indigo la Endに新たな変化の季節がやってきた。結成15周年イヤーを経て、長年所属したワーナーミュージック→ソニー・ミュージックレーベルズ内に新設した「Daphnis records」への移籍。新レーベルからの第一弾、通算9作目のフルアルバム『満ちた紫』は、「シンプル」を合言葉に作り上げた、バンドの新たな原点と言える作品だ。リリース前にすでにツアーも始まっている。決して止まらずに進み続けるバンドの現在位置について、4人の言葉を聞いてみよう。
ーーまずは総論から行きましょう。新レーベル第一弾アルバムが出来上がった感触、手応えについて。
佐藤栄太郎(Dr):ミックスが終わって、リスナーのように客観的に聴いてみた感想として、「肩の力が抜けてるな」と。今までは、こわばりがあったと思うんです。それがなくなって、こわばりのないアンサンブル、こわばりのない風通しの良さ、柔らかさをすごく感じています。僕がバンドに入って10年、11年経って、ここに来てこの風通しの良さっていうのが、すごくいい歴史だなと思いました。
――その、こわばりって、何だったんでしょう。今振り返ると。
佐藤:個人的には、若かったとも言えるんですけど、いろんなことに期待をして、「世界はこうあるべき」みたいなのを期待してたんですが、よく言われる話で、自分以外のものに期待したって、いいことはないんですよね。そういう時期があってもいいと思うんですが、もう過去のことですし、過去の作品たちもすごく良かったんですけど、今ここで、また別もの風通しの良さ、柔らかさ、こわばりのなさみたいなのが実現できて、良かったなと思います。
――音作りというか、メンタルも含めた話ですね。
佐藤:やっぱり、人間たちがやるものなので。その気持ちだったり、ライフスタイルみたいなのも、少なからず反映されてると思うんで。それがバンドというか、人間がやる良さでもありますし。
後鳥亮介(B):いつも作ってからリリースされるまで、割りとスパンが短いんですけど、今回はその期間がちょっと長くて。先にライブでやったりもしているんですけど、それでも飽きずに、だんだん好きになってくるので。シンプルさも含めて、いい落としどころになったんじゃないか、いいアルバムじゃないかなと思えるものになりました。
――今までと、何が違いますか。
後鳥:さっき、こわばりって言ってましたけど、肩の力を抜いて作った印象は確かにあるので。みんなで、初心に返るじゃないですけど、そういう気持ちは僕個人にはありました。
長田カーティス(G):リリース前なんですけど、ツアーが始まっているっていう、ちょっと不思議な感じではあるんですけど。当然、知らない曲を皆さんの前で何曲も演奏したわけなんですけど、すごく受け入れてくれる感じがして、ニコニコしながら聴いてくれる子とかがいて。だから音源をリリースしたら、いろんな人に受け入れてもらえるような作品なんじゃないかなって思います。
――初見で、パッと受け止められるっていいですよね。感覚で。
長田:曲がシンプルなものが多かった、っていうのもあるかもしれないですけど、でも本当、ライブやってなおのこと、こうやって受け入れてくれるんだなって感じがすごいしたんで。早く聴いてほしいです。
――そもそも、リリースの前にツアーをやるって、何か意味があったんですか。
川谷絵音(Vo&G):いや、ないです。アルバムが遅れただけです(笑)。
indigo la End 『カグラ』Music Video
――なるほど(笑)。それでも前作から1年半ぶりぐらいだし、全然遅くないですよね。絵音さん、どんなアルバムですか。
川谷:さっき、栄太郎が言ったみたいに、ちょっと手放したものがあるというか。期待というか、他人からの評価みたいなものが、どうしても今までは入ってしまってたというか、「評価されたい」という欲みたいな、無駄なものが入ってたというか、それを手放せたアルバムなのかなっていうふうに思いますね。
――はい。なるほど。
川谷:それが全然ないわけでは、もちろんないんですけど、いい具合になったというか、なんか自由になれたなって感じはしますね。
――それは、何かきっかけがあったんですか。
川谷:ワーナーを辞めることになって、転換点という感じはあったかもしれないです。
――そこ、改めて聞いていいですか。移籍の心境について。
川谷:ワーナーに11年いて、15周年もあったんで、節目というか、「今までお世話になりました」っていう感じです。
――何が一番、変わりました?
