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ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』の日本初演が、東京・日生劇場にて2023年2月7日(火)に開幕する。

本作は映画『迷子の警察音楽隊』(2007年)を原作にデヴィッド・ヤズベックが音楽・作詞を手掛けミュージカル化、2018年のトニー賞で10冠の快挙を遂げた話題作だ。劇中、演奏旅行先のイスラエルで迷子になったエジプトの警察音楽隊と、イスラエルの辺境の町で暮らす人々のたった一晩の心の交流が描かれる。ブロードウェイミュージカルらしい派手さはないものの、異国情緒漂う独特な音楽と繊細な芝居が味わえる異色の作品となっている。

日本版の演出は森新太郎、エジプトの音楽隊の隊長トゥフィーク役を風間杜夫、町の食堂の女主人ディナ役を濱田めぐみが務める。そこに新納慎也をはじめとする個性豊かな役者陣、警察音楽隊として出演する実力派ミュージシャンたちが加わり、これまでにない新しい作品が生まれようとしている。

初日まで1ヶ月を切るなか、都内にて報道陣向けに稽古場お披露目会が開催された。本番に向けて日々ブラッシュアップが続けられる創作の現場を、写真と共にお届けする。

この日は大きく2つのシーン、初披露曲含む4曲が披露された。まずは物語の始まりとなる第一場〜第二場のシーン。エジプトのアレクサンドリア警察音楽隊は、演奏旅行のためにイスラエルの空港に到着する。迎えのバスが来ないため自力で目的地へ向かうことにするのだが、本来行くべき場所と名前が酷似した全く違う辺境の町へと迷い込んでしまう。

ステージの盆が回り出すと、何もない町“ベト・ハティクヴァ”の住人が次々と現れる。彼らは退屈な町で何かが起こることをそれぞれ待っている。回転し続ける盆の上で「♪待ってる / Waiting」の心地よいゆったりとしたメロディに役者たちの深みのある歌声が重なり、稽古場は美しいハーモニーに包まれていく。

そんな辺境の町に足を踏み入れたアレクサンドリア警察音楽隊。彼らとベト・ハティクヴァの住人が出会うことで物語は展開する。警察音楽隊の一行は町の食堂に立ち寄り、隊長を務めるトゥフィーク(風間)が演奏会場のアラブ文化センターへの道を尋ねる。ところが食堂の女主人ディナ(濱田)は、この町にそんな場所はないとぶっきらぼうに返す。

両者のやり取りは片言の日本語で行われているのだが、どうやら日本語で話すシーンは二国間の共通言語の英語という設定らしい。ディナをはじめとするイスラエル人はヘブライ語を、トゥフィークらエジプト人はアラビア語を話す場面が時々登場する。共通の言語を使い、なるべく短いセンテンスで意思疎通を図ろうと互いに必死になる姿が微笑ましい。

ここでディナ、イツィク(矢崎広)、パピ(永田崇人)の3人によるコミカルなナンバー「♪何にもない町 / Welcome to Nowhere」が披露される。この町がいかに何もなく退屈なのか、3人が絶妙なコンビネーションで歌い踊る。歌詞も動きもいい意味でゆるくヌケ感があり、観ているこちらも力が抜けて思わずクスリとしてしまう。

行き先を間違えたことに苛立ちを隠せないトゥフィーク。そんな彼に「とりあえず何か食べませんか」と音楽隊の中でも一際目立つトランペット奏者・カーレド(新納)がなだめるように声をかけ、一行は再びディナの食堂へと向かうことになる。

一度セット転換の時間を挟み、本作の見せ場となる第七場のシーンが披露されることに。待ち時間の間、演出の森と濱田がスタッフ陣とリラックスしながら話す姿も見られた。

トゥフィークはディナに連れられ町のレストランへやってくる。「ねえ、アラビア語で何か言ってよ」「オーケストラでは何を演奏するの?」。二人でテーブルを囲みながらそんな他愛もない会話が繰り広げられる。しかし音楽の話題で思わぬ共通項を見つけた瞬間、ディナとトゥフィークの心の機微が僅かだが確かに感じ取れた。それをきっかけに、ディナは幼い頃ラジオで聴いたエジプトの音楽や、テレビで観たエジプトの映画をうっとりと思い返していく。

ここで披露されるのが、トニー賞のパフォーマンスでも話題となったディナのソロナンバー「♪オマー・シャリフ Omar Sharif」だ。トゥフィークに語りかけながらも、時に陶酔したように遠くを見つめながら歌うディナ。濱田の甘くしっとりとした歌声が響き渡り、束の間、稽古場にエジプトのジャスミンの風を漂わせる。

ディナとトゥフィークが会話を楽しんでいると、レストランにサミー(渡辺大輔)が妻子を連れて現れた。どうやらディナはサミーと関係があるらしい。彼女があえてサミーに声を掛けると、ヘブライ語混じりの言い争いへと発展する。それまでのロマンティックな雰囲気が一転、ピリピリとした空気が流れる。

そんな空気を打ち消すように、警察音楽隊による演奏「♪Haj-Butrus」が披露された。見たことのない楽器、聞き馴染みがない音色なのだが、胸に染み入り不思議と懐かしい気持ちにさせられる。実力派アーティストによる魅惑的な音楽が舞台上で演奏される点も、本作の大きな見どころのひとつだろう。

東京公演は日生劇場にて2023年2月7日(火)~2月23日(木祝)、大阪公演は梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて3月6日(月)〜8日(水)、愛知公演は刈谷市総合文化センター大ホールにて3月11日(土)~12日(日)に上演予定だ。
はたして劇場では一体どんな世界が広がるのか、日本初演の開幕を楽しみに待ちたい。

取材・文・撮影=松村 蘭(らんねえ)