「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24」(配給:東宝東和)の一環として、ロイヤル・バレエ『くるみ割り人形』が2024年2月16日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国公開される(2月22日(木)まで一週間限定)。『くるみ割り人形』はチャイコフスキーの名曲とともに贈る古典名作で、ロイヤル・バレエでは名ヴァージョンの誉れ高いピーター・ライト版を長年上演している。今シーズンは気鋭のプリンシパル(最高位ダンサー)であるアナ・ローズ・オサリヴァン&マルセリーノ・サンベ主演を上映(2023年12月12日上演作品)。この舞台では今季からソリストに昇格した中尾太亮(なかお・たいすけ)も大活躍している。好調の波にのっている中尾に、ロイヤル・バレエの『くるみ割り人形』の魅力や近況を語ってもらった。
■世界最高峰のカンパニーで切磋琢磨する日々
――中尾さんは、マンハイムバレエアカデミーに学び、2017年にローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップを得て、ロイヤル・バレエ・スクールで研修しました。ロイヤル・バレエには2018/2019シーズンに研修生として入り、2019年にアーティストに昇格・入団しました。ロイヤル・バレエを志望した理由とは?
中尾太亮(以下、中尾) 小さい頃、ロイヤル・バレエのような大きなバレエ団にどうすれば入れるのかわかりませんでしたが、留学先のドイツで海外のカンパニーはどういうものなのかを身近に知ることができました。ローザンヌに挑戦させてもらったとき、決選まで行くと希望するスクール、カンパニーを出せるので「どうせならばロイヤルにしよう!」と思って志望しました。
Anna Rose O’Sullivan and Marcelino Sambé of The Royal Ballet in The Nutcracker, The Royal Ballet © 2023 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
――入団して感じたカンパニーの雰囲気は?
中尾 アットホームだというのが第一印象でした。もちろん仕事には厳しいし、ダンサーのレベルも高いのですが。と同時に、裏方さんやマネジメントの方の数も多く、大きなオペラハウスなんだと感じました。
――ロイヤル・バレエは古典から現代作品までレパートリーも豊富で、団員も多国籍です。一早く多様性を体現してきたバレエ団だと思います。そこで日々踊っていて感じる喜びは何ですか?
中尾 先ほどもお話ししたように、周囲のダンサーのレベルが皆高いので、切磋琢磨できる人がたくさんいます。ライバルに恵まれていますし、皆すごくいい人たちでもあるんですよ。そういう日々研鑽しあえる関係性が「毎日がんばろう!」と思える糧になります。
――今季からソリスト昇格おめでとうございます。舞台への向き合い方に変化はありますか?
中尾 ソリストになると、ソロをかなり踊らせていただけるようになります。そこのプレッシャーはありますね。ソリストという肩書が重荷になっているわけではないのですが、勝手にアーティストの頃よりプレッシャーを感じています。
Leo Dixon as Hans Peter with Taisuke Nakao and Joshua Junker in the Russian Dance, The Nutcracker © ROH 2023 Photographed by Alice Pennefather
■映画館上映の舞台では二役を好演! 役作りにおける工夫とは
――毎シーズン上演される『くるみ割り人形』でハンス・ピーター/くるみ割り人形など、さまざまな役を踊っています。ロイヤル・バレエが誇るピーター・ライト版の魅力とは?
中尾 僕がロイヤル・バレエの作品を好きなのは、メインのキャラクターだけでなく周囲の人物にもストーリーがある点です。『くるみ割り人形』のパーティーの場面であれば、後ろで踊る人々も皆ちゃんと自分のストーリーをもって演技しています。そうすることによって作品の質が高まっていると感じます。それがピーター・ライト版の魅力であり、ロイヤル・バレエの魅力でもあると考えます。『くるみ割り人形』は公演数が多いのですが、それでもチケットはすぐに売れるくらいお客様に人気があります。何回も何回も踊ることになりますが、それでも音楽を聴くと心がウキウキします。楽しいバレエですね!