川谷:ワーナーは何でも自由にやれた部分はあるんですけど、一人の人がいろんなことをやるみたいな感じだから、限界はあって。でもソニーは分業制で、SNSでファン層とかを分析するチームがいるとか、そういう違いはありますね。
――性格が違うんですね、会社の。そこで、移籍して、自分たちのバンドの価値を見直すってこともあったわけですよね。
川谷:価値を見直すっていうよりは、タイミングが合ったって感じですかね。このアルバムを作ってる時に、なんとなくの周期が来たというか。
――曲は、前作からの1年半で書き溜めたものですか。
川谷:そうですね。
――最初はどのへんから?
川谷:最初は「夏目」っていう曲からですね。この時はまだ、ワーナーを辞めて、ソニーに入ることも決まってない時なんで。自主制作的な感じで、自分たちでスタジオ取ってレコーディングしてた時期なんで、より自由な時に作り始めたっていう感じです。だから、割とシンプルなものを作ってみようみたいな。
――なるほど、そういうきっかけが。それから移籍が決まって、スピードアップしていくっていう。
川谷:そうですね。アルバムの発売日が決まったんで、そこに向けて作っていった感じです。
――アルバムの核になる曲ってありますか。これができたから、アルバムの全体像が見えてきたみたいな。
川谷:「夏目」ができた時に、核になるかもなって思いました。「夏目」と、「できやしない」という曲が、シンプルさという意味ではすごくシンプルなんで、こういう淡々としたシンプルな曲が作れたっていうことで、イメージが広がったというか。
――「夏目」、どうですか。ギタリスト的には。
長田:ギター的には、ほんと、まじシンプルって感じですね。個人的に、青春感を出したいなっていうのがすごくあって、「18歳の長田少年がアレンジするならこういう感じだろうな」っていうイメージで作ってるんですよ。その感じが出せたので、良かったかなって思ってます。
――長田さんって、右チャンネルのギターですよね。アルペジオっぽいフレーズが多い。
長田:そうです。
――キラキラしてますよね。それこそ、昔のスピッツとか思い出すような。
長田:はいはい。まさに、あの時代とかのイメージです。
――そしてもう1曲、基準になったのが「できやしない」ですか。
川谷:これもほんとにシンプルで、コードが5個しかなくて、そのコードだけで回してるっていう、これができた時に「こういうのでいいんだな」って思った曲だったんで。「夏目」よりもよりシンプルで、気負ってない感じというか。イントロもめちゃくちゃ長いし、特に聴き方を強制しない曲というか。
後鳥:「できやしない」は、方向性はほぼ「夏目」と一緒で、「シンプルに」というのがあったんで。展開を多少変えて作っていくことは必要なんですけど、やりすぎないアレンジにしたいなと思って、だからパターン的にもあんまり変わってないような感じになってて、かつシンプルでいい感じで、いい曲だなと思います。
――ドラマー的に、お気に入り曲は?
佐藤:ドラマー的には、全部いい感じなんですけど、ミックスされたものを聴いて、ヤバイと思ったのは「陽炎」ですね。セクシーだし、妖艶さもあるし、静かな炎というか、まだ噴火してないマグマみたいな感じもあるし、うだるような暑さの雰囲気もあるし、何より、ちょっと怖いですよね。淡々とした中に恐怖を感じるというか、僕はそういう曲が好きなんですけど、ただ単にホラーとかではなく、おどろおどろしいとかじゃなく、ちょっと何考えてるかわかんない怖さをすごく感じて、それ以降めちゃくちゃ聴いてますし、好きですね。
川谷:「陽炎」は、メロディからできた曲で、「いい曲にしないといけないな」みたいな感じだったんですけど。なんか、一筋縄ではいかない感じにしたくて、ラップパートがあったり、今までインディゴになかったものを、すごく美しくできたなっていう感じはします。
――この曲、ギターソロが素晴らしいんですよね。ワウをかけた、かっこいいソロ。長田さん、よく言われると思うんですけど、このバンドって、ギターソロが結構多いじゃないですか。
長田:多いと思います。みんな省いちゃう時代だから、やってないことをやろうかなって。どの曲だっけな、「なんか気持ち悪いから倍にして」って言われた曲があった気がするんだけど。
川谷:なんか言ったっけ。
長田:「陽炎」だった気がするな。やってみたら、尺が短く感じるから「倍弾いて」って言われた気がするんだよね。それで、伸ばした気がする。今ふと思い出した。
川谷:全然忘れたわ。でも、なんか言った気がする。
――きっと絵音さんに、全員の演奏のうまさを聴かせたいみたいな気持ちが、特にインディゴの場合はあるように思うんですね。
川谷:それはありますね。バンドサウンドを聴かせたい、というのは。自然とそうなる部分はもちろんあるし、シンプルな中でも、やっぱりバンドっていうことは意識してるって感じですかね。
