Fly You to the Moon Tour
2026.5.23 代官山UNIT
「こんばんは。ほんの一歩ずつ前に詰めてもらえるとうれしいです。きついかもしれないけど、入れない人がいるそうなので。ありがとう」
オンステージして、まず言ったその言葉がこの日、いかに多くのファンが“人のきっかけ”になることをテーマに歌いつづけている24歳のシンガーソングライター、映秀。のライブを心待ちにしていたかを物語っていた。
1月7日に配信したシングルのタイトルを掲げ、大阪、名古屋と回ってきた『Fly You to the Moon Tour』のファイナルとなる5月23日(土)の東京・代官山UNIT公演。スタンディングのフロアを埋めた観客が見守る中、ライブはアコースティックギターの弾き語りによる表題曲からスタート。1番は間をたっぷり取って、バラード風に歌い上げ、観客の気持ちをぐっと掴むと、2番からアコギをミュートカッティングしながらテンポアップして、観客をぐいっとさらに歌の世界に誘いこむ。そこからもう2曲、「youme」「第弐ボタン」を弾き語りで披露していく。歌詞に込めた後悔や未練が胸を締めつける前者から一転、コードをかき鳴らした後者ではファルセットとともに伸びやかな歌声に艶やかさが加わり、歌いながら映秀。の顔に笑みがこぼれた。
それまで固唾を呑んで見守っていた観客が拍手を送る中、バンドメンバーがオンステージ。この日、映秀。をバックアップしたのは、これまで数々のステージを共にしてきた杉村謙心(Gt)、山本修也(Ba)、山近拓音(Dr)、榎本響(Key)の4人。「月まで行ける準備はできてますか!?」と声を上げた映秀。は、バンドとともに「涙のキセキ」になだれこむと、「ほどほどにぎゅっとして」「ハ茶メ茶オ茶メ」とファンキーなポップソングをテンポよく繋げていった。
「ツアーファイナル! 想像の何倍も人が入ってる! うれしいです!(映秀。のライブが)初めてって人? うわ、めっちゃいる!」
曲間のMCでは、多くの人がライブに足を運んでくれたことに対する感激と感謝を伝えることも忘れない。そして、「今日はがんばっていることに気づかないほどがんばっているあなたたちを、寄り道しながら、月に連れていこうと思って、歌おうと思います! 一緒に月に行ってもらえますか!?」とこの日のライブの意気込みを改めて語ると、「My Friend」からのブロックはファンクをバックボーンとしながら、そこにプラスαの魅力を加えたポップソングの数々を楽しませ、フロアを揺らしていく。
観客にハンドクラップを求めたその「My Friend」は、友達に歌いかける歌詞の内容も含め、映秀。流のゴスペルなんて言えそうだ。歌謡ファンクなんて言ってみたい「誰より何でしょ 人より事よ」では、あうんの呼吸で応えた観客のシンガロングが、この曲がライブの人気曲であることを印象づける。「生命の証明」はボーカルのスタッカートに合わせ、バンドがユニゾンでリズムを刻むアレンジも聴きどころ。そして、ファンキーな演奏に合わせ、早口のラップを披露した「全部しようぜ」では、ドラムの四つ打ちに合わせ、観客が手を振りながら上下に揺れる。
1日の流れの中で感じるさまざまな気持ちを表現しているように思えた映秀。の独白とSEで曲間を繋げながら、どんどん色濃いものになっていく歌の世界。それをさらに色濃く染め上げたのが、「雨時雨」「残響」「音ノ葉」というバラードだった。その3曲が観客の気持ちを鷲掴みにしたのは、「全部しようぜ」までのポップな空気を一変させたメランコリックな曲調に加え、フィードバックも交えながら、バンドが鳴らした轟音のシューゲイザーサウンドのインパクトも大きかったはず。中でも《君の中に僕はいますか》と真摯に問いかけながら、歌いつづける意思を歌いあげる「音ノ葉」はエレキギターをかき鳴らす映秀。を含め、5人の演奏が白熱しながら、観客を圧倒する。
そこからさらに一転するようにグルーヴィーなポップソングの「東京散歩」に繋げ、間奏のメンバーによるフレーズリレーでも観客を沸かせながらなだれこんだ後半戦。ジャズファンクな「脱せ」、ファルセットの美しさを印象づけたソウルフルなバラード「砂時計」、タオル回しとシンガロングで観客が一つになった映秀。流のディスコナンバー「星の国から」、そしてエモいポップソングをポストロックサウンドに落としこんだ「忘れ物」と感情のアップダウンとともに曲の振り幅を見せつけながら、クライマックスに向け、気持ちを高めていった。
そして、「3か所しか回ってないけど、ツアーが終わるのがめっちゃ寂しい。終えたくない!」と名残惜しそうに言いながら、「あと2曲です!」と跳ねるリズムがモータウンっぽいポップソングの「よるおきてあさねむる」、そしてメンバー全員でシンガロングしながら、アンセミックなロックナンバー「失敗は間違いじゃない」に繋げると、オプティミスティックにフロアを盛り上げ、本編を締めくくる。
「あれ、あの曲やってないじゃんって心の声聞こえてます」と言いながら、まず「寄り道」を披露したアンコール。その「寄り道」はオールディーズな魅力もあるロックンロールなのだが、そのリズムからの連想なのか、映秀。の振りもどこか往年のスイムっぽい。そこからさらに今年2月にフルマラソンを走ったとき、沿道から掛けられた「がんばれ」という声援が、がんばれって言われると、すでにがんばってるんだけどといつもだったら思ってしまうこの自分にも染みたという体験を基に「無償の愛に、いい意味でヤラられた。お返ししないといけない」と思いながら作ったタイトル未定の新曲も披露。パワーポップなロックンロールだ。
そして、観客の拍手喝采の中、この1年間の集大成であるこの日のライブがソールドアウトしたことを「本当にうれしいです!」と感極まりながら、映秀。は語ったが、もちろん、ここがゴールじゃない。すでに新たな目標に向け、動き出していることをアピールするように「ライブが決まりました!」と8月1日、渋谷のSpotify O-WESTでワンマンライブを開催することを発表する。「音楽したくない? 足りなくない? まだちょっと先だけど、また一緒に音楽できたらうれしいです!」。嬉しそうに語る映秀。は今、ライブが本当に楽しいようだ。
「永遠じゃないからこそ、この瞬間をちゃんと大事にしながら生きていけたらと思います。生きていこう!」。この1年間の集大成と位置づけたツアーのエンディングを飾ったのは、今回のツアーの表題曲のバンドバージョンだった。「君の声を聞かせてくれますか?」と“オーオー・オーオー”のコール&レスポンスからシンガロングに観客を導くと、「みんな、そのまま歌い続けて」と映秀。は最後、観客のシンガロングに自分の歌声を重ねたのだった。
「君の声を聞かせてくれますか?」と“オーオー・オーオー”のコール&レスポンスからシンガロングに観客を導くと、「みんな、そのまま歌い続けて」と映秀。は最後、観客のシンガロングに自分の歌声を重ねたのだった。
「Fly You to the Moon」を歌い始める前に映秀。は再び「一緒に月に行ってくれますか?」と観客に問いかけた。自分もみんなと同じように思い悩みながら、日々、生きている。そんな僕らには何でもできる無限の可能性がある。「月に行こう」という言葉は、その無限の可能性を象徴するものなのだと想像しながら、最後、映秀。の歌を聴いた。
取材・文=山口智男 撮影=Kazma Kobayashi