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2006年に発表され、“30分の同じ物語を3回繰り返す”特異な構造で大きな話題を呼んだ、〈東京デスロック〉の『再生』。劇作と演出を手がけた多田淳之介は、当時社会問題となっていた「集団自殺」をモチーフに、大音量で流れる音楽に合わせて歌い踊る登場人物たちの身体を通して、現実には決して再生することのない【時間】と、今ここにある【生】を克明に浮かび上がらせた。リピートされる【生】と【死】の光景、彼らが生きた時間や時代を象徴する流行歌の数々の強烈な印象が、観る者の心に大きなインパクトや余韻を残す名作だ。

〈東京デスロック〉主宰で作・演出の多田淳之介

〈東京デスロック〉主宰で作・演出の多田淳之介

これまでにも何度か上演が重ねられてきたこの作品。昨年2022年に5年ぶりとなる再演三都市ツアーが始まり、各地域のオーディションで選出した出演者と共に2週間の滞在制作で創る《現地Ver.》《劇団Ver.》を同時上演する形で、7月上旬に北九州公演、同月下旬に三重公演を終えた。そして現在、ツアー最終地となる愛知の「長久手市文化の家」で滞在制作が進められており、まもなく2023年2月25日(土)・26日(日)に公演が行われる。

東京デスロック『再生』劇団+長久手バージョン チラシ表

東京デスロック『再生』劇団+長久手バージョン チラシ表

本作の成り立ちや詳細については、三重公演の紹介記事(2022年7月21日)で多田淳之介のインタビューを通して触れているが、出演者が生きてきた時代背景や個々の体験エピソードなどが、会話や音楽、舞台美術などに反映されるこの作品は、多田いわく「同じグラウンドで違うチームが試合してる、みたいな感じですね」と。フォーマットは同じでも各組で仕上がりが変わり、観劇する側もそれぞれ異なる印象を受けたり、共感する部分が違ったりする点が面白いところだ。

例えば、今ツアーの三重公演《三重Ver.》では、出演者が“全員女性”というシリーズ初の座組が誕生したが、《長久手Ver.》では、37名の応募者の中から選抜された10代~40代までの男女混合7名が出演。

「オーディションによる参加者で創っていく作品としては、今までで最年少の17歳の出演者がいます。一番歳上は41歳で、20代もいるし30代もいるので、結構いい感じで世代がバラけているなぁと。名古屋の人もいますし、長久手出身で東京在住の人もいる。「愛知にゆかりはないけどオーディションを受けにきました」という人もいます」と、多田。

『再生』長久手Ver.  稽古風景より

『再生』長久手Ver. 稽古風景より

劇中音楽も《現地Ver.》では毎回、それぞれの出演者が挙げた多数の候補曲の中から、個々の幼少期や学生時代などのエピソードを多田が聞き出しながら決めていくため大きく変化する。その楽曲選びも楽しい作業のようで、

「なんとなく世代的に近いところの曲が挙がってはくるんですけど、やっぱりちょこちょこ、17歳なのになんでこんな古い曲選ぶんだろう? とか、そういう面白さがあります。お母さんが聴いていた曲だったり、今回も17歳と41歳の出演者が同じ曲を出してきたりして面白いですよ」とも。

『再生』長久手Ver.  稽古風景より

『再生』長久手Ver. 稽古風景より

さらに前述の舞台美術も注目すべき点で、登場人物達(出演者)の人生で実際に使われてきた物が点在していたり、上演地ゆかりのグッズなどが登場。今回の《長久手Ver.》では、2005年に愛知で開催された「愛・地球博」の公式キャラクターであるモリゾー&キッコロのぬいぐるみや、「小牧・長久手の戦い」を行ない、今期の大河ドラマでも話題の徳川家康にまつわるアイテムなども登場するそうなので、観劇しながら愛知ゆかりの品々を探してみるのも。

『再生』長久手Ver.  稽古風景より

『再生』長久手Ver. 稽古風景より

一方《劇団Ver.》は、夏目慎也佐山和泉原田つむぎ松﨑義邦(以上、東京デスロック)、岡田智代波佐谷聡田中美希恵の同じ顔ぶれ、同じ劇中曲で、ひとつの完成形として三都市を巡っている。

「《劇団Ver.》は作品としては完成しているので基本的には同じですが、単純に時事ネタが変わったりはします。北九州公演と三重公演から半年経っているので、例えば、当時はBTSのメンバーが兵役に行く前だったけど、今は兵役に行っているとか。その辺りのセリフをちょっと調整したり。長久手公演にあたって横浜で少し思い出し稽古をしてきましたけど、みんな想像以上に覚えていて良かったです(笑)」

東京デスロック『再生』劇団Ver. 出演者。上段左から・夏目慎也、佐山和泉、原田つむぎ、松﨑義邦 下段左から・岡田智代、波佐谷聡、田中美希恵

東京デスロック『再生』劇団Ver. 出演者。上段左から・夏目慎也、佐山和泉、原田つむぎ、松﨑義邦 下段左から・岡田智代、波佐谷聡、田中美希恵

また、今回の再演ツアーを経て感じたことなどを多田に尋ねてみると、

「5年前は5年前で、生き辛さだったり息苦しさというのがその時代なりにあって。5年前と今ではちょっと状況は違いますが、今の方が保守的なものが多少変わりつつあるかな、という気がします。変えないようにしてる人達もまだまだいっぱいいますけど、若い人達や立場の弱い人達のことを考える世の中に少しずつはなっているかな、と。5年前は良くなる兆しがなかったというか、世の中にボジティブな要素が少なかったと思うんですが、希望が出てきた気はしています」と回答。

【死】に向かおうとする人々の躍動する身体を通して、彼らが手放そうとしている【生】の輝きや命の尊さに触れ、改めて人が【生きる】ことを考えさせてくれるこの作品。今回の公演を観て、現在の自分が何を感じるのかはもちろん、時を経てまたいつかこの作品に遭遇した際、その時の自分はどのような思いを抱くのか…そんな未来の機会にも想いを馳せながら、いま体感しておきたい作品だ。

東京デスロック『再生』劇団+長久手バージョン チラシ裏

東京デスロック『再生』劇団+長久手バージョン チラシ裏

取材・文=望月勝美