――ギターソロと言えば、9曲目「ジグザグタカタカニー」の長いやつが、絶品だなぁと思います。これも淡々とシンプルで、ループっぽいリズムの繰り返しで、6分半もあるのに気持ちよく聴けちゃう曲。大好きです。
川谷:これはもう、やりたいリズムがあったんで、それを淡々とやるっていうふうにしてたんですけど。途中からやっぱり展開を変えたいなと思って、いろんな展開を作って、毎回同じサビが来るとか、そういうのじゃないものにしようかな、っていう感じがあったぐらいで、特にどうしようかなっていうこともなく、作っていくうちにできてたって感じです。この曲は、ほぼ最後に作ってるんで、最後のピースを埋める感じだったというか、「別にみんなが好きそうな曲にしなくてもいいや」っていう感じだったんで、ほんとに肩の力はかなり抜けてました。
――これ、歌詞も面白いんで必聴です。なぜか西表島に行きたがっているという。
川谷:なんかこういう歌詞も今までなかったんで、いいかなと思って。
――いろんな解釈ができそう。歌詞と言えば、今回、絵音さんのパーソナルな部分が出たものが多いと思ったんですね。特に4曲目「呪いはいつまで」。アーティストしての葛藤とか、表現者の本音とか、相当深くまで踏み込んだ歌詞な気がしていて。これって、どんなふうに作った曲ですか。
川谷:これはサウンドに呼ばれたというか、メロディも何も作ってなかったんで。いろんなパターンを考えて、やっていくうちに、こういう歌詞になっていたというか。アルバム全体が、割りと個人的な歌詞が多かったりしたんで、それでもいいのかな?っていう感じだったというか。そこまで深く考えたというよりは、その時に思ってたことを書いたっていう感じです。こういう曲を作ろう、とかではなくて。
indigo la End『ワールプール』Music Video
――曲順はどうですか。
川谷:結構悩みましたね。これで良かったのかな?っていうのも、ちょっとまだあるんですけど。1曲目と最後は決まってたんで、その間を埋める作業みたいな。それで、最後の「恋の底」に繋げるために、その前に「Flâner la nuit」っていうインストの曲を作ったり。それがあってから、割りとまとまったかなって感じはありました。
――「恋の底」がまた、メランコリックなバラードの、めちゃくちゃいい曲。最後の余韻がすごいです。
川谷:これはもう、アルバムの最後の曲を作ろうかなと思って、スローテンポというか、すごく難しいテンポではあるんですけど。アウトロで大団円っていうか、余韻を残して終わりたいと思って、こういうふうになったというか。これも、メロディとか特になかったんで。後から考えたって感じですね。
――このメロディは素晴らしい。そしてこの曲もまた、印象的なギターソロで終わる。
長田:そうなんです。でも、ソロのケツに、シンセだけ残してくれたエンジニアの高山徹さんの判断が、すごい良かったなと思いました。僕は、普通のフェードアウトのつもりだったんですけど、高山さんがうまいことやってくれて、アルバムが締まった感じがしました。
――あの終わり方じゃなかったんですか。
長田:当初の予定ではなかった。気づいたら、そうなってました。
――高山さん、グッジョブです。そして出来上がったアルバムに、『満ちた紫』というタイトルを付けた。なんで紫だったんですか。
川谷:なんか、赤と青のグラデーションというか。インディゴは青のイメージが多かったんで、アルバムの中では、真っ赤な曲とかも今まで作ってたんですけど、それがちょっと極端すぎたかなっていうか、青を消すために、赤い曲を作ってた節があったんで。それをうまく混ぜ合わせた曲が、今ならできるんじゃないかな?というので、アルバムを作りながら、だんだん「紫っぽいな」と思って、紫になったって感じです。
――赤って、つまり激しい曲というか、攻めた曲という感じですか。青はもっとクールで知的というか。
川谷:皆さんが抱いている、ザ・インディゴのイメージですね。
――それが混ざり合って。
川谷:そうです。アルバムが出来上がっていくにつれて、なんか紫が満ちていくというか、もうほんとにそのまんまなんですけど。アルバム出来た頃には満ちてるんだろうな、っていう期待も込めて、満ちていき、とかじゃなくて、『満ちた紫』にしました。
――実際、出来上がって、満ちたと思いますか。
川谷:どうなんですかね。ちょっと僕にはわかんないですけど、満ちてたらいいなって感じです。まだ、満ちてない気がしますけどね。ただ、このアルバムとしては別にいいと思います。まだまだ全然、先があるなっていう感じはしますね。
――赤と青があって、それを混ぜた紫という、色彩のバランスがあって。これからはそこを目指すということですかね。
川谷:目指すっていうよりは、そうなっていくのかなっていう感じです。なんか、もうちょっとやりたいことがあるから、来週からまた制作に入るんですけど。このアルバムはアルバムとして、すごくいいものになったなって思います。
――えっ。もう次回作の制作に入っている?
