとつ検証し、着実に再現していくことが数字に直結することがわかりました」(岩田さん)
TikTok Shopの売れ筋は「お得感」より「動画映え」
TikTok Shopでの売れ筋は、既存のECとは大きく異なる。例えば、他のECでは「牛めし30食セット」が不動の人気商品となっている。一方、TikTok Shopでは牛めし・カレー・豚めしを組み合わせた「全部盛り30食」が売上の8〜9割を占めた。
松屋フーズは、この結果について、複数商品を比較やアレンジしやすく、動画コンテンツとして視覚的に“映える”商品が支持を集めたためだと分析している。
「一方で、意外な苦戦を強いられたのが福袋企画でした。新商品を含む7種類が入った福袋は、視覚的な楽しさや選ぶ面白さがあるため、TikTok Shopと親和性が高いと考えていました。
しかし、実際には伸び悩みましたね。単なるお得感だけでは不十分で、動画として成立するか、視聴者の興味を一瞬で惹きつけられるかというエンタメ性が成否を分けるポイントなのだと痛感しました」(岩田さん)
大手以外にも勝機。下着ブランドが月400個のバズり
TikTok Shopは、必ずしも資本力のある大企業だけの市場ではない。下着ブランド「チャーメイクボディ」では、商品開発を担いながら社内インフルエンサーとしても活動する「こじみく」こと執行役員の小島未紅さんが「ブラ職人」として発信を続け、月に約400個の販売を実現した。
開始当初はブランドの認知度がほとんどなく、下着に関する豆知識を投稿しても購買には結びつかない状態が続いていた。
転機となったのは、発信の軸を商品紹介から開発者の思いを伝える内容に見直したこと。商品のこだわりや他社との違い、開発時の苦労を丁寧に語るスタイルに改め、悩みを抱える人に寄り添う姿勢を徹底した。その結果、1本の動画が約200万回再生を記録し、認知と売上はいずれも大きく伸びることとなった。
「ブラ職人」として発信を重ねて、月約400個の売り上げに貢献したこじみくさんTikTok Shopの“成功の鍵”とは?
書籍『事業者の販路を拡大し、クリエイターの収益を最大化する TikTok Shop大全』の著者で、TikTok公認パートナー・株式会社TORIHADAのCEOを務める若井映亮さんは、今後の市場展望についてこう解説する。
書籍「事業者の販路を拡大し、クリエイターの収益を最大化する TikTok Shop大全」/著者の若井映亮さん「現在、TikTok Shopは月次の流通額が約50億円規模に達しており、前月比40〜170%という驚異的なペースで拡大を続けています。この成長速度を維持すれば、来年には月次500億円から1000億円という巨大な市場に化ける可能性も十分に考えられます」(若井さん)
しかし、海外企業の参入も加速。日本企業にとっては早期に取り組まなければ手痛い機会損失を招くリスクもあるという。今後はプラットフォーム内での購買完結を促す流れが強まり、日本人向けのコンテンツ品質の向上や外部サイトへの誘導規制が進むと見られている。
「デジタルコンテンツや中古品など、販売可能な商材の幅がさらに広がることが予想されます。これにより、これまでTikTokとは相性が良くないと考えられていた企業にも、新たな参入の余地が生まれるでしょう。市場が爆発的に拡大している今この瞬間こそ、継続的に挑戦して知見を蓄積することが、将来の圧倒的な競争優位を築く鍵となります」(若井さん)
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