菊池モアナさん(左)と、活動のきっかけになったアナさん(右)「あなたはどうして海外へ?」
世界100の国・地域で生きる100人の日本人にインタビューした『世界へ飛び出た100人の日本人』(おかけいじゅん著/集英社インターナショナル)。
さまざまな思いをもって海外で生きる6人の女性のインタビューを、同著から一部抜粋、再構成してお届けします。
vol.1 社会起業家 菊池モアナさん(1995年生まれ、2021年にタンザニアに居住)
すべてのきっかけは、16歳のシングルマザー
━━タンザニアとの出会いを教えてください。
大学3年生のときに休学して訪れたのが最初の出会いです。
「トビタテ!留学JAPAN」という奨学金制度を活用して、アフリカの子どもの退学率の高さについて調査するためにタンザニアに行きました。現地に5カ月間滞在し、退学した子どもたちの生活や家族との関係などの聞き取り調査をしました。
━━調査の結果はいかがでしたか?
若いシングルマザーたちの厳しい状況を知りました。印象的だったのが、学校ではトップの成績だったのに、妊娠して退学になり、自殺を図ったアナという女の子です。
彼女は当時16歳。両親もそばにおらず、子どもの父親に助けを求めるも、タンザニアでは学生(小中高)を妊娠させた男性は懲役30年の厳罰に処されるので逃げられ、その両親からも門前払いされてしまったんです。自分の居場所を失った彼女は自殺を図ってしまいました。一命をとりとめた彼女の話を聞くうち、一時的な支援しかできないことがとても悔しく感じるようになりました。
妊娠、出産、卒業、そしてタンザニア再訪
━━その後、どうタンザニアと関わっていったのでしょう?
まず、青年海外協力隊のボランティアをしながら、自分ができる国際協力の形を探していくつもりでした。
でも、日本帰国直前にタンザニアで出会った男性(後の夫)との子どもを妊娠していることがわかったんです。はじめは産むかどうかすごく悩みましたが、「子どもがいてもできる国際協力の形はある」と思い、最終的に日本で出産することを選択しました。
当時は結婚のことを考えられる状況ではなく、彼とは遠距離恋愛をしながら私は日本の大学に通い、子育てをしました。学業と育児の両立は大変でしたが、教授や友人など、さまざまな人のサポートのおかげで無事に大学を卒業できました。
━━そのときの経験が、その後の活動にもつながった?
まさしくそうですね。自分が親になり、なおさら「シングルマザーを助けたい」という思いが強くなりました。
同時に、彼女たちになにが必要なのかもっと知りたくなり、大学卒業後に もう一度タンザニアに調査しに行くことにしました。結果、8割の女の子は「仕事が欲しい」、2割は「学校に戻りたい」と希望していることがわかりました。
これを受けて、シングルマザーが安心して働ける場所をつくることが、どちらの実現にも必要だと感じ、そのための方法を考えはじめました。
生理用ナプキンの会社を起業
ナプキンの製造現場の様子━━タンザニアへの移住を決意した理由はなんでしょうか?
現地での会社立ち上げですね。2回目の調査後、ボーダレス・ジャパンという、ソーシャルビジネスを通じて社会問題を解決する会社に入りました。
そこでは、当時45社ほどグループ会社があり、その社長全員が承認すれば、資金提供を受けて新規事業を興せる仕組みがあったんです。それを活用し、入社1年後に生理用ナプキンをつくる会社をタンザニアに立ち上げました。このタイミングで、パートナーとも結婚しました。
━━生理用ナプキンを事業に選んだ理由はなんですか?
タンザニア中で必要とされるモノだからです。
若年妊娠はタンザニアの各地で発生していて、全国で3〜4人に1人の10代の女の子が妊娠している状況です。各地で女の子たちをサポートするためには、全国的に必要とされるモノやサービスを選ぶ必要があると思い、生理用ナプキンにたどり着きました。
━━現在の会社の状況を教えてください。
自社工場で生理用のナプキンを製造し、販売しています。最初の調査で知り合ったアナをはじめにシングルマザーの方々に働いてもらっていて、1日に2000枚ほど製造しています。
そして、性教育も行なっています。そもそもタンザニアではナプキンを使う女性が少なく、代わりに布を使うのですが、不衛生な取り扱いが原因で尿路感染症になることが多いんです。私たちは現地の小中学校を訪れ、ナプキンの使い方や避妊に関 するレクチャー、ナプキンの寄付なども行なっています。
━━販売だけでなく、性教育の活動もされているんですね!