川谷:もう作んないと、間に合わないんですよ。ツアーの前にアルバムを出していくというタームで考えると、今からやんないと。しかも今回のツアーって、7か月で20本とかなんで、相当ゆるめなんですよ。3本しかない月もあって、かなりスロースケジュールなんで、全然合間があって、作る時間はあるかなっていう感じです。
――移籍を経て、また新しいエンジンに火がついちゃった感じですかね。
川谷:でも僕らは、ずっとそうだったよね? 毎年アルバムを出してたんで。今作で1年半とか空くのが、ちょっと長いぐらいの感じだったんで。
後鳥:ツアー中に次の制作は、もう慣れっこなんで。
川谷:あんまり分けてないよね、制作期間とツアーを。というか、分けられない。今回みたいに7か月も続けられると、分けられないんで、しょうがないって感じです。
――絵音さん、いくつもバンドやってますけど、インディゴの曲って、頭の中ではっきり分けてますか。
川谷:分けてます。なんか、ナチュラルに作るとインディゴになるんですよね。他のバンドのやつは、ちゃんと作ろうと思わないとできないんで。
indigo la End 『夏目』
――ナチュラルに作るとインディゴになる。それはこのバンドを、このアルバムをすごく的確に表している気がします。そして、新しいレーベルの「Daphnis records」。ここに込めた意味と、今後の活動について。
川谷:『ダフニスとクロエ』っていう演目があって、そこに、お互いに嫉妬し合うみたいなシーンがあって。これから、もしかしたら、いろんなアーティストが増えてくるかもしれないんで、お互いに、いい意味で嫉妬し合える関係みたいな、高め合っていくみたいなレーベルにしたい、って感じですかね。
――嫉妬ですか。
川谷:いい意味で。そして最終的に、ハッピーエンドになればいいなっていう感じです。
――嫉妬って、絵音さんの中にはあんまりない感情かなって思ってました。人と比べてどうとか、そういうことは考えないというか。
川谷:いや、でも、人と比べてたから、赤い曲を作ってたんだと思うんですよね。無理やり。それはもちろん、今も全然あるんですけど、それがもうちょっと健康的になったというか、「それはそれ、これはこれ」みたいに、一応考えられるようにはなったっていうか。
――その場合の「赤い曲」って、売れる曲、受ける曲っていう意味ですか。
川谷:それももちろんあるんですけど、そうじゃない部分もあるというか。何が何って言えないですけどね。基本的に、グラデーションなんで。
――青と赤のグラデーションが、これからどうなっていくか、楽しみです。ツアーはまだまだ続くので、最後にひとこと、皆さんへ、ライブへのお誘いの言葉をお願いします。
後鳥:はい。リリース前にライブをやってみて、それは本当に珍しかったんですけど、それによって助けられたというか、曲にもらったものが増えた気がしたので、せっかく長いツアーなので、ゆっくりやって、それを高めていけたらいいなと思うので、皆さんぜひ遊びに来てください。
――ライブで特に、やってて楽しい曲は?
後鳥:やっぱり「夏目」がめちゃくちゃ好きなんで。なんか泣きそうになります。
川谷:彼は、「夏目」以外はそんなに好きじゃないんです。
後鳥:そんなことはありません(笑)。確かに、最初に川谷くんに曲をもらった時に、「「夏目」めっちゃいいね」って言って、その後の曲は言わなかったけど、毎回言うのもおかしいじゃん? 毎回言ったら嘘っぽくなるし。でも言わないと、「夏目」だけしか好きって言わなかったのはなんで?ってなっちゃうし、だからもうあえて全部言わなかったの。
――どういう気の使い方(笑)。
後鳥:だから、全部楽しいです。ぜひ見に来てほしいです。
長田:今の段階だと、知らない曲がいっぱいあると思うんですけど、それをちゃんと受け取ってほしいなって感じですね。別に、曲を覚えようとか、歌詞を覚えようとか、そういうことじゃなくて、普通に音を楽しんでもらえれば、って感じです。
取材・文=宮本英夫
indigo la End