演出・白井晃、脚本・中島かずき(劇団☆新感線座付作家)、音楽・三宅純のタッグで2010年に初演、2014年に再演が行われた舞台『ジャンヌ・ダルク』。壮大でドラマティックな極上のエンターテインメント作品が、2023年11月、9年ぶりに再演することが決定した。 15世紀フランスにおいて人々を熱狂させ、イギリスとの100年戦争で多くの勝利を収めたのち異端として裁かれ処刑された英雄ジャンヌ・ダルクの生涯を描く本作。
今回主演を務めるのは、ドラマや映画で活躍する注目の若手女優・清原果耶。シャルル7世を舞台や映画、ドラマで幅広く活躍する小関裕太が演じることが発表された。様々な情報の解禁に先駆けて行われたビジュアル撮影の様子をレポートする。
撮影には、演出の白井晃と脚本の中島かずきも参加。様々な資料と照らし合わせて全体のイメージから細かな部分まで詰めていく。キャラクターの造形や歴史的背景をキャスト・クリエイター全員が共有しているのが印象的だった。
演出の白井(左)と清原(右)
また、撮影中のスタジオでは劇中音楽がBGMとして流れており、神聖な場面を連想させる厳かな音楽、進軍するジャンヌたちを想起させる勇猛な雰囲気の楽曲など、様々な音が作品の世界を伝えてくれる。
まず行われたのは、ジャンヌを務める清原の撮影。中島が「再演するなら清原果耶さんでと考えていた」というコメントを出していたが、その言葉に納得できる圧倒的な存在感と静かだが強い光を放つ瞳が印象的だ。 凛とした佇まいに、周りのスタッフからも「格好良いですね」という感嘆の声があがっていた。
目を閉じて手を合わせたり、神の声を聞くようにロザリオに手を触れたりと様々な表情とポーズを決める清原の姿からは凛々しさだけでなく無垢な乙女らしさも伝わってきて、非常に美しく神聖。当時の人々がジャンヌ・ダルクという少女の活躍に熱狂した理由がわかるような気がした。
カメラマンや白井はカットごとに「無垢なイメージで」「啓示を受けている感じで」と細かく指示を出し、妥協しないビジュアル作りを進めていく。どんな絵を作りたいかはもちろん、その背景にあるジャンヌの人物像、時代背景も話し、役作りを深めながら撮影を行なっていた。
続いては甲冑を身に付けて剣や旗を手に持った、誰もがイメージする“ジャンヌ・ダルク”のビジュアル撮影。スタッフ複数人で着付けていた甲冑は、上半身だけでなんと15kgもあるという。それに加えてしっかりとした作りの剣や旗を持つのだから立っているだけでも大変そうだが、清原は精悍な表情を崩さずにポーズを決める。撮影の合間にはスタッフとも談笑しながら、疲れを見せることなく撮影に挑んでいた。 そんな彼女をサポートすべく、スタッフが細やかに小道具の角度や位置を繊細に調整し、チームワークを発揮して美しく迫力あるビジュアルを生み出していた。
甲冑とともにジャンヌが身に纏うスカートは、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルが描いたシャルル7世の戴冠式の絵画を元に作成したものだという。彼女の信仰心と祖国への思いが感じられる一場面を再現したカットといえるだろう。歴史と照らし合わせながら作られた衣装、遠目からでも作り込みがわかる小道具から、カンパニーのこだわりと情熱が窺える。
さらに、その場で衣装に汚しを施し、戦いに身を投じてからのジャンヌを思わせるビジュアルも作っていく。剣を握りしめ、まっすぐにカメラを見据える清原の瞳はさらに強い意志を湛え、こちらが怯んでしまうほどの闘志を漲らせていた。 農家に生まれた素朴な少女が神の声を聞き、国を率いる英雄になっていく過程が見えるビジュアル撮影だった。
>(NEXT)シャルル7世を演じるのは小関裕太
次に行われたのは、シャルル7世を演じる小関裕太の撮影。こちらも撮影が始まる前に白井と小関がシャルルという人物について簡単なディスカッションを行っていた。白井の言葉に耳を傾け、時に笑顔で頷きながら、シャルルの“核”となる部分を探っている小関。また、小関から出た「シャルルの自信のなさ」「政治家」といったキーワードを白井も頷きながら聞き、歴史的背景やジャンヌへの思いを紐解いていく。
元々は権力から遠い場所にいたが、ジャンヌの活躍によってフランス王となったシャルル7世。イングランドの捕虜となったジャンヌを見殺しにした酷い王と言われることが多いが、百年戦争に終止符を打って復興に励んだり、ジャンヌの死後に名誉回復の裁判を行ったりと功績も大きい。見方によって様々な評価ができる人物だからこそ、撮影の時点でしっかりと意思疎通を図っていく。 また、ジャンヌとの関係性、王としてのあり方が時期によって変わるため、ビジュアルはどの時点でのシャルルなのかといった擦り合わせを行い、すでに撮影を終えたジャンヌのビジュアルと重なるような表情やポーズを次々に撮っていた。
小関は「ジャンヌを思っているような雰囲気で」「厳しい顔から柔和な顔まで作ってみよう」という声にもスムーズに答え、仕上がりを真剣に確認しながら微調整を行っていく。途中で王冠や毛皮、王笏を手にすると、思わず膝をつきたくなるような厳かさに。重厚で繊細な作りの小道具に、実際に触れている小関も「おお!」と感嘆の声を漏らし、じっと見入る一場面も。
また、「キャラクターから外れるかもしれないんですけど、一回喜怒哀楽を出してみてもいいですか?」と提案すると、若者らしい溌剌とした表情から王様らしい権威に満ちた表情まで、次々に雰囲気を変えていく。バリエーションを作りながら、自らもしっくりくるシャルル像を模索している様子。撮るたびによくなっていく表情に、撮影を見るスタッフからも称賛の声が上がっていた。
どちらの撮影においても、ビジュアルとしての格好良さに加え、史実や作品の世界が一目で伝わるよう、全員がイメージを共有してディスカッションしていることが見てとれた。限られた時間での撮影ということもあり現場は忙しないが、焦りは感じられず、各々がプロフェッショナルな仕事をしながらいい雰囲気で進んでいく。
初演、再演をベースにブラッシュアップした作品を作ろうという気概がびしびし伝わってきた。ここから稽古を行い、他のキャストや音楽、セットや照明が加わったら、どれだけの迫力と説得力を持つ作品が生まれるのか、非常にワクワクするビジュアル撮影の現場だった。
本作は2023年11月末より12月末、東京・大阪での公演が予定されている。また、8月7日(月)より主催先行がスタート。詳細は公式HPやTwitterをチェックしよう。
取材・文・撮影=吉田沙奈