これには二つ理由があります。
一つはそもそもタンザニアにはナプキンを使わない女性が多いこと。「化学繊維は体に悪そう」という印象があったり、質の悪いナプキンが肌に合わなかったり、そもそもナプキンが高くて買えなかったり。そのため、売り上げの一部を使って良質なナプキンの寄付をしながら、性教育を行なっています。
━━もう一つの理由はなんですか?
うちで働くシングルマザーの自尊心向上のためです。
タンザニアの若いシングルマザーは周囲から「恥さらし」などのレッテルを貼られ、自尊心が傷つきます。そんな彼女たちが前向きに自分の夢に向かって歩むためには、仕事で収入を得るだけでなく、「自分の経験が誰かの役に立つ」という実感が必要です。そこで、性教育の場では彼女たちを教える立場にしています。
自分のために、他人を助ける
シングルマザーによる性教育の様子━━タンザニアで実感した日本との文化の違いはありますか?
タンザニアには「カリブ精神」という、いわゆるおもてなし精神があります。旅行者に対して、ごはんでもてなしたり、どこかに連れていったり、とにかくホスピタリティにあふれた振る舞いをするので、日本の旅行者はみんなタンザニアが大好きになることが多いです。
でも、実際に住むうちにタンザニア人にも意外とギブ&テイクの感覚があると知り、驚きました。
━━それはどのようなときに感じるのでしょう?
お葬式や結婚式などですね。こちらの冠婚葬祭は、すごく遠い親戚まで、多くの人が参加します。その際に参列者はお金を渡すんですが、主催側は「誰がいくら払ってくれたか」をメモしておきます。これは「あの人はいくら払ってくれたから、困ったら返してあげよう」ということですね。
逆に言えば、「くれなかったら、あげない」ということ。お金を渡しておかないと、自分が助けてもらえないというシビアな面もあるんです。
━━良くも悪くも相互扶助の社会ということですね。
まさにそうです。日本なら自分の稼ぎだけで生きていくこともできますが、こちらはそうではない。その日暮らしで必死に生きている人も多く、貯金があっても急なトラブルでなくなってしまうこともあります。
なので、自分が困ったときに助けてもらえるように、他の人を助けておく。ある種の依存関係が大切です。私もいまではある程度それに合わせて生活するようにしていますが、どこまでやるべきか、線引きは難しいですね。
子育てしやすい社会
━━タンザニア生活で印象的なことはありますか?
子育てがしやすいですね。日本での子育ては、リフレッシュする時間を取れなかったり、育児サービスを利用しようにも価格が高かったり、苦労が多かったです。
一方、タンザニアでは、「子どもは地域で育てる」感覚が強いので、知り合いのおじちゃんや遠い親戚も育児を手伝ってくれることが多く、気軽に子どもを預けられます。これはとてもありがたいですね。
あと、タンザニアは妊婦や子ども連れの人、高齢者を敬う文化がすごく強いです。日本の電車ではスマホを見たりして自分の世界に入る人が多く、周囲に注意を払わないですよね。
でも、タンザニアでは電車に妊婦がいたら、絶対に席を譲ってもらえる。シングルマザーへの風当たりが強い半面、他者への思いやりについて学ぶこともたくさんあります。
外国語学習は世界を広げる
━━今後のご活動について教えてください。
タンザニアの各地にうちの工場をつくるのが一つの目標です。シングルマザーは妊娠したことを祝福されないケースがほとんど。それはすごく苦しいし、悲しい。みんなが彼女たちに「おめでとう!」と言える場所、妊娠しても働いて自分の夢を追い続けられる環境を増やしたいです。
━━日本で生きづらさを感じる人にアドバイスはありますか?
「英語が話せるようになると視野が広がる」と伝えたいです。
私はもともとまったく英語ができなかったのですが、大学時代にイギリスに留学し、いろんな国の人とコミュニケーションが取れるようになり、世界中の文化や考え方を知ることができました。
以降、日本という国をより相対的に見られるようにもなり、いまの自分の活動にもつながっています。もしいまの環境が合わなかったり、苦しかったりしたら、一つの手段として英語を学ぶこと、視野を広げることはおすすめしたいですね。
(文/おか けいじゅん 写真提供/菊池モアナさん)
『世界へ飛び出た100人の日本人』(集英社インターナショナル)
世界で生きる日本人100名にインタビュー。北欧の建築家、インドの映画監督、小泉八雲の子孫、メキシコでバズった無職、パリのタトゥーアーティスト、ガーナのからあげ屋さん、ゴミを拾うウルトラマン、日本文学を広める編集者、カリブのDJ、内戦下の日本語教師、東南アジアで売れたお笑い芸人、東欧の空手家、牛糞アートの伝道者……百人百様の海外生活のリアルを収録。
学校への寄付や教育活動の様子

