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名門の誉高いウクライナ国立歌劇場が来日中で、2023年1月15日(日)まで全国13都市でオペラ、バレエ、オーケストラ公演を行う。ロシアによるウクライナへの侵攻により開催が危ぶまれたが、主催・招聘元の光藍社によれば、劇場の意向と、日本の観客の熱心な声に後押しされ実現した。ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)初来日から50年、「CHINTAIクラシックスペシャル」の特別協賛により公演を行い10年という記念すべき年を飾る舞台となる。

この度はウクライナ国立バレエが『ドン・キホーテ』を、ウクライナ国立歌劇場(旧キエフ・オペラ)が『カルメン』を、ウクライナ国立歌劇場管弦楽団の公演では『第九』を演奏。また1月3日(火)に「新春オペラ・バレエ・ガラ」を上演する。バレエ団が52名、指揮者を含めたオーケストラが54名、オペラおよび合唱66名、その他9名、合計181名での来日。日本でのバレエ、オーケストラの出演者約15名を加えて、総勢約200名での大事業となる。

12月16日(金)神奈川県民ホール大ホール ホワイエにて記者会見が行われ、首席指揮者・音楽監督のミコラ・ジャジューラ、バレエ芸術監督の寺田宜弘、ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)のプリンシパルのオリガ・ゴリッツァ、同じくニキータ・スハルコフが登壇した。

ミコラ・ジャジューラ

ミコラ・ジャジューラ

ジャジューラは侵攻時ポーランドにいたというが、最近の3か月間はキーウにいて、『ファウスト』『椿姫』『雪の女王』の新制作にも携わった。「私たちがやっている仕事は、ウクライナ人にとってはとても大切で必要とされているという実感があります」と胸を張る。

寺田宜弘

寺田宜弘

寺田は侵攻直前にポルトガルへ向かい、翌日戦争が始まったことを知った。そして3月~5月にヨーロッパでキエフ国立バレエ学校の生徒らをサポート。その後、7月~8月は日本に戻り、世界各地に散らばったダンサーたちが日本に集まり開催した「キエフ・バレエ・ガラ 2022」に尽力した。「バレエ団は160名の団員がいて、キエフには95人のダンサーがいます。バレエという芸術を愛し、週に2回バレエ公演を続け、日本公演を何があっても成功させるとバレエ団一同団結しています。今回は素晴らしい公演となると思いますので、楽しんでください」と意気込む。

オリガ・ゴリッツァ

オリガ・ゴリッツァ

ゴリッツァは6か月間ドイツに避難したがキーウに戻った。「自分の国を愛していて、ウクライナにいなければいけないと思っていたからです。そして今はミサイル攻撃もありますが、劇場で仕事できることをうれしく思います。みんなにとって大切なことです」。

ニキータ・スハルコフ

ニキータ・スハルコフ

スハルコフは侵攻が始まって最初の1月はキーウにいたが、そののち世界各地を移動。「今はキーウにいますが、どんなに大変な状況でも仕事を続けることができるのは大切」と胸中を明かす。

ジャジューラによると、現在ウクライナ国立劇場には500人ほどのアーティストがいて、ミサイル攻撃におびえながらも日々練習しているという。「私たちはそこが最前線だと思って戦っています。皆の前向きな形が大切です」。

(左から)ミコラ・ジャジューラ、寺田宜弘、オリガ・ゴッツァ、ニキータ・スハルコフ

(左から)ミコラ・ジャジューラ、寺田宜弘、オリガ・ゴッツァ、ニキータ・スハルコフ

スハルコフは日本開催にあたり「私たちにとってとても大切な公演です。日本の観客がウクライナ国立歌劇場が好きで詳しいということはよく知っています。今回のツアーの練習は1か月前に始まりました。とてもよくできたと思っていますので、皆さんに観ていただきたい」と話す。

ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)『ドン・キホーテ』ゲネプロ 写真提供:光藍社

ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)『ドン・キホーテ』ゲネプロ 写真提供:光藍社

ゴリッツァは『ドン・キホーテ』の主役キトリを踊る。「『ドン・キホーテ』は明るくて前向きな演目です。全3幕それぞれに特徴があり、違う雰囲気を味わうことができます。日本の皆さんにウクライナ人の強さ、負けないという気持ちを伝えたい」。

ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)『ドン・キホーテ』ゲネプロ 写真提供:光藍社

ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)『ドン・キホーテ』ゲネプロ 写真提供:光藍社

寺田は12月6日にバレエ芸術監督に就任したばかり。「私が初めてキーウに来たのは1987年で1991年にソビエトが崩壊しました。キエフ国立バレエ学校の芸術監督になった時にはクリミア半島の問題が起こりました。ウクライナの歴史が変わる時に私の人生も変わっていく。なぜかいつもウクライナという素晴らしい国と生き続けています」と因縁を語る。そして「ウクライナで一番大きく素晴らしい劇場のバレエ芸術監督になった以上、芸術の力を借りて、より一層国際交流をして、素晴らしい時代を創り上げていくのが私の役目です」と力強く語る。実際にジョン・ノイマイヤー、ハンス・ファン・マーネンという巨匠振付家による新作を導入する。

ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)『ドン・キホーテ』ゲネプロ 写真提供:光藍社

ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)『ドン・キホーテ』ゲネプロ 写真提供:光藍社

ウクライナは数々の名ダンサーを輩出しているバレエ界の聖地的存在。寺田は「新しい10代、20代の素晴らしいダンサーもたくさんいます。今、劇場に残っているダンサーは95名。心から自分の文化と芸術を愛している団員です。今回の日本公演でパフォーマンスするすべての団員は、"ウクライナの芸術は生きている"ことを証明できると思います」と力強く語った。

取材・文・撮影=高橋森彦