Mariko Sasaki in The Nutcracker © ROH. Photographed by Andrej Uspenski
――今回映画館で上映される『くるみ割り人形』の第1幕では兵士役で登場。人形劇の場面で銃を持ってステップを踏み、ジャンプし、回転するなど活躍します。役作りで心がけた点は?
中尾 人形の役なので、表情をあまり出さないようにしたり、口呼吸を少なくしたりしています。口を開けて大きく息をすると人間っぽくなってしまうので、なるべく開けないようにしています。それから動きを固くします。バレエでは基本的に柔らかく動きますが、人形を演じるときはロボットのような感じをイメージして、なるべく人間っぽさを消します。
――ヴィヴァンデールを踊るソリストの佐々木万璃子さんとシンクロして踊る場面もあります。息が合わないといけませんね。
中尾 そうですね。パ・ド・ドゥではないので触れたりはしませんが、バラバラだと悪目立ちするので、そこはお互いを信頼することが大事です。
Madison Bailey and Leo Dixon of The Royal Ballet in The Nutcracker, The Royal Ballet © 2023 ROH.
――さらに今回、第2幕でロシアの踊りを披露していますね。こちらでは切れよくダイナミックなジャンプが見どころです。どのように工夫していますか?
中尾 ロシアの踊りにはスクワット系のジャンプがあり、最後の方にはコサックダンスみたいな感じの踊りもあります。普段バレエのレッスンでは練習しないので、入団1年目に初めてやったときは緊張しました。でも、慣れてしまうと体に染みつくんですね。今ではほぼ無心でできるようになって周りもよく見えるし、お客様を楽しませようとがんばっています。
――ピーター・ライト版『くるみ割り人形』は「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」において、例年新たに収録され映画館で上映されています。日本に居ながらロイヤル・バレエの現在をほぼリアルタイムで定点観測できる好機でもあり人気を博しています。日本の観客の皆様に向けて一言メッセージをお願いします。
中尾 毎年違うキャストなので、そこを楽しんでください。そして主役だけでなく、周りの登場人物についてぜひご覧いただきたいですね。ご自身が舞台の一員になっているかのように楽しんでいただければ。周りにもストーリーがあるので楽しいんですよ。そこにも注目していただけたら、普段とは違うおもしろさを発見できると思います。
Sophie Allnatt of The Royal Ballet in The Nutcracker, The Royal Ballet © 2023 ROH.
■今後のさらなる飛躍に向けて
――2024年4月5日(金)より公開される『マノン』(振付:ケネス・マクミラン)ではベガチーフ(乞食の首領)を踊られます。収録舞台を終えたばかりですが、いかがでしたか?
中尾 ベガチーフは今回が初役で、収録された公演は3回目でした。この役はステップに独特な振りが多く、とても難しいんです。でも、ベガチーフとして生きてステージ上を動くことができました。映像収録も入るので緊張もありましたが、楽しくできました。
Anna Rose O’Sullivan and Marcelino Sambé of The Royal Ballet in The Nutcracker, The Royal Ballet © 2023 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
――今シーズンまだまだ舞台は続きます。今後の目標を教えてください。
中尾 一番の目標は怪我をしないことです。怪我をせずしっかりと踊り切ることに気を付けています。あと個人的には、自分の踊りがもっとダイナミックになるようにしていきたいです。
――最後に舞台を離れた話題をお聞きします。休日や短い休暇の過ごし方は?
中尾 オフのときは友達と飲んだり、一緒にご飯を作って食べたりしています。たとえば(プリンシパルで先輩の)平野亮一さんと仲よくさせていただいています。この間も亮一さんとアイルランドに行って、ギネスの黒ビールの醸造所を訪れました。おいしかったです(笑)。ロイヤル・バレエの日本の団員たちは皆仲がいいんですよ!
【予告編】The Royal Ballet: The Nutcracker 2023 cinema trailer
取材・文=高橋森彦